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転生したのでスマホ欲しいです

作者: りな

王都の舞踏会。

シャンデリアの光が煌びやかに反射する中、第二王子が突然声を張り上げた。


第二王子

「アリアナ・エルフォード! 今日をもってお前との婚約を破棄する!」


アリアナ(心の声)

(え、いきなり? しかもマイクもないのに声量おかしくない?)


王子は得意げに腕を組み、隣に立つ女性を見やった。

その女性――リリス・ヴァイオレット嬢は、鮮やかな紫の長髪と同色の瞳、そしてドレス越しにもわかるメリハリボディを揺らしながら微笑んでいる。


リリス

「殿下こそ、真実の愛を見つけられたのですわ」


アリアナ(心の声)

(いや待って、“真実の愛”って、社交界で言っちゃいけないやつでは…?)


王子はさらに続けた。


第二王子

「リリスは君とは違い、優しく、そして――」


(アリアナ、内心で予想)

(そして……なんだろう、“胸が大きい”とか? まさかね)


第二王子

「――そして胸が大きい!」


(周囲:ざわっ)


アリアナ(心の声)

(まさかの直球!? おい王子、ここ百人以上聞いてるぞ)


ざわめく会場。

その瞬間、アリアナの脳裏に前世の記憶が津波のように流れ込んできた。

――日本で暮らしていた自分。スマホ片手に夜更かししていた日々。

そして、この世界が乙女ゲームの舞台であること。


アリアナ(心の声)

(ああ……なるほど。私、転生者だったんだ)


次の瞬間、視界が暗転し、白い空間に立っていた。

目の前には、妙にテンションの高い中性的な人物――自称「創造主」が現れる。


創造主

「やあ、思い出したね。ご褒美に一つだけ、欲しいスキルをあげよう!」


アリアナ

「じゃあ、スマホください」


創造主

「この世界に電波も電気もないけど?」


アリアナ

「じゃあ、電気も電波も魔力でなんとかなるスマホ的なものを」


創造主

「ふむ、それっぽいのを作ったぞ。ほら」


渡されたのはスマホにそっくりな、しかし他人には古びた本にしか見えない物。

表紙には金色の文字でこう書かれていた。


――《幻の賢者の書》


アリアナ(心の声)

(おお……これ、もしやチート。)


白い空間で賢者の書を受け取ったアリアナは、再び舞踏会の会場へ戻ってきた。

第二王子とリリスはまだこちらを見下ろすように立っている。

周囲の貴族たちは好奇心と面白半分の視線を向けていた。


第二王子

「どうだ、アリアナ。潔く引き下がるがいい!」


アリアナ(心の声)

(潔く引き下がる? いやいや、今日から私の人生は別ルートよ)


懐からそっと「スマホ型の賢者の書」を取り出す。

アリアナの目には最新式スマホに見えるが、他人には古びた厚い書物に見えるらしい。


アリアナ

「……賢者の書、検索。『婚約破棄 公衆の面前 無礼罪』」


ページが勝手にめくれ、金色の文字が浮かび上がる。

すると、彼女の脳内に法律や礼儀作法の知識が流れ込んできた。


アリアナ(にっこり)

「殿下、貴族令嬢を公衆の場で侮辱した場合、処罰対象になるのをご存知?」


(会場:ざわっ)


第二王子

「な、なにを……」


アリアナ

「しかも、“胸が大きい”発言は公式記録にも残りますわね。宮廷文書館に」


(会場:ドッ)


リリスの紫の瞳がカッと見開かれ、顔が真っ赤になる。


リリス

「そ、それは……!」


アリアナ(畳みかける)

「さらに申し上げますと、殿下が婚約破棄を宣言するには、国王陛下の承認が必要。現時点でそれは――まだ下りておりません」


(会場:再びざわつき、ひそひそ声)

「じゃあ、この婚約破棄、無効じゃないか?」

「王子様、やっちゃったねえ…」


アリアナ

「ですから、本日の件は“殿下が勝手に婚約破棄を騒ぎ立て、淑女を侮辱した事件”として記録されるでしょう」


第二王子、青ざめる。

リリス、肩を震わせる。

アリアナ、にっこり微笑んで会釈。


アリアナ

「……それでは、私はこれで失礼します。ああ、それと――」


背を向けたまま、さらりと付け足す。


アリアナ

「胸の大きさは、淑女の価値を測る物差しにはなりませんわ」


(会場:大爆笑&拍手)


アリアナはドレスの裾を翻し、会場を後にした。

その手の中の賢者の書が、光を帯びて小さく震えている――まるで、彼女の勝利を祝福しているかのように。


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