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『俺だけ別ゲー ~AIバディと挑むダンジョン最強攻略~』  作者: みゃお


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2/5

分析完了。弱点は——


 1階層のスライム狩りを三日続けた。


 最初はアナライザの分析に十秒以上かかっていたが、三日目には二秒で結果が返ってくるようになった。スライムの行動パターンは完全にデータ化され、もう考えるまでもない。


「次。右方向、四メートル先」


「了解。対象確認。分析不要——スライム亜種、酸性タイプ。弱点は同じく火属性ですが、酸の射程が通常種の二倍です」


「了解」


 松明を振るう。もはやルーティンワークだ。


 蓮はドロップしたスライムゼリーを拾いながら、アナライザに声をかけた。


「そろそろ2階層に行こう」


「……マスターの戦闘力では、2階層のモンスターに対応するのは困難です」


「でもお前の分析速度はかなり上がっただろ? データが増えれば、お前はもっと強くなれる」


 アナライザは一瞬沈黙した。


「……合理的判断です。賛成します」


 それは賛成というより、情報が欲しいというAIの本能のようなものだったかもしれない。



    * * *



 2階層は、1階層とは空気が違った。


 通路の幅が狭くなり、天井が低い。松明の灯りが届かない暗がりが増え、奥から獣のような鳴き声が反響してくる。


「アナライザ、環境分析」


「実行中。気温が1階層より三度低下。湿度上昇。音響反響パターンから推測すると、この先の空間は広間状の構造です。モンスターの生息数は1階層の約二倍」


「了解。慎重に行く」


 蓮は壁に背をつけながら進んだ。


 最初に遭遇したのはゴブリンだった。小柄で醜い緑色の人型モンスター。短い槍を持ち、こちらを見つけると甲高い声で威嚇してきた。


「分析」


「対象:ゴブリン。脅威度:D。知能が低く、攻撃パターンは単純。ただし群れで行動する習性があります。この個体は——単独です」


「単独なら問題ないな」


 蓮はゴブリンの突きをかわし、短剣で急所を突いた。1階層で三日間培った戦闘の感覚が生きている。ゴブリンは悲鳴を上げて消滅し、小さな牙のドロップアイテムが残った。


「ゴブリンの牙。コモン素材。市場価格は8ルト」


「スライムゼリーよりマシか」


 二体目、三体目のゴブリンも同様に処理した。アナライザのデータが蓄積されるたびに、分析の精度が上がっていく。三体目では攻撃パターンの予測まで出してくれるようになった。


 蓮が鼻歌交じりに進んだ時だった。


 曲がり角の先に——それがいた。


 巨大な狼。体高は蓮の胸ほどもある。全身が灰色の金属のような質感で覆われ、松明の火がその表面で鋭く反射している。赤い目が蓮を捕えた。


 ——これは、スライムとは次元が違う。


 蓮の体が本能的に強張った。


「アナライザ……」


「対象:アイアンウルフ。推奨討伐ランク:D。マスターの現在のランクはFです。撤退を推奨します」


 推奨Dランク。二段階上。普通のFランク冒険者なら、見た瞬間に逃げる相手だ。


 アイアンウルフが低く唸った。逃がすつもりはないらしい。後ろの通路も、この獣のスピードでは逃げ切れない。


「……逃げられないなら戦るしかないか」


「マスター、無謀です」


「わかってる。でも選択肢がない。——アナライザ、こいつをフル分析してくれ。見た目の特徴、動き方、攻撃パターン、素材組成、弱点、全部だ。使えるデータは全部出せ」


 蓮の声に迷いはなかった。前世で培った癖だ。厳しい仕事ほど、まずAIに情報を出させる。情報があれば戦える。


 アナライザの瞳が強く光った。


「……了解。フルスキャン実行中。推定処理時間——六十秒。マスター、その間持ちこたえてください」


「六十秒?!」


 アイアンウルフが地を蹴った。


 蓮は横に転がるように跳んだ。狼の鉄の爪が空気を裂き、蓮がさっきまで立っていた石壁にえぐるような傷を残す。


「うっそだろ……!」


 一撃がかすっただけで即死だ。蓮は狭い通路を走った。幸いにも2階層は通路が入り組んでいる。直線なら追いつかれるが、角を曲がり続ければ——。


「残り四十五秒」


 アイアンウルフの咆哮が背後から追ってくる。壁を蹴って方向転換する音。速い。


「残り三十秒」


 蓮は角を曲がり、行き止まりを見つけて引き返し、別の通路に飛び込んだ。心臓がうるさい。足がもつれそうになる。体力ステータスCがギリギリで蓮を走らせていた。


「残り十五秒」


 再び角を曲がった先で、アイアンウルフと正面から鉢合わせた。


「っ——!」


 反射的にしゃがむ。頭上を鉄の牙がかすめた。髪の毛が数本持っていかれる。


「分析完了しました」


 アナライザの声が響いた。


「報告を。——全部だ」


「アイアンウルフ。全身を覆う鉄質の外皮は物理攻撃をほぼ無効化します。ただし、弱点が二箇所あります」


 蓮は狼の突進を柱の陰に隠れてやり過ごしながら聞いた。


「一つ、後脚の関節部。鉄皮が薄く、鋭利な刃物であれば貫通可能です。二つ、この個体は右旋回時に〇・三秒の遅延があります。右に回り込むことで攻撃のタイミングが生まれます」


「後脚の関節……右旋回が遅い……」


 蓮の頭が回転した。前世で何千回とやった作業——AIの出力を読み取り、戦略を組み立てる。


「アナライザ、もう一つ頼む。攻撃予測をリアルタイムで出し続けてくれ。あいつが動く〇・五秒前に、どっちに来るか教えろ」


「了解。リアルタイム予測モード——起動。ただし、マスター。この処理は負荷が高く、長時間の維持は困難です」


「短期決戦だ。一分で終わらせる」


 蓮はゆっくりと柱の陰から出た。アイアンウルフが蓮を見つけ、身を低くする。


「来いよ」


 アイアンウルフが跳んだ。


「右から来ます」


 蓮は左に動いた。鉄の爪が空を切る。


「次、左下から突き上げ」


 右に転がる。顎が地面をえぐった。


「正面突進、三秒後」


 蓮は狭い脇道に身を滑り込ませた。アイアンウルフは勢い余って通り過ぎる。


 ——ここだ。


 通り過ぎた狼の後脚が、一瞬だけ蓮の目の前を通過する。


 蓮は短剣を逆手に持ち替え、全体重を乗せて突き刺した。


 後脚の関節部——アナライザが指摘した、鉄皮が薄い一点。


 ぐちゅり、と刃が沈む感触があった。


 アイアンウルフが絶叫した。後脚が崩れ、巨体がよろめく。蓮は反対側に回り込み——右旋回が遅い——もう一方の後脚にも短剣を突き立てた。


 二本の後脚を失った狼は、前脚だけで蓮を振り返ろうとした。だが遅い。


「——悪いな」


 蓮はアイアンウルフの首筋に、最後の一撃を叩き込んだ。


 沈黙。


 アイアンウルフの巨体が光の粒になって崩れ、ドロップアイテムが床に散らばった。


「……勝った?」


「勝利です、マスター」


 蓮はその場にへたり込んだ。全身が震えている。膝が笑っていた。でも、口元は笑っていた。


 ——勝った。情報だけで、勝った。


「死ぬかと思った……」


「実際、生存確率は当初二十三パーセントでした」


「それ後から言うな」


「……申し訳ありません」


 蓮は呼吸を整えてから、ドロップアイテムを確認した。


 灰色の牙が一つ。蓮は何気なく拾おうとして——手が止まった。


 隣にもう一つ、何かが光っている。小さな石。内側から風のような青い光が渦を巻いていた。


「これは……?」


 アナライザの瞳が光った。


「鉄狼の牙。アンコモン素材。市場価格は約200ルト。そして——」


 アナライザが声を止めた。珍しいことだ。


「……そして?」


「疾風のスキル石。レアリティ:レア。装備にはめ込むことで移動速度を強化するスキルが付与されます。格上撃破によるドロップ率ボーナスが適用されたようです」


「レア……?」


 蓮は青い石を掲げた。ダンジョンの薄暗い光の中で、石は静かに輝いている。


「ランク差二段階の格上を倒すと、こういうご褒美があるってことか」


「はい。リスクに見合う報酬が設定されている——合理的なシステムです」


 蓮は思わず笑った。


「これはハマるな……」


 スキル石を短剣の柄にはめ込むと、ほのかな風が足元を包んだ。歩くたびに体が軽い。移動速度が明確に上がっている。


「いいじゃないか。帰ろう、アナライザ」


「了解です」



    * * *



 ギルドに戻ると、いつもより賑やかだった。冒険者たちがカウンター付近で酒を飲みながら騒いでいる。


 蓮がリリアに素材を渡して換金していると、背後からドスンと重い足音が近づいてきた。


「おい」


 振り返ると、筋肉質の大男が腕を組んで立っていた。短く刈り上げた赤毛に、顎に走る古い傷跡。その後ろに二人の仲間を連れている。いかにも「パーティ」という風貌だ。


「お前、Fランクの新人だろ?」


「……ええ、はい」


「Fのくせに2階層をうろついてるって聞いたぞ。身の程を知れよ。2階層はDランクの俺たちの縄張りだ」


 胸のギルドカードが見えた。ランクD。パーティ名『鉄の牙』。


 蓮は面倒くさそうに視線を戻した。


「別にどこを探索しようと自由でしょ。ギルドのルールにも1階層から3階層までは行ける、って書いてありますよ」


「あ?」


 赤毛の男——ガルドが目を細めた。周囲の冒険者たちが少し引いている。


 蓮の隣でアナライザの瞳が一瞬光った。彼女は蓮にだけ聞こえる声量で耳打ちした。


「彼らのパーティ『鉄の牙』。装備品質はDランク下位。推定実力はD中位。脅威度は低いです」


 蓮は小さく吹き出した。


「——何がおかしい」


「いえ、何でも」


 蓮はスキル石の入った短剣をしまい、換金した200ルトをポケットに入れた。ガルドの横を通り過ぎる。


「忠告はありがたいですけど、心配しなくてもちゃんと生きて帰ってきてますんで」


 ガルドは何か言おうとしたが、蓮は既にギルドの出口に向かっていた。


 背後でガルドの仲間が「あのFランク、生意気だな」と呑くのが聞こえた。ガルドだけが、蓮の足元の短剣——そこにはまった青いスキル石を、目ざとく見つめていた。


 蓮は気にしなかった。前世でも、AIを使いこなして成果を出すたびに「ズルい」「楽してる」と言われてきた。自分が結果を出せるかどうか——それだけが重要だ。


「アナライザ、今日のレポート」


「了解。本日の戦果です。ゴブリン討伐:四体。アイアンウルフ討伐:一体。獲得素材:ゴブリンの牙四本、鉄狼の牙一本、疾風のスキル石一個。総換金額:232ルト。データ蓄積量は昨日比百七十パーセント増。なお——」


「なお?」


「私の分析精度も向上しています。2階層のデータが加わったことで、モンスターの行動予測モデルの精度が十二パーセント改善しました」


「いいね。お前が強くなれば、俺も強くなれる」


 夕暮れの街を歩きながら、蓮は考えた。


 レアドロップ。格上撃破ボーナス。成長するAIバディ。


 このゲームのルールが、少しずつ見えてきた。


「……明日は2階層の奥まで行ってみよう。3階層の入り口がどこにあるか、データを取っておきたい」


「推奨ルートを組み立てます。ただし、アイアンウルフ遭遇の確率も上昇しますが」


「今日勝てたんだ。次はもっと楽に倒せる」


「根拠は?」


「お前のデータが増えたからだろ」


「……それは、そうですね」


 アナライザの口元が、ほんの少しだけ持ち上がった——ように見えた。


 多分、気のせいだ。


 多分。


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