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奪還作戦 後


 朝日が解放され、この時だけ中位天使のそばを離れる。最初で最後、この時だけが翠に与えられたチャンスだ。


 結衣が銃声を鳴らし、ゲンジが焙烙玉で火と煙で会場を包む。天使たちの視界を奪い、会場を混乱の渦に飲み込む。



「今だっ!!!」



 翠が全力で駆け出す。炎と煙に肌が焼けることも気にせず全力で走る。位置は既に十分に把握した。朝日目がけて全力で走る。




 天使の横を駆け抜ける。


 その距離わずか数メートル。煙に紛れて駆け抜ける。




 そして、朝日の目の前にたどり着く。


 翠は全力に走ったまま、朝日に呼びかけた。


「朝日!!」


 それに朝日が応える。


「翠君!!」


 朝日が翠の呼びかけに、嬉しそうな、泣きそうな声で答える。やはり朝日も状況を理解してくれていたようだ。


 この時を待っていたと言わんばかりに、朝日が手を差し出した。その手に一切の戸惑いはなかった。




 そして、翠が朝日の手をつかむと、2人は全速力で駆け出した。



 もうすぐ爆発の煙も晴れるだろう。それより前に少なくとも人混みに飛び込まなくては。


 そう思った矢先だった。





 視線。




 翠の背筋が凍る。まだ煙は晴れていないというのに、明らかに翠を捉えた視線。



 本能がその視線の主を理解した。



 それは、神の一瞥。



(……っ!)



 突き刺すようなはっきりとした視線に竦む翠。だが立ち止まる猶予はない。


 走る翠。なんとか視界が開ける前に人混みに飛び込む。


 2人は人ごみに飛び込み、するする人々の間を抜けていく。息つく間もなく駆け抜ける。


 天使が来ているかも知れない。だが振り返らない。振り返る時間はない。そんなことをする時間があるなら1センチでも距離を取らなければ。



 そして人ごみを抜けると、そこでは少し先でゲンジが待っていた。


「翠!!!こっちだ!!!!」


 ゲンジが少し先で呼んでいる。そこに向けて2人が駆ける。


(蒼様が追ってくる様子はない…けど…急がないと。)


 一刻も早くこの場から離れなくては。








 翠たちが合流すると同時。混乱に包まれた会場の中心では先手をとられた上位天使が中位天使を召集していた。


 その上位天使は女性の姿をしていた。人間にして20代中盤から後半程度の容姿、長い髪を一つに結んでいる。そしてその天使もまるで蒼様と同じような、世界のすべてに関心がないような瞳でこの世を見ながら、冷静に指示を出していた。


 生贄がさらわれたにもかかわらず、上位天使は至極、冷静だった。


「生贄がさらわれた。銃声の主を追う必要はない。下位天使を呼び戻し、生贄の奪還に向かわせよとの指示だ。」


 その指示に対して中位天使が尋ねる。


「我々中位は追う必要が無い、と?」


「ああ。下位が4体も入れば十分だ。それに、我々のすべきことは、豊穣祭の続行だろう?」


 その女の上位天使の指示に中位天使は一切の反論を示さなかった。


「はっ、おっしゃる通りです。」


 命令を確認した中位天使が飛び立ち下位を呼び戻しに行く。







 翠と朝日がゲンジと合流する。そこには銃をかつぐ結衣もいた。


「結衣さん!!無事だったんですね!!」


 天使たちの気を引く囮役だった結衣。会場に居た翠やゲンジと同じぐらい、あるいはそれ以上に危険な役回りだったが、無事に逃げ出せたようだ。


「さすが武家育ち、でしょ?」


 その時、ゲンジが叫ぶ。


「来たぞ!!」


 蹄の音が聞こえる。チキが馬を連れてきた。


「皆!早く乗って!!」


 チキが4人の前に馬を止める。そして4人が馬に飛び乗る。朝日は翠の馬に一緒に乗った。


「行くぞッ!!」


 4人の馬が全速力で駆け出す。ゲンジの馬が先頭。結衣の馬が最後方でしんがりをつとめる。


 最前方のゲンジが結衣に叫ぶ。


「前方は問題なしだ!!!後方、天使は追ってきているか!?」


「まだ天使は追ってきていないわ!!今のうちに距離をかせぐわよ!!」


 全速力で京都を駆ける翠達。少しすれば天使が追ってくるだろう。それまでに少しでも距離を稼ぎたい。


 ひとまず朝日を奪還できた事はとても大きい。だが、しかし、問題はここからだ。間違いなく追ってくるであろう、天使たちの追撃をいなし、この会場から逃げきらなければならない。



 だが、ひとまず朝日を奪還した翠達はほんの少しだけ安堵する。少し落ち着き、翠が朝日に尋ねる。


「朝日……無事でよかった……。天使にひどいことされたりしなかったか?」


「…………うん。大丈夫だったよ。」


 翠の見た限りでは朝日の体に怪我や傷は無いし、特段疲労している様子もない。囚われていた時の扱いはそれほど悪いものでなかったことが伺える。


「そうか…………良かった。」


「でも……翠君。……………私たちが入れられてた牢屋の近く牢屋に……若菜ちゃんがいたの。」


「……………え?」



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