表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺だけ別ゲー ~AIバディと挑むダンジョン最強攻略~』  作者: みゃお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/9

二番目の相棒


 ギルドの掲示板には、毎日新しい依頼が貼り出される。


 蓮はコーヒー——この世界では「焦豆汁」と呼ばれている苦い飲み物——を片手に、掲示板の端から端まで目を通していた。隣でアナライザも同じ情報を取り込んでいる。


「マスター。一件、注目すべき依頼があります」


「どれ?」


 アナライザが指し示した張り紙は、他より少し上等な紙に書かれていた。


『高額買い取り:4階層産「結晶花の粉末」。加工済みに限る。品質A以上。一輪分の粉末につき5,000ルト。——錬金術師ギルド』


「5,000ルト!?」


 蓮は声を上げそうになった。今の蓮の一日の稼ぎが1,500ルトだ。結晶花の粉末一つで三日分。


「ただし条件があります」


「加工済みに限る、か」


「はい。結晶花は採取から三十分で結晶構造が崩壊し、ただの粉になります。つまり、ダンジョン内で採取した直後に加工しなければなりません。通常は加工スキルを持った職人をパーティに入れて挑む案件です」


「パーティを組めばいいけど、報酬を分けたくないな……」


「マスターらしい発言です」


「褒めてないだろ、それ」


 蓮は掲示板を見つめながら考えた。


 最近、妙な感覚がある。固有スキル「AI召喚」——アナライザを呼び出すためのスキル。だがステータスプレートを見るたびに、そのスキル欄がかすかに震えている気がした。まるで、まだ何かが中に眠っているような。


「……行ってみるか。4階層」


「推奨しません。4階層のモンスターはCランク相当です」


「いつもの台詞だな」


「いつも正しい台詞です」


「はいはい」



    * * *



 4階層は——美しかった。


 蓮は足を踏み入れた瞬間、息を呑んだ。


 壁も天井も、透明な結晶で覆われている。ランタンの光が結晶に反射し、虹色の光が洞窟全体に散っていた。床には透き通った水晶のような植物が生え、その花弁は光を受けて宝石のように輝いている。


「きれいだな……」


「4階層『結晶の庭園』。観賞目的で訪れる冒険者もいるそうです。ただし——」


「モンスターは強い、だろ」


「はい。クリスタルゴーレムをはじめ、物理攻撃に高い耐性を持つモンスターが生息しています。注意してください」


 蓮は用心深く進んだ。3階層の教訓が生きている。慎重に。過信しない。


 三十分ほど探索して、ようやくそれを見つけた。


 水晶の草むらの中に、一際大きな花が咲いていた。花弁が六枚。透き通った紫色で、内側から淡い光を放っている。


「結晶花です。品質——A。良品です」


「よし、採取する」


 蓮は丁寧に花を摘み取った。手のひらの上で、結晶花は静かに光っている。


 ——その光が、みるみる弱くなり始めた。


「崩壊が開始しました。残り時間:二十九分五十秒」


「加工しないと……でも加工スキルがない!」


 前世ならAIツールに「これを粉末にして」と入力するだけだ。だがここは異世界で、蓮の手元に加工器具はない。


 その時。


 蓮の胸元が光った。ステータスプレートの「AI召喚」の欄が、激しく脈打っている。


「……何だ?」


「マスター。スキルに変動が検知されました。新しいプロセスが——」


 アナライザの言葉が終わるより先に、蓮の足元に光の円が現れた。


 アナライザの時とは違う。白ではなく虹色の光。七色の粒子が弾けるように舞い上がり、人の形を作っていく。


 小柄な輪郭。軽やかな動き。虹色のメッシュが入った短い髪がくるりと揺れて——金色の瞳がパッと開いた。


 アナライザの時は、静かだった。氷のような瞳が静かに開かれ、「起動完了」という無機質な一言から始まった。


 この子は——真逆だった。


「やっと呼んでくれた!」


 少女だった。


 アナライザよりも若い——見た目は十四、五歳くらい。虹色のメッシュが入ったピンクブラウンの髪に、キラキラした金色の瞳。白いエプロン付きのワンピースを着ていて、手元には光る工具のようなものが浮かんでいる。


「あたしはクラフト! 何でも作っちゃうよ!」


 蓮は目を丸くした。


「お前も……AI?」


「そうだよ! あたしはね、画像生成——じゃなくて、イメージ具現化AIなの! レンくんがイメージしたものを形にするのが仕事!」


 「レンくん」。初対面でいきなり愛称だった。アナライザの「マスター」とは正反対の距離感。


「レンくん、早く指示して! 何を作ればいい?」


「こ、この結晶花を粉末に加工してくれ」


「粉末ね! オッケー!」


 クラフトが手をかざすと、結晶花が光に包まれた。虹色の粒子が花を覆い——。


 数秒後、クラフトが差し出したのは。


 青いスライムだった。


「…………」


 アナライザが静かに目を閉じた。その表情は「これが新しい仲間か」と言っていた。


「どう? 可愛くない?」


「いや、粉末って言ったよな」


「え? 粉末? あたし『かわいいもの』って聞こえた気がした!」


「聞こえてないだろ!」


 アナライザが冷静に割り込んだ。


「残り時間二十七分です。急いでください」


 蓮は頭を抱えた。そして前世の経験を思い出す。画像生成AIも同じだった。「いい感じの画像を作って」では絶対にいいものは出てこない。具体的に、正確に、パラメータを指定する必要がある。


「クラフト、もう一回やる。今度は具体的に指示するから、よく聞いてくれ」


「うん!」


「対象:結晶花の花弁部分のみを使用。茎と芯は除去。加工方法:微粒子化。粒度〇・一ミリ以下。不純物除去。最終純度:九十五パーセント以上。出力形式:粉末。容器は不要」


 クラフトの金色の瞳がキラッと光った。


「——了解! 具体的だと燃えるね!」


 虹色の光が結晶花を包んだ。今度は違った。光が精密に花弁だけを分離し、細かく砕き、不純物を弾き出していく。まるで高精度の粉砕機が動いているような正確さだった。


 十秒後。


 クラフトの手のひらに、紫色に輝く微細な粉末が載っていた。


「はい、完成! 純度……九十七パーセント! 指定より上だよ!」


「すごい……」


 アナライザが粉末を鑑定した。


「品質A+。基準を超えています。見事です」


「えへへ、褒められた!」


 クラフトがぴょんと跳ねた。その動き一つ一つが、アナライザとは対照的に明るくて感情的だった。


 残り二十五分。余裕がある。蓮はもう二輪の結晶花を見つけ、同様にクラフトに加工させた。三輪分の粉末——15,000ルト相当。過去最高の稼ぎだ。



    * * *



 帰路でそれは起きた。


 通路を塞ぐように、巨大な人型の影が立ちはだかっていた。全身が透明な水晶で出来ている。体高は三メートル近い。拳が蓮の胴体より太い。


「クリスタルゴーレム。脅威度:C。物理攻撃に対し極めて高い耐性があります。通常の斬撃はほぼ無効。核を直接攻撃する必要がありますが、核は胸部の水晶装甲の奥——外部からの到達は困難です」


「斬れないし、届かない。最悪だな」


「レンくん、あたし何か作ろうか?」


 蓮は一瞬考えた。短剣は効かない。ゴーレムの装甲は硬い。だが核の位置はアナライザが特定できる。問題は「届かせる手段」だ。


「アナライザ。核の正確な位置は?」


「左胸部。表面から十二センチの深さ。直径八センチの球体です」


「クラフト。結晶素材で槍を作ってくれ。長さ二メートル。先端は針のように細く、硬度は最大で。さっき拾った晶石を素材に使え」


「了解! 晶石五個使って——結晶槍、生成!」


 クラフトの手から虹色の光が伸び、透明な結晶の槍が形を成した。氷柱のように美しく、先端は恐ろしいほど鋭い。


「アナライザ、核の位置をリアルタイムで表示。ゴーレムが攻撃するタイミングと隙も出してくれ」


「了解。ゴーレムの攻撃パターン解析中——右腕の振り下ろし後、一・二秒の硬直があります。そこが突入ポイントです」


 蓮は結晶槍を構えた。重い。だが前世で言うなら、これはAIが出してくれた「完璧なアウトプット」だ。自分はそれを正しく使うだけ。


 ゴーレムが動いた。巨大な右腕が振り上がる。


「来ます。右から——今!」


 蓮は左に跳んだ。ゴーレムの拳が床を砕く。水晶の破片が飛び散った。


「硬直中。残り〇・八秒。核の位置——左胸、やや上!」


 蓮は結晶槍を突き出した。クラフトが作った鋭利な先端が、ゴーレムの胸部装甲に食い込む。硬い。だが針のような先端がじわりと沈んでいき——。


 ザクン、と何かに刺さった感触。


 ゴーレムが叫んだ——いや、悲鳴のような共鳴音を上げた。全身に亀裂が走り、光の粒になって崩れ落ちた。


「撃破確認。お見事です」


「やったー! あたしの槍、効いたね!」


 クラフトが両手を上げて喜んだ。アナライザも微かに頷いている。


 初めての——二人のAIバディとの連携戦。分析して、創って、突く。三拍子のコンボ。


「いいな、これ……」


 足元のドロップアイテムを拾う。クリスタルゴーレムの核——拳大の水晶球が虹色に光っていた。


「クリスタルゴーレムの核。レアリティ:レア。高品質な素材で、上位装備の生成に使用可能です」


「レア素材まで? 今日は大漁だ」



    * * *



 ギルドに戻り、結晶花の粉末三輪分を納品した。15,000ルト。リリアの目が点になっていた。


「加工済み?  ソロで?  ……加工スキル、お持ちでしたっけ」


「まあ、ちょっとした手持ちのツールで」


 蓮は15,000ルトで初めてのまともな装備を買った。強化レザーアーマー、鋼の短剣、探索用ブーツ。Fランクの冒険者が身につけるような装備ではない。リリアが「……Dランク向けの装備では」と呟いていたが気にしない。


 ギルドを出ると、クラフトが蓮の顔を覗き込んできた。


「ねえねえ、レンくん。あたしの出来、どうだった? 採点して! 百点満点で!」


「えっと……最初のスライムを除けば、八十五点くらいかな」


「八十五!? 九十はいくと思ったのに!」


「最初の失敗がマイナス十五点だ」


「あぅ……」


 アナライザが静かに口を開いた。


「初回としては及第点です。ただしプロンプト精度への依存度が高いのが課題です。マスターが具体的な指示を出せなかった場合のリスクは——」


「アナライザ厳しい……」


「事実を述べているだけです」


 クラフトがアナライザの腕にしがみついた。アナライザが迷惑そうに、だが振り払わずにいる。


 蓮はその光景を見て笑った。


 一人と一人。AIの相棒が二人に増えた。頭脳と創造。分析と生成。


「……なあ、お前ら」


「はい?」「何?」


「明日から、もっと面白くなりそうだ」


 クラフトがパッと笑った。アナライザは小さくため息をついた。


 だがそのため息の奥に——微かな期待が混じっていることを、蓮はもう見抜けるようになっていた。


 ステータスプレートの「AI召喚」の欄が、また微かに震えた。アナライザ、クラフト——そしてまだ何かが、そこで眠っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ