0013.手編み問題
扉の向こうは冬の朝 まだ日は昇らない灰色の街
凍てつく空気が突き刺さる
わずかに残る木々の葉には 白い霜が縁取られていて
落ちた枯葉が足元で 乾いた音を立てている
きみのくれた手編みのマフラーを
襟元に巻きながら 石畳の歩道を歩く
こういうのをもらうのは とてもうれしくて
使うのもとてもいい気分だけど
だけどもし もう使えない事態になったときは どうしたらいいんだろう
なんてそんなこと 考えることじゃないけどね
そんな話をきみにしたら きっとビンタが飛んでくる
東の空の雲の切れ間から日の光が差しはじめて
背の高い建物を薄いオレンジ色に染める
冷たい空気を吸って白い息を吐きながら いつもの坂道を小走りで駆けていく
バス停にはすでに何人かの人の列 最後尾にはよく知った顔
気づいたきみが 盛大に手を振っていて
その襟元には お揃いのものが巻かれてる
余計なことを考えてましたね すみません
きみはぼくの襟元のものをさわりながら
手編みって重いかな
いや軽いけど
あ重いというのはそうじゃなくて 気軽に扱えないというか そういう重さ
なんとなく心を見透かされた気分 だけど贈る側もそういうのを気にするのか
わざわざ作ってくれたものを身につけられるというのは とてもうれしいことだよ
気になるとすればこれをもし 身につけられないようになった時にどうするかかな
やっぱりそういうこと気にするんだ
別に気にしてないよ
もしそうなったらどうするの?
そんなこと考えないし
ふーんあそう
きみは微妙な笑顔でこっちを窺っている
そうなったらそっちこそどうするんだよ なんて思うけど
そんなことは言わないでおく
もしそうなったとしても ぼくはきっと捨てたりはできないだろうな
それがいいのかどうかわからないけど
いまはもうこれ以上は考えない
白とオレンジのバスがぼくたちを乗せて 一日の始まりの街を通り抜けていく
次はセーターを編んであげよっか
それってさらに重いやつ あちょっとくすぐらないで
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