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千の目をもつ天使 ~異能地獄変~  作者: 坂本光陽


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強制徴収②


 ヒカリは腕組みをして、理市を睨んでいた。そんな彼女の頭に求丸が舞い降りてきて、ふわりと着地する。その求丸が冷ややかな口調で、

「ヒカル、まどろっこしいぜ。『てめぇはお払い箱だ』って、ズバっと言ってやれっキュー」


 これには、さすがの理市も驚いた。

「お払い箱? 俺は用なしってこと?」

「そうだ。何回も同じことを言わせるな」


「ヒカル、何が何だか、よくわからん。三年前、俺は何も聞かされなかった。ヒカルの考えなんか全然知らない。敵がいるから俺に倒してほしい? それだって、ついさっき聞かされたばかりだぞ」


 ヒカルは怪訝(けげん)な表情で首を傾げた。

「人間の理屈こそ、よくわからん。何が言いたい?」

「自分の立場がわかっていないことは確かだキュー」


「もういいよ。説明不能だ。じゃ、そういうことで」

 理市は(きびす)を返して、立ち去ろうとする。

「あ、ちょっと待て。まだ返してもらっていない」そう言って、ヒカルは掌を上にした右手を差し出す。


「……ああ?」

「ほら、さっさと返して。私の〈(ひび)()〉」

「おいおい、〈響き眼〉って、俺の心臓と癒着しているんだろ? 簡単に取り外しができるのか?」

「でないと、返してもらえない」


 理市は嫌な予感がした。

「……一応訊いておくが、〈響き眼〉を返したら、俺の身体はどうなるんだ? 返却、即、心臓停止てなことにはならないよな?」

「〈響き眼〉の影響が残っているから、心臓はすぐには止まらない。しばらくは動いているんじゃないかな。数時間か数十秒かはわからないけどさ」


「……」結局、死ぬということだ。理市は内心の動揺を抑えて、「それは困るな。俺には何が何でも復讐を果たしたいヤツがいる」

「……ちょっと、ふざけないでよ、犬飼理市」


 ヒカルは眉根を寄せて、不機嫌そうに溜め息を吐いた。そんな表情でさえ、彼女の愛らしさは損なわれない。

 ただ、その代りに、陽が沈んだように、辺りが薄暗くなった。頬にあたる風が冷たい。暗さとともに気温が急速に下がったようだ。


 どちらも、ヒカルの仕業だった。彼女はクスノキの周辺に、特殊な空間を作り出したのだ。薄暗いドーム型の皮膜に包まれており、内部の気温がすでに10度ほど下がっていた。


 理市は不穏な気配を感じて、クスノキの大木を振り仰いだ。

 そこに広がっているのは、悪夢のような情景だった。おびただしい数の眼球の群れ。クスノキの葉の一枚一枚に眼球が浮かび上がり、それらは一斉に理市を睨みつけていた。空中をふわふわと漂っている眼球もいる。


 蛇足ではあるが、百々目鬼(どどきめ)目目連(もくもくれん)といった妖怪がいる。長い腕に百の眼をもっていたり、無数の目をもつ障子だったりする〈異形〉のものたちだ。もちろん、昔の人間の創作なのだが、もしかすると、モデルとなった〈異形〉がいたのかもしれない。


 クスクスクス。ヒカルが笑っていた。理市は血が凍るような恐怖を味わいつつ、気力を振り絞って口を開いた。


「……どうする気だ?」

「〈響き眼〉を返してもらう。私のものなんだから、文句は言わせない。レンタルビデオって指定期日までに返すんだろ? それと同じだ」

「話し合いの余地はなしか? 延滞料を払うから、もう一度チャンスをくれよ」

「理市が無敵の男だったらね。でも、人間相手に手こずるようじゃ問題外だな」


 問答無用の口振りである。ヒカルの苛立ちに呼応するように、無数の眼球が一斉に瞬きをした。

 どこかでピキッとガラスが割れたような音がして、理市は一歩も動けなくなる。足の裏が地面に張りついたように、両脚は硬直していた。


 クスクスクス。ヒカルが笑顔のまま、理市に歩み寄る。無造作に右手を上げると、抜き手の要領で、ポンと指先で理市の胸をついた。


 理市は胸に鈍い衝撃を受けた。まるで、太い杭を無理やりねじ込まれたようだ。理市が視線を落とすと、ヒカルの右手は手首の辺りまで、胸の中に潜り込んでいた。


 悲鳴を上げる暇もない。妙なことに痛みはなかったが、理市は無遠慮に体内をさぐられた。耳を塞ぎたくなる不気味な音と、不愉快極まりない感触を嫌というほど味あわされた。


 ヒカルは目的のものを探し当てたのか、やがて右手をかきまわすことを止めた。上目遣いで理市の顔を見ると、にっこり微笑んだ。

「へへーっ、見ぃつけた。やっぱり、心臓の裏側で大きくなっていたよ」


 理市はゾクリと身体を震わせた。何か得体の知れないものが、体内で蠢いている感触がある。そいつはたぶん、理市の心臓に寄生していたのだ。一般的な寄生虫とは全く異なるものであることは、容易に想像がつく。理市は思わず、吐き気を覚えた。


「はい、強制徴収ね」ヒカルは笑顔で宣告した。


 ずぶぬれの雑巾を床に投げつけたような音がして、彼女の右手は引き抜かれる。右手に握られたそれは、活きの良い魚のように跳ね回っていた。大きさは、グレープフルーツほどだろう。白っぽい半透明であり、多くの脚がある。生臭いにおいがした。


 それは一言でいうと、クラゲに似ていた。

 しかし、胴体の真ん中に大きな眼球を一つもつクラゲなどいやしない。不釣合いに巨大な眼球は、ヌラヌラと妖しい光を放っていた。


 このクラゲもどきこそ、成長した〈響き眼〉の姿だった。




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