大義
不思議と悲しくはなかった。
心のどこかで、これは夢だと納得しようとしていたからだと思う。
二人も言葉が出ないようで、しばらく静寂に包まれた。
ようやく、このままにしておいてはいけないという思考に至った時、既にゼイレンがギルドに報告しに行ったのだと言う。
口数が少ないということがこれほど嬉しかったことはないと思った。
何も話す気になれなかったから。
ケレミー「ロイド、私…。」
ロイド「何?」
ゼイレンは駆けながら思考を巡らせていた。
これで本当に良かったのか?大勢の人を巻き込んで。
他人を踏み台にして登って行くのは正しいことなのか?
これが自分たちのためになるのか?
彼は揺れている。
あの時何かが変わった。
フロッグ「ウォルマス、お前があいつの相手をしとけ。」
ウォルマス「まかせろ。オラついて来いクソガキ。」
ゼイレン(奇襲が効かなかった以上、先にこいつから倒したほうがいい。一対一に乗らない手はない。)
二人は森の深くで対峙した。
距離を詰めて風魔法で切る。なんとなくそんなプランを考えていると、ウォルマスが口火を切るように話し始めた。
ウォルマス「単刀直入に言う。俺は協力者だ。」
ゼイレン「は?信じられるか。」
ウォルマス「ならこれでどうだ。」
ウォルマスが上半身の服を脱ぐと、そこには確かに
奴隷紋があった。
ゼイレン「そんなもの、魔法でどうとでも…」
ウォルマス「まず、落ち着けよ。ゼイレン=ヴェルム。」
ゼイレン「…!」
ウォルマス「そう、フルネームはゼイレン=ヴェルム。そして、母はナターシャ=ヴェルム。娼館で…」
ゼイレン「黙れ!協力者でも何でも、今は黙ってくれ。」
ウォルマス「そんなこと言ってる場合じゃねぇ。今はとにかく他のガキどもと合流しろ。また指示が来る。その時までお前は平然としてろ。いいな?」
覚悟が揺らいだからなのか、ウォルマスの鬼気迫る表情に気押されたからなのかわからないが、自然と足は街に向けて動いてしまっていた。
そして、スライムの一件。
ウォルマス「単刀直入に言う。パーティーのやつを誰か一人殺せ。」
ゼイレン「何を言って…」
ウォルマス「何を言って…じゃねえよ!俺はずっとフロッグの監視任務をさせられてんだよ。それもこれも、俺達が王家に復讐するためだってわかってんのか?」
ゼイレン「僕が伝えられた任務はSランク冒険者の始末。なんで、監視を?」
ウォルマス「アイツは常人が倒せる領域にはいない。あの時使っていたのは全て初級魔法。あの野郎、いつでも俺を殺せる。こっちはな、こんな割に合わないことすぐにやめてやりたい。でも、俺達には痛みがある。だから、せめて確かめさせろ。お前に賭ける価値があるのか。」
ゼイレン「拒否する。それに、パーティーが欠けるとランク上げにも支障が出る。」
ウォルマス「拒否できると思うか?」
瞬間、突き刺すような魔力が大量に押し寄せてきた。
ウォルマス「あの時は抑えてたんだよ、俺もフロッグもよ!いいから黙って言うことを聞けよわかったな?」
「あと、助けるわけじゃねえがスライムをばら撒いておく。時間稼ぎとランク上げの足しにしろ。」
僕は頷くことしかできなかった。
ケレミー「何でも、ない。」