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千の目をもつ天使 ~異能地獄変~  作者: 坂本光陽


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6時間の命①


 人間は死ぬ。必ず死ぬ。誰でも例外なく、いつかは天に召される。


 理市はチーマー時代に悪業あくごうを重ねてきたので、天国行きはありえないだろうし、地獄に行くにちがいない、と考えていた。だから、目を覚ました時、ここは地獄なのか、と思った。


 闇に包まれた世界だったが、完全な闇ではない。天空には、満ちた月が浮かんでいるし、星だって数多く見えていた。地獄にしては不思議と、慣れ親しんだ娑婆しゃばとよく似ていた。


 というより、これは娑婆ではないか。陽がすっかり暮れていたが、元の区民公園であることは間違いない。脱力感が酷かったので、しばらく芝生の上に横たわるつもりが、ぐっすり寝込んでしまったらしい。


 異形美少女ヒカルとの再会は、まさか夢だったのか? いや、それはない。あのリアルさが夢であるはずがない。その証拠に、胸の奥を探られた不快感は、まだ残っている。


 理市は両脚に力を込めて、ゆらりと立ち上がる。仮眠をとったせいか、脱力感と不快感は幾分ましになっていた。軽くストレッチをして、強張こわばった身体をほぐす。


 ふらりと歩き始めた時、聞き覚えのある鳴き声が空から降ってきた。

「まだ、生きていたか人間、意外としぶといキューね」

 見上げると、クスノキの枝に、求丸が逆さにぶら下がっていた。くるりと宙返りをして、理市のところまで降りてくる。


「ああ、しぶとさだけは昔から自信がある。頑丈な身体に産んでくれた両親には大感謝だな。父親なのか母親なのか知らないが、赤ん坊の俺を病院の前に置き去りにしたことで、その感謝は相殺そうさいだけどな」


 したがって、理市は肉親の思い出がなかった。思慕も恨みも一切ない。いくら想像力を駆使してみても、何も思うところがない。親の気持ちはわからなかったが、江美と結婚して美結という娘を得た時、家族愛らしきものを感じることができた。そうなって、ようやく思い至った。両親にも何らかの事情があったのだろう、と。


「やれやれ、人間は身の上話が好きだな。俺っちは全然興味がないんだが、長くなりそうかキュー?」

「いや、気まぐれに口をついただけだ。俺だって、身の上話を語る趣味はない」理市は肩をすくめた。「それより、何か用件があるんだろ? ヒカルからの伝言かキュー?」

「ああ、そうだった。よくわかったな。耳をかっぽじって、よく聞くキューよ」


 クスクスとヒカルそっくりの笑い声が、求丸の口から聞こえてきた。

「犬飼理市、おまえの体内に、〈響き眼〉の残りかすが残っている。三年のうちに、根深く心臓に癒着してしまったんだな。結果的に、その残りかすが幸か不幸か、まだ〈響き眼〉の役割を果たしている。けど、命拾いをしたと思うなよ。はっきり言って、効果は長くは続かない。限られた時間の中で、理市がどう悪あがきをするのか、そいつが見ものだな」

 日頃から口真似をしているのか、ヒカルそのものの声音こわねだった。


「限られた時間ってどれぐらいだ? 一ヵ月か、一週間か?」

「バカ、少しは頭を使え。そんなに長いわけないだろ。5,6時間だ。〈響き眼〉の残りかすは、長くても6時間しかもたない」


 理市は絶句した。

「へへっ、その6時間で理市が何をするのか? たっぷり見物させてもらおう」求丸は少し間を取って、「というのが、ヒカルからの伝言だっキュー」


 理市が自嘲気味の笑みを浮かべた。

「たったの6時間かよ」

 意外と冷静である。時間は限られているのだ。怒ったり嘆いたりしている暇はない。森の中で復活してから、ずっと危機感と背中合わせに生きてきたのだ。生と死の狭間でゆれるタイトロープには慣れ親しんでいると言っていい。


 理市は恐怖を感じていないわけではない。もし恐怖に囚われれば臆病風に吹かれて、一歩を動けなくなるだろう。そうならないためには、まず行動を起こすことである。


 限られた時間をどう使う? どこに行って、何をすべきか? あれこれ迷っている暇はない。理市は素早く頭を巡らせた。


 答えはすぐに出た。この世から消える前に、最上をぶっ殺す。何が何でもぶっ殺す。俺をぶちのめした黒井の奴とまとめて、復讐を果たすのだ。


 生まれ変わった理市が完膚かんぷなきまで叩きのめされたのは、この二人だけである。〈響き眼〉で超人的な能力をもちながらの、完全な敗北だった。他の連中なら強靭な肉体とスピードで圧倒してきたが、最上と黒井は規格外の強さだったのだ。


 最上にいたっては異形であり、文字通りの化け物である。

 なら、どうするか? 結論は一つだ。もはや手段を選んではいられない。何が何でも、江美と美結の復讐を果たす。どんな汚い手を使っても、黒井を完膚なきまでに叩きのめす。

 

 何といっても残されているのは、6時間だけなのだから。



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