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千の目をもつ天使 ~異能地獄変~  作者: 坂本光陽


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女性襲撃者①


 理市の胸は、なぜか無傷だった。クラゲもどきを摘出されたはずなのに、素肌はツルンとしている。強制徴収を受けた穴はおろか、引っ掻き傷すら見当たらない。


 美少女の右手は確かに、理市の体内に侵入して、乱暴にまさぐった。コットン製のシャツに大穴を開けて、胸を突き破ったはずである。それを無傷でやってのけたヒカルは、やはり異能の持ち主なのだろう。


 理市は全身の力が抜けて、ペタンと尻餅をついた。まるで身体の一部、それも重要な臓器を失ったような気分だった。突然、ひどい悪寒に襲われた。ガチガチと歯が鳴った。死にたくなるような不快感である。


 そんな理市に見向きもせず、ヒカルは満面の笑顔で、クラゲもどきを高く掲げた。舌なめずりをしたので、まさかと思ったが、案の定、ひょいとクラゲもどきを口の中に放り込んでしまった。


 ヒカルはクチャクチャと咀嚼(そしゃく)している。元は自分の眼球であり、今はグロテスクなクラゲもどきだが、意外にも大変な美味であるらしい。目元を紅潮させて、輝くような笑顔を浮かべている。夢見るような表情を浮かべている。


 恍惚(こうこつ)とした美少女は、たまらなくセクシーだった。ついさっきまで怒っていたのに、もう機嫌は治ったのだろうか? 超自然の存在ゆえに、人間がらみの些末事(さまつごと)には大らかなのか?


 なら、そこにつけ込むべきだろう。理市は目ざとく、そう判断した。

「ヒカル、さっきから俺の身体が変なんだ。ひどく寒くて、吐き気だってある。身体のあちこちが、めちゃくちゃ痛い」

「そりゃそうでしょうよ。血と肉を響かせていた、もう一つの心臓みたいなものを奪い取っちゃったんだもの。身体がおかしくなって当然よ」


「ああ、そうなんだ。ということは、俺はこのまま死ぬのか」

「ああん、聞いてなかったの? さっき、そう言わなかったっけ?」呆れ声が返ってきた。


「……いや」理市は少しでも同情を引こうと、努めて情けない声を絞り出す。「ヒカル、頼む。もう一度、助けてもらえないか? 三年前みたいに」

「はははっ、それは無理。できない相談だよ。一度は失った命だし、そもそも理市の自業自得なんだから、あきらめてちょうだいね」ヒカルは笑顔のまま、冷ややかに言い放った。


「……死ぬのか? 俺は死ぬのかよ?」

「あら、意外だね。死にたくないの?」


「当たり前だろ。死にたくねぇ。江美と美結の敵を討つまでは絶対に死ねないんだ。……頼む。もう一度だけ助けてくれ」

「えー、気が進まないな。三年前、せっかく助けてあげたのに、あっさり裏切られるなんてさ。こういうのを何て言うんだっけ? 骨折り損? 時間の無駄?」


「いや、絶対に無駄にはしない。今度は間違いなく、奴らに勝つ。ヒカルの敵だって何だって粉砕してみせる。俺は絶対に、ヒカルの役に立つ」

「はは、理市の『絶対』って、ホント軽いよねぇ」


「頼む、情けをかけてくれ」理市は土下座をした。「世界一の美人からかけてもらう情けだ。絶対に期待を裏切らねぇ」

「美人? 世界一の?」


「ああ、ヒカルは三年前より、キレイになった。この世界一の美人は誰だって、マジ思ったぐらいだから」

 口から出任せではあるが、女性に頼み事をするには、徹底的におだてるに限る。ためらまずに、褒めて褒めて褒めまくる。それは理市がチーマーだった頃の処世術だった。


 ヒカルは、「へへーっ」と満面の笑みを浮かべている。世間慣れしていないか、お世辞や嘘に慣れていないのだろう。

 まぁ、単純なヤツで助かった、何とか丸め込んで、不死身の身体を取り戻してやる。理市がそう思った瞬間、ヒカルの表情はクルリと変わった。


「なぁんてね」

 愛らしかった表情から邪悪さを(はら)んだそれに一変した。


 その瞬間、クスノキの数百枚の葉が一斉に揺れた。一枚一枚の葉に異形の目が同時に現れて、不気味な瞬きを一斉に繰り返す。その上、強烈な目ヂカラを込めて、理市を睨みつけてきた。どうやら、異形の目の動きはヒカルの想いとリンクしているらしい。


「あのね、理市のことはすっかりお見通しなの。何せ、この三年間、一日24時間、見張っていたんだから、あまり舐めないでもらいたいわね」

 ヒカルは凄まじい形相(ぎょうそう)で、理市を睨みつけた。掛け値なしの美少女であるためか、その表情はひどく恐ろしく見えた。


「いやいや、出まかせなんかじゃないって」

 理市は必死で弁明するが、美少女はそっぽを向いたままだ。すっかり、へそを曲げてしまったらしい。

 いや、違う。

 ヒカルは透明の皮膜越しに、雑木林の方を睨みつけていたのだ。


 異形の鳥,求丸が再び舞い降りてきて、フワリとヒカルの肩にとまる。

「ヒカル、また、あの女だっキュー」

「あの女、嫌い。しつこいんだから」


 その時、ヒカルの近くでビシッという音が上がった。窓ガラスに石礫(いしつぶて)を投げつけたような音だ。もっとも、実際には窓ガラスではなく、ヒカルが周辺に張り巡らせたドーム状の皮膜〈壁包ウォールカバー〉だった。


 

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