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生き残った者達

 4体の天使が地に堕ちる。


 突然訪れた決着。困惑しながらも、翠達は改めて状況を確認する。



 目の前にいるのは、謎の3人。天使たちは首と両翼を飛ばされている。最初に両翼を落とされた天使の首もいつのまにか飛ばされていた。これで、全ての天使の首と両翼が落ちたことになる。


(これで勝ったのか…?そもそも、この人達は誰だ……?)



 翠達に疑問がわく中、ゲンジがあることに気付いた。


 二人目に落ちてきた大男。その男にゲンジは見覚えがあった。


「あっ!アンタ、あの時、俺を見張っていた…!」


 ゲンジの豊穣祭の時の記憶がよみがえる。ゲンジは合羽を被った大柄な何者かにつけられていた。間違いない。同じ合羽だ。


 驚きの声を上げるゲンジだったが、その会話を遮るように最初に落ちてきた女がこういう。


「話はあとだ!こいつらが生き返る前に拠点に逃げるぞ!」


 翠がその言葉に疑問を覚える。


「生き返る…?」


「ああ。こいつら、血が出てねえだろ?ほっといたらすぐくっついて復活する。だから、早く行くぜ!」


 確かに、首を切り落としたというのに、天使たちの首から一滴も血が流れていない。翼からもだ。代わりに青白い光が切り口から見えるだけ。あの日、胸を貫かれたはずの中位天使ウールが死ななかったのと同じように、こいつらも復活するということだろうか。


 とにかく、翠達5人はこの3人に連れられ、彼らの『拠点』に向かうことになった。





§






 3人に連れられて、森の中を駆けていく。復活するらしい天使の追撃がある可能性もあったため、かなりの速度で森の中を走ること数時間。



 もうすでに一つ山を越えた。流石に天使の追手もここまでは見つけられないだろう。一行は彼らの拠点を目指してゆく。


 更に30分ほど馬を走らせたあたりで、彼らの『拠点』にたどり着いた。


 先頭を走る女性が言う。


「ここだぜ。」


 そう言って一行が止まった場所は、森の奥深くの小さな古い小屋だった。


 誰も入らないであろう森の奥深く。小屋はボロボロでとても人が住めるとは思えないほど古びていた。


 先を走っていた3人がそのボロ小屋に馬を止める。翠達もそれに倣い、馬を止め、馬から降りる。


 他に建築物らしきものは見つからない。ここが彼らの『拠点』なのだろうか。


「ここは…?」


 翠が疑問を投げると、女性は自信満々にこう答えた。


「ふふん、よくぞ聞いてくれた!!ここは我ら京都抵抗軍の拠点!京都抵抗軍、大本部だッ!!」


 高らかに女性はそう言った。しかし、目の前に広がる光景は、大本部というにはどう考えてもにつかないボロボロの家。


 翠たちの困惑を感じとったのか、女性の隣にいた男が苦笑いを浮かべながらこういった。


「花蓮よ。やはり、大本部と言うのはやめぬか?ワシまで恥ずかしくなってわい。」


「いーや、ここは京都抵抗軍大本部だ。私が言ってるんだから、そうなのさ。」


「ここが…?京都抵抗軍、大本部…?」


 翠の困惑した言葉に意気揚々と女性が答えた。


「そのとーり!!そして、この私こそ、京都抵抗軍隊長!花蓮だッ!!」


 それを隣で聞いた大男が冗談混じりにこう言う。


「全然可憐ではないけどのう…!」


「…ふふん、いうねえ!この日の本一!可憐な私に、そんなこと言うなんて、天使に目ん玉でもくり抜かれたかい?」


「まさか、ワシが天使にやられるとでもいうのかの?あの世に行ったら名付けてくれた両親に謝ることじゃな。……っと。そうじゃ。ワシも名乗っておかねばのう。ワシは抵抗軍副隊長のジンじゃ。」


 軽口を叩き合う2人、翠たちはその勢いについていけなかったが、どうやら仲はいいらしい。


 そして最後の1人、目をつぶった少年がこう名乗る。


「僕は抵抗軍隊員のマルです。よろしく!」


(というか、…あれ…?京都抵抗軍………!?)


 花蓮と名乗るその女性は自身が『京都抵抗軍』の隊長だと名乗る。そして、ジンは副隊長、マルが隊員らしい。


 しかし、翠が結衣から聞いた話によると、京都抵抗軍は天使に滅ぼされたはずだ。


 それに、抵抗軍だと言うのに他の隊員も見当たらない。疑問を覚える翠。


 他の4人も同様の疑問を覚えていたらしく、結衣が花蓮にこう尋ねる。


「あなたたち、京都抵抗軍なの…?京都抵抗軍は天使の奇襲を受けて滅んだって聞いたけど…?」


 結衣の疑問に答えたのは副隊長のジンだった。


「ああ。お嬢さんのいう通りじゃ。京都抵抗軍は天使の奇襲を受けて、…敗北した。」


 ジンは真剣な表情で、結衣の問いにそう答えた。


 そのジンの言葉に、花蓮が続ける。


「300人はいたっていうのにたった5体の天使にみんな殺されちまってね。前任の隊長も殺された。……そんで、その生き残りが、私たちだ。」


 花蓮はそう言った。つまり、京都抵抗軍が天使によって滅ぼされたと言う言説は事実で、その生き残りが彼女だと言うことのようだ。


「やっぱり滅ぼされたの…?それも、300人…!?」


「ああ。他はみな、一人残らず殺されてしもうた。今は…抵抗軍、といってものう…、たった3人、かつての拠点を放棄して、こんなボロ小屋にひそひそと隠れることしかできんのが、今の抵抗軍じゃ。」


 彼らの話を聞いて、翠たちは状況を理解する。




 詰まるところ、敗走の果て、たどり着いたのがここと言う訳なのだろう。天使の襲撃を受け、京都抵抗軍は敗北。生き残った彼女らは命からがら逃げ出し、天使たちの追撃を避けながらここに潜んでいると言うことなのだろう。




 彼らは正真正銘、たった3人の京都抵抗軍のようだ。



 しかし、彼らを含む京都抵抗軍300人が、たった5体の天使に殺されたという事実に、翠が違和感を覚える。


「でも…なぜたった5体の天使に…?さっき、あっさり4体の天使を殺して、俺たちを助けてくれたのに…?」


 そうだ。この3人は先ほどあっという間に4体の天使を倒してみせた。これだけの実力ある兵士がいるなら、5体の天使の奇襲があっても負けるはずがない。たった5体、彼らの敵では無いはずだ。


「まあ、あれは死んでねえからな。」


「そうだ…!さっきもそんなことを…」


 確かに、そんなことを言っていた。どう言うことなのだろう。


「やつらは翼をきりゃ飛べなくなるし、首を落とせば体も動かなくなる。が、それもほんの数分だ。あれをそのままほっとくと、翼と首が動き出して、何事も無かったかのようにくっつきやがる。さっきの4体もとっくに復活しているだろうな。気持ちわりいったらありゃしねえ。」


 彼女が言うには、天使はあれでは死なないらしい。翼や首は、切り落としたとしても、勝手に動き出して、体へ元に戻ってしまうと言うのだ。信じがたい事実ではあるが、翠たちが邂逅したウールが体を切られても、血が流れないばかりか、そのまま和也を追撃して殺してしまったのだから、驚くことでは無いのかもしれない。


 そして、事実、先ほど花蓮らが首や翼を切り落とした天使たちは、既にあの場からいなくなっていた。その後には血が流れていないばかりか、落としたはずの翼や首も跡形もなくなっていた。それが天使という生物なのだ。


「じゃから、天使を止めるには、翼を切り、首を落とす作業を数分おきに繰り返す必要があるんじゃ。じゃが…、それに気づいた時のは、取り返しのつかない被害を受けたあとじゃった。」


「…そんな…」


 あの天使たちは首を落とし、翼を落とすことで、機能停止する。が、それでも数分経てばあっという間に復活する。確かにそれに気づくことは容易ではない。その結果が京都抵抗分の壊滅と言うものなのだろう。


「つまり…あなたたちのお陰というだけじゃなくて、300人の犠牲があったから、俺たちは助かった…」


「まあ、そういうことになるな。」


「それに、ウールとか言う糞ヤベエ天使もいたしな。」


「え、…ウール…!」


 翠たちは見知った名が出てきたことに驚きをあげる。


「なんだ、おめえらも知ってたか。アレはマジでヤバかったな。他の天使とは比べ物にならない強さだったぜ。ウールがいなきゃ、まだマシだったんだけどな。」


(…ウールが…来てたのか…。通りで抵抗軍が壊滅するはずだ…。)


 今思い出しても彼の実力は異常だった。この3人のような実力者もいるという抵抗軍が負けたと言うのには違和感があったが、それは納得せざるを得ない。


 そして、目を瞑った少年、マルがこう付け足す。


「それに、さっきは高低差があったおかげで、奇襲が簡単だったからね。」


 そうだ。そういえば、この少年もとんでもない少年だ。どうみても翠達と同年代なのに、あの一瞬で2体の天使を葬っていた。恐らく、この3人の中でも、最も抜けた実力者だ。


 チキもマルに興味があるようだ。


「マルくん、さっきのは凄かったね!」


「チキのいう通りだ。俺たちと同じくらいなのにあんなに凄いなんて…」


 マルをほめる二人に、隊長の花蓮も満足げだ。


「すげえだろー!なんつったって、京都抵抗軍の武神だからなっ!」


 チキはマルに疑問に思っていたことを問う。


「でも、どうしてずっと目を瞑っているんだい?」


「ああ。僕、目が見えないからね。」


「…えっ。…そうだったんだ………悪いことを聞いてしまったね、ごめん。」


「謝らなくていいよ。全然気にしてないからさ。」


 マルはなんでもないかのようにあっけらかんとそういう。花蓮も、チキをフォローするようにこう付け足す。


「そうだ、気に病むことねえぞ?マルはほんとに気にしてねえからよ。それどころか、目が見えねえのに、あんなに強いんだ。スゲエだろ?」


「確かに…目が見えてないのに、アレをやったのか…凄いな…」

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