税金の話➁
書き溜めに入ります
星川は穏やかに頷いた。
「はい。でもここでいくつかのルートは発生します。ちゃんと節税できる方法があることを説明しますね。まずは『青色申告』っていうのをしようとします。これは、毎日のお金の出入りをノートに書いて、国に申告する方法です。すると、特別に65万円を所得から引いてもらえる控除があるんです」
「控除って何ですか?」
「いくつか意味があるけど大きくは『取られる税金が減る』と思ってください」
「はい」
「現在基礎控除も最大95万円で、津村くんみたいな学生さんにはとっても有利です」
「青色申告をするには……帳簿をつけるんですか? 自分にできるでしょうか?」
「大丈夫です。私が手伝いますから。最初は簡単なアプリやエクセルで十分です。津村くんの今までの収入は10日で11000円ぐらいだけだから、まだ税金がかからないレベルです。でも、この大金が入ったらちゃんと計算して申告しなくてはなりません。それに、源泉徴収っていうのもあります。六角会が報酬を支払う時に、予め10.21%を引いて、国に納めてます。これは仮の税金で、後で確定申告で調整できるんです。この辺の調整は私の方でしておきます」
「た、助かります」
「それから次に大事なのが、津村くんのお母さん、裕里さんの治療費ですね。原発性肺動脈性肺高血圧症で、おおよそ年間500万円かかっていますね。これは『医療費控除』がぴったり合います。医療費が10万円を超えた分を、所得から引いてもらえる制度です。500万円ならほとんど全額控除できます」
「そ、そうなんですか」
「先日、お父様の文博さんに連絡して事情は把握しています。文博さんも医療費控除の件はわかっているようなので問題なく処理できます。裕里さんの領収書、薬代となども全部保管・把握なさっているようですので」
「父さんにもう連絡したんですか?」
「はい。まだ津村くんが高額の報酬をもらうことについては話していません」
「なるほどです」
「それを全部まとめて、私が確定申告の時に申請します。たとえば4450万円の所得から500万円引けるってことは、税金が数百万円減ります。六角会の権利のおかげで、医療機関とも連携しやすいし、今後の治療のサポートも任せてください。国の医療制度を最大限に活用するとお約束します」
それを聞き津村の目が潤んだ。意識せずに涙があふれた。母の病状を直視しないように過ごしてきたが、少しでもいい知らせを聞くことができると嬉し涙が流れた。
母・裕里は津村に「自分の病気にはかかわらず野球に専念して!」とずっと言い続けてきていた。母の強い思いを受け入れてきたが津村にはいつでも介護したい気持ちがあり、それが心の重荷になっていたのだ。
「母の治療……このお金があれば今後も続けられるんですね」
「はい。税金の見積もりで言うと、青色申告と医療費控除を合わせて、税金は2000万円前後くらいになると予想します。残りは津村くんの手元に残って、お母さんの治療費500万円をカバーできます。残ったお金は、家族の生活費や貯金に回すことも可能です。また学生向け探索者支援制度を含めて青色申告を行うのでご安心を――」
星川はふと真剣な顔になり、声のトーンが若干低くなる。
「そして、お父さんのこと――文博さんの2100万円の借金のことです。このことは何か聞いていますか?」
「2100万円の借金は初耳です……。父はリストラされて何か更に罰金を払うことになったとは聞いていますけど」
「そうですか。わたしが調べた限り、文博さんは前の会社から、書類偽造と虚偽の変更登記で会社を乗っ取っられる原因を作ったと一部の役員に訴えられてようです。でも、調査した限り文博さんが犯罪に巻き込まれた被害者の可能性は非常に高いんです!」
「そうなんですか……」
「文博さんの前の会社を乗っ取った会社はいわくつきで業界では有名な存在です。文博さんは会社内の派閥争いに利用されて、偽造書類にサインを強要された可能性が非常に高いです。文博さんには弁護士もついていないようだったのでやられたい放題にされていたようですね」
「じゃあ、今からでも弁護士を雇った方がいいんですか?」
「ええ。というかわたしは税理士兼弁理士兼弁護士なのでお任せください」
「えええ?」
「六角会にはあと2人弁護士がいるので文博さんの件は任せていただきます。証拠を集めて、裁判でちゃんと争う予定です。六角会の権利で、裁判所や警察との連携が早いから、様々な証拠を固めます。あまり深くは言えませんがいくつかのスキルを行使することもやぶさかではありません」
そういって星川はニヤリと笑った。
この時になって津村は星川という人物がなぜ六角の下で働いているのかが理解できた。星川もまた常人ではないのだ。
磯子が本来使えないはずの〈天啓〉を地上に行使したりしたが、星川も同様にイレギュラーな手段を持っているに違いないと考えた。
だが味方であるならばとてつもなく力強いのは確かだ。
「相手の手口が荒っぽいからすぐにボロが出て、賠償金をゼロにできる可能性が高いです。むしろ、相手から高額な慰謝料を取れると思います。いいえ、必ず敵に致命傷を与えて見せます!」
「……全然わかりませんが、父のことよろしくお願いします」
津村は冷や汗を流しながら頭を下げる。父が前の会社に罪をでっちあげられ借金を抱えていたことは知らなかったが、星川に頼れば何とかなると信頼できた。
今の津村ではとても何とか出来る件ではないのだ。
「お任せください。具体的には登記簿の履歴や筆跡鑑定を進めます。それから借金の清算はわたしが一任させていただきますので決して悪いようには致しません」
「お、お任せします」
「整理しますと4450万円が入ったら、まず青色申告で税金を計算して、医療費控除で節税。お母さんの治療費500万円を優先的に確保。お父さんの借金2100万円は、裁判で無効化を目指して処理していきます。探索者支援制度を活用していることの調整も行います。津村くんは高校生だから、お金の管理は信託銀行に預けて、親権者の文博さんが管理する形がベストだと思います!」
「星川さん……ありがとうございます。初めて聞くことばかりで、途方に暮れそうなことばっかりでしたが、何だか希望が出てきたように思います!」
「それはよかったです。正直にいってお役に立てることは非常にうれしいです。ですが一つ忠告をしておきますね。六角会は利用すべきですけど、あまり六角さんには近づかない方がよろしいと言っておきますね」
「えっ……そうなんですか」
星川の美貌が一瞬どす黒いものに変わる。
「アレは中身がガキなんで、とんでもない難題を平気でこっちに振ってくるところがあるんです!! 巻き込まれたらたまったもんじゃないですから。おまけに探索者じゃないのに強制的にダンジョン深部に連れていかれたり! 自衛隊に喧嘩を吹っ掛けたり、頭のネジが吹き飛んでいるとしか思えないことをしでかすんで、それだけは覚えていてください!!」
津村は頭がぽかんとなった。税金の話だけで脳がパンクしそうであったのに、父の知らなかった事実の件で限界を迎えていたのだ。
にも関わらず、星川の突然の暴露・暴言――津村は本気でどうしていいのかわからなくなった。
おまけに星川の六角への愚痴が結構長かった。




