女性襲撃者②
理市は直感した。これは石礫ではない、もっと厄介なものだ、と。
「おい、もしかして、俺たちは銃撃を受けているのか?」
「俺たちじゃない。狙われているのは、私だけ」ヒカルは溜め息を吐く。「町中では襲ってこないと踏んでいたんだけど、ここは格好の場所というわけか」
「何をゴチャゴチャと言ってる。ヒカル、早くここから離れるっキュー」
ヒカルは素直に、求丸のアドバイスを聞き入れた。くるりと背中を向けると、さっさと立ち去っていく。理市に関しては、すっかり興味を失ったようだ。その後もしばらく銃声は続いたが、ヒカルが暗闇にまぎれると、それもあっさり止んだ。
襲撃者の狙いがヒカルあることは間違いなさそうだった。いつのまにか、辺りの気温が上昇していた。ヒカルが立ち去ったので、ドーム状の皮膜〈壁包〉も消えたのだろう。
一人とり残された理市は、クスノキの根元に座り込んでいた。脱力感と不快感は相変わらず続いている。何者かの足音が近づいてきたが、立ち上がることすらできない。
「おい、大丈夫か?」
理市が顔を上げると、長身の女性が目の前に立っていた。
黒のライダースジャケットとレザーパンツが身体にフィットして、しなやかな体躯を浮かび上がらせていた。バランスのとれた伸びやかな四肢をしている。涼し気なショートカットと相まって、まるでアスリートのようだ。
エキゾチックな風貌は、外国人モデルのように見える。その切れ長の大きな眼は、理市を睨んでいた。明らかに殺気を孕んだ顔つきである。
まさか、この女が撃っていたのか? ヒカルを狙って? 何が目的だ? 警察じゃないし、ヤクザでもない。堅気でもなさそうだが……。理市は素早く、考えを巡らせる。
「何とか言えよ」
ライダー女のセリフは常にワンセンテンスだ。無駄口を叩かないタイプらしい。
「ああ、大丈夫だ。しっかり生きている」
脱力感と不快感は半端ないが、理市は男の意地とやせ我慢を優先した。
「それはよかった」
ライダー女の右手がスッと持ち上がった。ゴツゴツとした拳銃が握られている。ジェリコ941、イスラエル製の自動拳銃。通称「ベビーイーグル」。ヒカルを銃撃していたのは、やはり彼女だったのだ。
「答えろ。今しがた、アンノウンと話していたな?」
「アンノウンというのは何だ? ヒカルのことか?」
「あの女は化け物だぞ。人間みたいな呼び名はよせ」ライダー女は吐き捨てるように言った。
「おい、あんたは一体なんだ?」
「質問しているのは、こっちだ」
「とりあえず、物騒なものを下げてくれ。美女には似合わない代物だ」
理市は微笑んでみせたが、ライダー女の冷笑をかっただけだ。
「その美女を喜ばす情報はないのか? アンノウンと貴様の関係は?」
「ノーコメントといったら怒るか?」
銃声とともに足元で土煙が上がった。理市は慌てて、両手を上げる。
「何だ、冗談も通じないのかよ。乱暴なヤツだなぁ。ヒカルとはさっき、三年振りに会ったんだ。あいつの情報なんざ、何も持ち合わせていない」
「ふん、だろうな。貴様には元々、何の期待はしていない」
だったら訊くな、と言いたいところだが、理市は自制した。
「教えてやろう。アンノウンの見かけに騙される男は多いだろうが、あれは〈歩く災厄〉だ。関わった人間は皆死んでいるらしい。貴様も例外じゃない。その身体は遠からず朽ち果てる」
「そうかい。だとしても、俺はこの世に未練はないね」
理市は肩をすくめて苦笑するが、彼女の表情は変わらない。
「ふん、時間を無駄にしたな」
ライダー女はあっさり理市に背を向けて、軽やかに立ち去っていく。おそらく、ヒカルを追っていくのだろう。一体、何者なのか?
理市はライダー女の正体に想像を巡らせる。日本語は流暢だったが、イントネーションから判断して、やはり外国人なのかもしれない。荒っぽい威嚇射撃といい、ジェリコ941といい、海外の特殊部隊だろうか。
理市の心に引っかかったものが、もう一つある。「貴様の身体は遠からず朽ち果てる」というライダー女の言葉である。脱力感と不快感が続いていることもあり、直感的に正しいと思ってしまったのだ。




