クビ
優吾は目覚ましのけたたましい音で目を覚ました。
布団の中で手足を伸ばしてから勢いよく布団を捲りそのまま立ち上がり、もう一度反り返るように腕を上方に伸ばす。
カーテンを開けると春の気持ちの良い日の光が部屋の中に差し込んできた。
顔を洗い歯を磨き母ちゃんの作ってくれた朝ごはんを食べ通勤用の服に着替え家を出る。
通勤に使っている軽のバンに乗り込み暫く会社に向けて走ったあと、道の脇に車を止め空を見上げた。
『あぁー良い天気だなー。
こんな良い天気の日に仕事なんてやっていられないよなぁー。
サボろーかなぁー? でも理由何にしようかなぁー、婆ちゃんには悪いけど殺しちまうか』
優吾は少し考え込んだあとスマホを取り出し会社に電話をかける。
呼び出し音が数回鳴った後、受話器が取られる音がして事務員の奈良さんの声が聞こえて来た。
「お待たせいたしました、山口配送センターです」
「あ、原です。
おはようございます。
昨晩、同居していた婆ちゃんが亡くなったので休ませてください」
「え、それは大変、社長には伝えておくから」
「はい、宜しくお願いします」
『さて、これからどうしょう?
サボったのは良いけどここら辺で彷徨いていると、配送中の同僚に見つかる恐れがあるからな。
そうだ! 久しぶりに隣の県の友人の所に顔出すか』
友人は久しぶりに訪ねてきた優吾を歓待してくれた。
友人宅に泊まらせてもらい翌朝早く友人宅を出る。
婆ちゃんを殺したことを忘れ家に寄らずにそのまま会社に出勤した。
事務所に行き出勤簿にサインしようとしたとき奈良さんの声がかかる。
「それにサインする前に社長室に行きな、社長が呼んでいるから」
振り返ると奈良さんが軽蔑したような目で優吾を見ていた。
優吾は奈良さんの目を見て何か怒らせるような事したっけか? と思いながら、事務所の隣にある社長室のドアをノックする。
中から社長の返事が返ってきた。
「オウ」
「原です、入ります」
社長室に入った優吾を社長は手招きして自分のデスクの前を指さす。
優吾がデスクの前に立つと徐ろに話しを始めた。
「昨日、君の家に香典を持ってお伺いしたのだよ。
応対してくれたのは誰だと思う?」
そう言われて優吾は昨日サボる口実に婆ちゃんを殺した事を思い出す。
「えっと、あの……その……」
言い淀む優吾に社長は言葉を続ける。
「お亡くなりなった筈の君のお婆さんだよ、お陰で私は赤っ恥をかかされた。
何か言うことあるかい?」
「す、すいません……」
「それでだ、私はもう君という人間が信用ならなくなってね、辞めてもらいたい」
「か、勘弁してもらえませんか?」
「勘弁ならないね、君はなくしてしまったのだよ信頼という大事なものを。
奈良君のところに行き、今月の日割りの給料と退職金を受け取って出て行ってくれないか」
社長は一方的に優吾にそう言い放つとドアを指差すのだった。
そんな馬鹿な事する奴なんていないって思った方に言っときます。
実話を元に書いてます。