目覚めと決意
白い天井。
消毒液の匂い。
一定のリズムで鳴る電子音。
英は、ゆっくりとまぶたを開けた。
「……ここは、どこだ?」
喉が乾いていた。声はかすれて、自分のものとは思えないほど弱々しい。
腕を持ち上げようとして、鋭い痛みが走る。
その瞬間、昨日の出来事が脳裏をよぎった。
星外種。
崩れた街。
助けようとした少女の顔。
そして――あの女性。
夢ではない。
身体の痛みが、それを確かに証明していた。
ドアが、控えめにノックされた。
「どうぞ」と答えると、そっと少女が入ってきた。
どこか見覚えのある顔。
昨日、星外種に襲われ、助けようとした
――あの少女だ。
彼女は小さく頭を下げた。
「……助けてくれて、ありがとうございました」
英は少し目を逸らし、乾いた笑みを浮かべた。
「俺が助けたわけじゃないよ。結局、あの人がいなきゃ、俺も君も死んでた」
「……それでも、あなたが助けてくれなかったら、私は――」
少女の言葉に、英は言葉につまった。
あの女性の姿が脳裏に蘇る。
炎と煙の中、星外種を苦もなく圧倒する姿。
強く、美しく、恐れを知らぬような背中。
その瞬間、心の奥に宿った“憧れ”。
――自分も、あの人のようになりたい。
人を守れる存在になりたい。
少女が微笑み、深く頭を下げて病室を後にした。
扉が閉まると、英は天井を見つめたまま、長く息を吐いた。
「……どうしたら、俺もあの人みたいになれるんだろうな」
呟きながらスマートフォンを取り出し、検索欄に指を走らせる。
> EXTEND
画面に並ぶのは、眉唾ものの情報ばかりだった。
都市伝説、陰謀論、民間療法。
中には「星外種の血を浴びれば覚醒する」などという記事まであった。
「……バカらしい」
英は小さく笑い、スマホを伏せた。
考えてみれば当然だ。
もしEXTENDになる方法が確立しているなら、
こんな世界で誰もが手に入れようとするはずだ。
政府が血眼になって研究している時点で、
その方法はまだ見つかっていないということなのだ。
それでも――諦めきれなかった。
再び検索を続け、ネットの海を彷徨う。
時間の感覚が消えていく。
画面の光だけが、薄暗い病室を照らしていた。
数時間が経った頃、ひとつの記事が英の目を止めた。
> 「EXTENDは星外種に由来するものではないのか」
タイトルに惹かれ、英は画面を開く。
内容はこうだ。
――EXTEND発現者の多くは、星外種の多発地域の出身者だという。
すべてではないが、確かに偏りがあるようにも思える内容だった。
英は無意識に拳を握った。
この街も、星外種の多発地域。
そして彼自身、昨日星外種と接触したばかりだ。
ならば――もしかしたら。
胸の奥が熱くなる。
自分でも理由のわからない衝動。
けれどそれは確かに、心を照らす光だった。
英がスマホを見つめたまま小さく息をついた、そのとき。
――コン、コン。
静かな病室にノックの音が響いた。
英は顔を上げる。
その音が、彼の運命をさらに動かすものになるとは、
まだ知る由もなかった。




