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千の目をもつ天使 ~異能地獄変~  作者: 坂本光陽


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荒川河川敷決戦①


 ヒカルの眼球自動車は、相変わらず疾走していた。


 入ってきた時とは反対方向のシャッターを突き破って倉庫の外に出ると、ヒカルは蛇行運転をしながら、後方の気配をうかがっている。ビル・クライムが追ってくるのを待っているのだ。


 なかなかビルは出てこない。眼球自動車は痺れを切らしたように、雑草が生い茂った斜面を駆けのぼった。一気に上り詰めると、堤防を走る一本道に出る。


 通行人や通行車両は見当たらないのは、夜が更けているせいだろうか?

 いや、これは明らかに不自然だ。倉庫内の戦闘による大音響が周囲に伝わったはずだが、周辺の街並みはシンと静まり返っている。


 実は、上空から見ると、倉庫と河川敷を含む一角が、巨大なドームに飲み込まれていた。その薄暗い皮膜で形成されたドーム〈壁包ウォールカバー〉は、普通の人間には入ることができない閉ざされた空間だった。

 それは一言でいうと、結界だった。もちろん、ヒカルの仕業である。


 眼球自動車のヘッドライトに照らされて、一つの影が浮かび上がった。不敵な笑みを浮かべたビル・クライムである。余裕たっぷりに肩をすくめて、

「ここでやりあろうというわけか。周りの人間に迷惑をかけないように気を遣うとは、日本の神々は情け深い。その優しさは、やはり国民性かね?」


「いえいえ、単に、事後処理の手間を省くためです。ほら、目撃者の記憶消去って、めちゃくちゃ面倒でしょ。この辺りには数百人もいるから、下手したら夜が明けちゃうよ」

「そんなに騒がれたくないのか。やはり、日本の神々はやはり慎み深い」

「いやいや、私はどうでもいいんだけど、他の連中がうるさくって。だから……」


 いきなり、ビルの頭部が弾けた。頭蓋骨の破片が飛び散り、ピンク色の脳しょうが辺りにぶちまけられる。次の瞬間、糸の切れた操り人形のように、ビルの身体は崩れ落ちた。


 ヒカルは荒川の対岸を見やり、草むらに潜んでいたスナイパーに右手を上げた。

 M16を手に姿を現したスナイパーは、黒のライダースジャケットとレザーパンツを身に着けていた。惚れ惚れしそうな美しいボディラインを浮かび上がらせている。

 彼女はM16を仕舞うと、素早くSR400にまたがった。フルスロットルで堤防を走り抜け、鉄橋で荒川を渡ると、ほんの数分でヒカルの元にやってきた。


 久慈川ジーナだった。ヒカルを尾行していたが、〈神鏡全開スクープ・ミラーズ〉によってすべてを暴かれて、戦闘不能に陥った殺し屋である。

「ヒカルさん、下がってください」

 ジェリコ941を取り出すと、銀の弾丸を全弾、ビル・クライムの身体に撃ち込んだ。


 なぜ、ジーナがここにいるのか? なぜ、ヒカルのために働いているのか?

 実は〈神鏡全開〉を受けた後で、速やかなマインドコントロールがなされたのである。それは洗脳のような強制的なものではなく、穏やかに導かれた精神的な同調であり、共感作用だった。


 ヒカルを狙っていた殺し屋が今や、ヒカルの忠実な従僕と化していた。いや、もしジーナに訊いてみれば、ヒカルは私の親友だよ、と真顔で訂正されるかもしれないが。


「やはり、並みの化け物ではないですね。銀の弾丸でも死なないようです」

 ジーナの言う通り、ビルの首なし死体は、不気味な再生を始めていた。飛び散った脳髄と脳しょうが一つにまとまり、その周りを頭蓋骨や血管,神経が覆っていく。


「ううん、時間稼ぎが目的だから、これでいいの。ジーナのスポンサーが元通りになったら、もう一度頭部を破壊してね」

「ヒカルさん、何いってるんですか。私のスポンサーはあなたですよ」

「ああ、そうだったね。じゃ、言い直そう。ジーナの元スポンサーね」


 久慈川ジーナの雇い主は数時間前まで、ビル・クライムだった。ビルから下された命令はヒカルの行動確認であり、最終的な目標はヒカルの捕獲だった。もっとも、そのミッションは、あっさり失敗に終わってしまったわけだが。


 ヒカルは倉庫の方を見やり、ポツリと呟く。

「遅いなぁ。理市の奴、何を手間取っているんだか」


 その時、大音響とともに倉庫の壁が破壊された。理市が喰いちぎった触手をくわえたまま、壁の穴から飛び出てくる。アスファルトを蹴って、高々とジャンプした。堤防の上に着地するや、触手を吐き捨てる。


 鬼と化した理市は、全身の筋肉が盛り上がり、2メートルを超す巨体になっていた。

 後を追うように、〈触手の王〉が壁の穴を広げながら這い出てきた。触手をくねらせながら、重戦車のように斜面を登ってくる。


「見ろ、ジーナ。東洋と西洋の異形のそろい踏みだよ。ともに神々のサーヴァントという名目だけど、改めて見ると、怪物というか怪獣だな、ははははっ」

 ヒカルは愉快そうに笑っているが、現実主義者のジーナは赤鬼とタコの化け物を目の当たりにして、呆然としていた。ミッション中に気をそらすなど、普段のジーナにはありえないことだが、この情景の前では仕方がなかっただろう。


 だが、敵の逆襲を許してしまったとあれば、話は別である。

 いきなり、ジーナの足首にピンク色の触手がからみつき、彼女を引き倒したのだ。触手の主は、ビル・クライム以外にはありえない。ヒカルとジーナの隙を突いて、〈旧支配者の末裔〉は再生を行い、逆襲に転じたのである。



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