act.3 解き放つ、それぞれの欲望
気を失ったセリアを連れて姿を現したカイゼル。カイゼルはそのままセリアをソファーに下ろすと、呆れ顔でドルバンに向き合う。
「貴方の部下がヘマをしたお陰で、彼女がその尻尾を掴んでしまった様なので、こうして相談に来たわけですよ。感謝して下さいね、俺に相談に来てくれたお陰でこうして処理出来るわけですから」
つまり、カイゼルは証拠隠滅の為に、セリアの行動を誘導したのだ。ドルバンが苦い顔をする。
「チッ、そういう事か。――何が望みだ?」
「追加報酬ですね。金額は応相談ですが」
あっけらかんと言い切るカイゼル。それはセシルの、そしてソータの知らないカイゼルの顔であった。
「カイゼルさん……!? どういう事なの、説明して! 私、貴方が借金に苦しんでるって聞いて……!」
当然セシルは納得出来ない。最もな疑問をぶつける。
「ドルバンさんに聞いてないのか? ドルバンさんの死んだ奥さんが君に似ていたと。「それは」本当なんだよ。だから、君を譲って欲しいとせがまれてね。それ相応の金額で譲る事にした。借金? そんな物を簡単に作る程馬鹿じゃないさ俺は」
「!?」
つまり、カイゼルの借金話は嘘だったのだ。そして金欲しさに、恋人のセシルを呆気なく売った。カイゼルの本当の顔に、セシルは当然ショックを隠せない。
そしてカーテンの中のソータは思い知る。裏路地での密談。――元々、カイゼルとドルバンは、裏稼業で稼いで繋がっていたのだ。
「騙してたんですか……私を……ずっと……!」
「人聞きが悪い。少し話していない仕事の内容があっただけさ。お金は、多いに越した事がない。君がドルバンに抱かれた後でも、君が望むなら結婚しても全然構わなかった」
「信じられない……許せない!」
セシルは直ぐにベッドから起き上がり、カイゼルに詰め寄ろうとするが、
「カイゼル!」
直ぐにその動きに気付いたドルバンがカイゼルの名を呼んだ。
「ふぅ」
そして呼ばれるまでもなくセシルの次の行動を読んでいたカイゼルが、気を失っているセリアの首筋に短剣を当てた。
「っ、何を――」
「済まないなセシル、ここまで来て話が駄目になって金が入って来ないんじゃつまらない。――その人の相手してやってくれ。俺も君の前でセリアを殺したいとは流石に思わない」
「ふ、ふはは、よくやったカイゼル!」
セシルの動きが止まる。カイゼルとの距離が遠い。そもそもカイゼルは優秀な魔導士、セシルがセリアを助ける手段は残っていなかった。――ドルバンに肩を抱かれ、半ば無理矢理セシルはベッドに戻される。
「さて、賢い君なら抵抗は無駄だとわかっていると思うが、念の為に抵抗出来ない様にさせて貰おうかな」
そしてドルバンは最初から使うつもりで用意してあったか、縄を取り出し、セシルの両手をベッドに縛り上げ、固定する。――両手を大きく広げる形。つまり、セシルは腕で隠して来た上半身を、ハッキリとさらけ出す形となり、
「ふふふ、良い体じゃないか」
「っ……」
ドルバンはその姿にニヤリと笑い、セシルは悔しさから唇を噛んだ。――美しく整い、それでいて抵抗不可能なその姿は、、
(っ……くそっ……くそっ……!)
カーテンの中のソータを更に興奮させるのには十分であった。襲い掛かる背徳感と興奮。息を整えるのに必死になる。
ドルバンが露わになったセシルに再び手を伸ばした。一方で、
「……フン」
暇になってしまったカイゼル。ふと視線を下ろせば、そこには気絶したままのセリアの姿。――そこからの行動に迷いは無かった。
「な……カイゼルさん、駄目、セリアには手を出さないで!」
カイゼルはセリアを後ろから抱きかかえるようにしてソファーに座り直すと、そのまま後ろからセリアに向けて手を伸ばした。セリアは気を失ったまま、つまり無抵抗。
「何を言ってるんだセシル、これは君のせいだ」
「私、の――?」
「そうだ。君が結婚するまでは手を出さないでくれというから今日まで手を出さなかった。だがそれももう我慢の限界だ。しかし君の体はドルバンさんに譲った。だったら俺は」
カイゼルはそのままぐい、と持っていた短剣をセリアの服に当てると――ビリビリビリッ!
「こうするしか、ないじゃないか」
セリアの服を裂き無理矢理前開きにする。結果として見え始める、セリアの素肌。
(ぐ……お……セ、セリア、あんなに……!)
十七歳ながら大人と変わらぬ発育を見せていたセリアの体。前置きなしで見せられたその姿に、ソータの理性が一気に削られる。
「セリア、目を覚まして、セリア!」
「無駄だ。睡眠薬を嗅がせてるからそう簡単に起きないぞ」
実際、セリアはカイゼルに抱きかかえられても起きる様子が一向に見られない。
「しかしいい眺めだ。十七の餓鬼とは思えないな」
そう言って冷静な表情でセリアを眺めるカイゼルは、昨日までと同じ顔なのにまるで知らない人。――軽蔑すべき、悪人にしか見えない。
「っ……最低、この悪魔、貴方なんて、いつかどん底に落ちればいい!」
「抵抗出来ないからって悪口か。――まあでも、言われれば俺も萎える。だから……そうだな」
スッ、と一度セリアの体から手を離すと、カイゼルは自らの指に雷の魔力を少し込め、再びセリアに軽く触れた。――ビリッ!
「――あうっ!」
気を失いつつもその衝撃に悶絶し、セリアが声を上げる。
「セリアっ!? 止めてっ!」
「いいか? 次つまらない事を言ったらもっと威力を増やして流すぞ。――面白い光景が見れるだろうな」
「あ……っ、うっ……!」
それは、これ以上の反抗は姉妹の傷を増やすだけ。もうどうにもならない。――セシルがそう悟るには、十分な脅迫だった。体から力が抜け、天井を見上げる。
「観念したかね? さあ、私達は私達で続きをしよう」
二人の会話を待つ理性はあったのか、セシルが諦めた直後、再びドルバンが動き出す。
「う……っ……」
両手を縛られ、ドルバンに馬乗りにされているセシルは悶え我慢するしかなかった。
「セシル、君を俺自身が堪能出来なかったのは残念だが……まあいい。その分は、セリアに返して貰うさ」
方やカイゼルも再び動き出す。その手を動かしながら、
「セシル、すまないな。妹の方でも満足出来そうだ」
「っ……!」
セシルを挑発する。再び悔しそうな表情を見せるセシル。その表情が、余計にドルバンの興奮を高めていく。
「カイゼル、もっと近くでやれ。セシルに、見せてあげるんだ」
「な……!」
「やれやれ、悪趣味だ。――嫌いじゃないがな」
カイゼルは一度動きを止めると、ソファーを動かし、ベッドの目の前に移動。そこに再びセリアを抱きかかえて座り直した。
手を伸ばせば触れられる距離で、妹に危機が迫っている。自らが抵抗不可能なこの状況で。悔しさと、怒りと、悲しさが混ざり合い、セシルの考えが少しずつ纏まらなくなっていく。
そしてそれは、ソータも同じであった。
(セシル……セリア……ごめん……俺、もう……)
視界の先で、幼馴染二人が、同時に男達に弄ばれている。さらけ出された素肌は、あっと言う間にソータの理性を奪い、代わりにソータの心は背徳感に支配され、ただ見る事しか出来なくなる。
そして、全てが終焉に向かって進んでいく。
「さて、私ももう限界だよ」
当初の面影など欠片も無くなったドルバンが、ついにセシルのスカートに手を伸ばし始めた。
「…………」
セシルは無抵抗だった。もう既に、諦めの境地に入り始めていた。
部屋に静かに響く、衣服の擦れる音。――その音を、その部屋で、当然の様に聞けたら、ソータはどれだけ幸せだっただろうか。だが、今ここに居るのは背徳感と興奮に負けただ見守り続けたソータだった。
(セシル……)
そしてもう一度だけ、助けたいという想いが生まれた。でもそれは、直ぐに消えた。――助けられるわけがない。カイゼルもいる。今飛び出した所でどうにもならない。
だったら――最後までこのままで。バレなければいい。ずっと夢見ていた、セシルの全てが見れるのだ。それで、もう……
『本当にそれでいいのか』
(!?)
その声は、突然脳内に響き渡った。耳から聞こえるとかではなく、脳に響いた。
『君の欲望はわかる。背徳感は力。汚れていても力だ。でもそれは、最後の一線を守ってこそだ。全てを失った時、その興奮は全て後悔になる』
(わかってる……わかってるよ、でも……!)
気付けばソータは、脳内でその謎の声と会話をしていた。冷静じゃないせいか、何故こんな現象が起きているのかなどと考える余裕はなかった。
『その想いを力に変えろ。その想いで最後を守れ。君なら出来る。今こうして、ギリギリまで駄目だとわかっていて覗き続けて来た君なら、この力を使いこなせる』
(人の事、馬鹿にしやがって……! 俺だって、俺だって、本当は……助けたいし、助けられないなら、あんな風にセシルとセリアの体を自分の物にしたい……!)
ドクン、ドクン、ドクン。――心臓の鼓動が速くなる。その音が周囲に漏れて、隠れているのがバレないか心配になる程。
『解き放て、その背徳感を、興奮を! 今しかない、君なら出来る! 君がしたいのは、何だ! その想いに身を任せろ!』
「う……う……うおおおおおおお!」
直後、ソータは大きく叫ぶ。それに反応する様に、隠れていたカーテンが一気に光り始める。
「な……誰だ!」
ドルバンは正に後一歩、という所でその光景が目に入り、流石に動きを止める。直後、カッ、とカーテンがフラッシュし、ドルバンも、セシルも、カイゼルも一瞬目を離す。
「ギリギリ戦士ヤバイバー……見参!」
そして再びそこを見れば、そこには赤いマントに赤い仮面を被った、謎の人物が立っていたのであった。