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魔王■殺  作者: s
3/6

変化


鐘の音が耳の奥に残っている。




青空。白い石畳。噴水。歓声。


何度見ても、ここは始まりの顔をしている。


 


手の甲の紋章が光る。神官が涙ぐむ。祝福が降り注ぐ。


俺だけが知っている。


この先に、必ず途切れがある。


そして、魔王は何かを隠している。




確定だ。




同じことを繰り返して、同じ終わり方をするのは、もうやめる。


今回は変える。





準備を一つだけ増やした。


封印札。術式の繋がりを鈍らせる、薄い膜。


 


フィオナは眉をひそめた。


「城内の魔力濃度は多分高い。効果は薄いと思う。」




「薄くていい」


効くかどうかを、確かめたいだけだ。




フィオナが笑う。


「勇者さま、最近ずっと顔怖いよ? 大丈夫?」




「大丈夫」


嘘だった。




レオが肩を叩く。


「ま、勝てばいいんだろ。勝とうぜ」


 


ミレイアが短く言う。


「勝つ」




その断言が、やけに眩しかった。





魔王城。


 


霧が絡みつく。空気が重い。足音が吸われる。


俺たちが踏み込んだ瞬間、魔物が雪崩れ込んできた。


 


「クロノス!」


レオが叫ぶ。


 


「先に行け! ここは俺たちが止める!」


ミレイアが盾を構える。フィオナが短く祈る。


 


いつもの形。


俺は頷いて、階段を駆け上がった。


変えるのは、ここからだ。


 




最上階。


黒曜の床。欠けた柱。溶けた彫刻。玉座の前に魔王が立っている。




「……ここまでか、勇者」


俺は返事をしない。封印札を床に叩きつけた。


白い光が走る。薄い膜が広がる。空気が一瞬だけ軽くなる。




魔王の目が、ほんの少し揺れた。




――効いた。わずかでも。


俺は一歩踏み込む。




「……俺を殺せるはずだ」




「殺せる」




「なら、なんでやらない」


沈黙が落ちる。




魔王の指先がわずかに動く。


閉じる。あの動き。




「やめろ!」




俺は剣を捨てた。床を転がる高い音が、やけに鮮明だった。


両手を伸ばす。魔王の手首を掴む。


指が閉じる前に。




冷たい。人の皮膚の冷たさだ。


なのに、重い。


魔王の目が見開かれる。




「……っ」


息だけが漏れた。




「止める。……今回は止める」


魔王の指先が震える。




「離せ」


低い声。感情が混ざった。




「離せ、勇者」




「嫌だ」


即答だった。




腕が痛い。歯を食いしばる。




「……話せ。ここで」




沈黙。




魔王の指先から、ほんの少しだけ力が抜けた。




いける。


そう思った瞬間。




魔王は、腰の剣に手を伸ばした。




「……おい」


声が掠れる。




刃が抜かれる。灯りを吸って黒く光る。




「やめろ!」




俺は腕を伸ばす。


間に合わない。




魔王は自分の喉元に刃を当てた。




一瞬、目が揺れた。


言葉にならない揺れ。




次の瞬間、刃が走った。


赤が弾ける。


魔王の膝が崩れる。




「……っ、魔王……!」


俺の手が伸びる。支えようとして――支えきれない。


重さが、するりと抜けていく。


剣が床に落ち、乾いた音を立てた。




そして


心臓が裏返る。肺が縮む。視界が反転する。


さっきまで掴んでいた手首の冷たさが、遠くなる。




(……また、これか)




音が途切れた。


俺の声も、血の落ちる音も、遠くの衝撃も。途中で断線する。


色が抜ける。熱が消える。


痛みだけが置き去りになる。




世界が、途切れた。





眩しさ。


青空。


歓声。


手の甲の光。


 


「勇者さま! あなたが、勇者です!」




戻された。




俺は息を吸った。吸えてしまう。


喉の奥に残る鉄の匂い。


手首に残る冷たさ。


そして、あの裏返る感覚。


 


魔王は、俺にやられたんじゃない。


自分で終わらせた。


俺は手の甲を見つめた。光は何も答えない。


 


(次は……もっと前だ)


魔王城に辿り着く前から変える。


そう決めた瞬間、胸の奥が冷えた。


 


そしてそれは、あいつの望む形じゃない気がした。

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