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はじまりの日食


「もうそろそろだな」


なんとかとなんとかは高い所が好きと爺さんから聞かされたことはあるが、そのなんとかってのを忘れたし、人工だけどもまぁ風が心地良いからどうでもいいと薄っすら思いながらスラムに建つ居住アパートの上の縁に寝転びながら空を見上げていた

そんなとこにいたら落ちて危ないと何度も言われた通り、何度か足を滑らせて落ちたけどもどうやら俺は人より頑丈らしい。3階建てだが無事だった

手には真っ黒だか少し透けて見えるプラスチックを目の辺りにかざし、欠けていく太陽を眺めている

日食と言うんだと

月が太陽の前を横切る時に暗くなるそうだが、この星系の太陽が小さいのと月が大きいこともあって普通の皆既日食よりも長い時間暗くなるそうだ

夜ほど暗くなるわけじゃないみたいだけども

幼馴染みの賢いゼクは

「人類がこの星に移住して初めてのことなんだよ!?すごくない!?」

と興奮しまくってたがよくわからない

なんでもこの星の月の周回軌道は他の星に引っ張られるせいでめちゃくちゃらしい。人類がここのテラフォーミング?に失敗して無理矢理移住してから200年ほどになるらしいが、なんでこんな赤茶けた草も生えないとこに住もうと思ったのか疑問しかない


この星に辿り着いた先駆者達にため息をついてペッと手に持ったプラスチックの板を投げ捨てると、身体を起こしアパートから飛び降りた



セクター7の隅の荒廃した通称『スラム』と呼ばれる下層階級の人々が住む街はあいも変わらず汚え。中層から流れてきたドラッグ中毒者が道で寝てるし、事故か何か知らんが腕や足、目を失って機械義肢を付けた人が無気力に地べたに座ってたりもする。服も家具も食器も上層中層から捨てられたゴミから拾って使ってるからみんなボロボロだ

あんまり良いもの着てると追い剥ぎに襲われるってのもあるから敢えてボロ着てるってのが大半だが

食料もまともに配給されないから大人も子供も飢えるし、大抵は地下や下水で増えすぎたネズミやプレコンとかゆう壁に張り付く皮が鎧みたいに硬い魚を焼いて食ってる。今そこで売られてる携帯食料だって破棄寸前の物を中層から恵んできてもらったもんだろうよ

主に小麦が使われた乾燥した固形ブロックだが完全栄養食らしい。味はなんかパサパサしてる。配給で毎日1本は食ってるからまぁ何の感動も無いが、露店で売られてるそれを2、3個手に取った少年が走って逃げ、それを怒鳴りつける店主の光景はいつもの日常だ

ふと目が合った薄着の女の子は笑顔で「おはよー」と手を振ってくれた。俺も「おっす」と笑顔で返して通り過ぎる。俺とそんな歳も変わらない子が売春して生活費を稼いでるからなんとも言えない気持ちになるが、なんにしてもみんなよくもまぁこんな環境で生きてると思うよ俺含め。たくまし過ぎるだろ



下水道から脇にそれた入り組んだ地下道の先、手作り感のある気密扉を抜けるととてつもなく横に長い空間の角、壁沿いに山のように積まれた機械やガラクタ、なんとなく綺麗に配置された椅子やテーブル、照明が設置してあり少し部屋の様になっている場所でくせ毛をフワフワと揺らしながら何かをいじるメガネの青年がいた

少年に見えそうでもあるあどけなさとは裏腹に、配線を手早くはんだ付けして小さな煙が立つ


その少し離れた所で長いバレルのエアライフルを持つ青年は、ペレットと呼ばれる弾を装填し圧縮レバーを何度か引いてから50メートルほど離れた空き缶を狙って引き金を引く


静かな発射音のすぐ後、パンッと弾け飛ぶ空き缶


「調子いいみたいだな」


部屋に入った俺はエアライフルを撃った青年に声を掛ける


「お前はどうなんだよテオ」


とエアライフルを拭きながら返す青年


テオ「どうだろうな?今日も快便だったけど」


と返すと怪訝な顔をされた


「ジンは心配してるんですよテオ」


と配線をいじる手を止め微笑みながらメガネを少し直すゼク


テオ「俺がいつだって元気なのは2人が一番知ってんじゃん」


そう言いながらボロいが高そうな革で出来た椅子に座って頭の後ろで手を組んだ


二人とも手元の作業は止めずに少し微笑む


少しして「よしっ」と立ち上がるゼクはなんやかんや両手に抱えてテオとジンの側の大きな机にそれらを広げた


ゼク「これが生体認証を阻害するリストバンドね」


と一見何の変哲もないリストバンドだが、左手首に埋め込まれた生体認証チップを覆うとAIや警備隊にスキャンされないらしい


ゼク「で、これが爆弾ね」


そう言って指差した物は粘土みたいな物に金属の棒が2本刺さっていて、そこから配線が粘土に取り付けた機械に伸びていた。大きさは拳くらい


ジン「大丈夫なのかよこれ?」


と不安そうな目でゼクを見るジン


ゼク「全然問題ないよ。僕が持ってるこのボタンを押さなきゃ」



そう言ってボタンを押した



「「おいっ!!」」


慌てる2人にケタケタ笑うゼク


ゼク「冗談だってばwwwこれはね、下の引き金を引いて上のボタン押さないと起爆しないからw」


テオ「…お前なぁ、流石に俺でも死んでるぞwジンは知らねーけどw」


ジン「俺だって死んでるよっ!!余計に死んでるわ!!」



「「余計に死んでるwww」」



意味わかんないとゲラゲラ笑うゼクとしゃがみ込んで腹を抱えるテオ

「馬鹿じゃねーの」と釣られて笑うジン


ひとしきり笑った後、真剣な顔になる3人


ゼク「いよいよだね」


ジン「あぁ」


テオ「これが最初の一歩だ」


テオは大きなボストンバッグと扉横に立てかけてあった鉄パイプを拾うと、3人は気密扉を開けて下水道へと向かった

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