勝利宣言
「いや、マジでゴメンて! あんな攻撃が飛んでくるとは思わなくてさ!」
「う、うん。し、仕方ないんじゃないかな……」
「しかし、俺が運転するとやっぱり勝てないんじゃないかね。第2レースはソウが出るとして、第3レースはどうする?」
「ど、どうするって、い、一条くんは走れないし」
「博士ちゃんは?」
「わ、私? うーん……車椅子の私だと一条くんと同じ機体しか乗れないし、もし壊しちゃったら次の日の第4レースが……」
「けど、俺が出てまたリタイアになっちまったらさぁ」
「そ、それは私でも同じだよ! むしろ、私だったら加賀美くんみたいに2位まで上がることもきっと……」
「けど、俺が走ったら上のリーグに勝ち上がれないぜ? 残り3レース、全部1位取る勢いで行かなきゃダメだろ? 俺が出るべきじゃないって」
「そ、そんなこと……」
「じゃ、とりあえず今日は帰るわ。明日、頑張れって、ソウに伝えといて」
「あ、ま、待って! き、機体は?」
「ああ、いいよ。俺の機体なんだし、俺が自分で直す。あ、それとも……」
「そ、それとも?」
「改造して、博士ちゃんが乗れるようにする?」
「え……そ、それは……」
「……じゃ、帰るから」
加賀美レイは、スマホを片手に機体の方へ歩いていく。
その背中を無言で見送る、望見ニナ。
加賀美がスマホで通話を始めるのを見ると、ニナはその場を離れた。
ニナが向かった先は、レーサー用の休憩室でくつろぐ、一条ソウの元。
「お疲れ様」
ソウは、休憩室に入ってきたニナを見て言った。
「どんな感じだった?」
「うーん……落ち込んでるって雰囲気ではなかったけど、もうレースに出たくなさそうな感じだった……かな」
「そっか」
そう言って、ソウはテーブルのコーヒーカップを手に取り、少し飲んだ。
「ビビってる感じだな。俺が『残りのレースで勝ちゃいい』って声掛けた時もあいつ、顔が引きつってた。元気づけたつもりが、逆にプレッシャーになったらしい」
ソウはコーヒーカップを置いて、壁に設置されたモニターを見上げる。
モニターには、各チームの獲得ポイント数と順位が一覧で表示されていた。
「第3レースまでには、やる気出させないと」
ニナは、ソウのこの言葉を聞いて、少し荒んだ、冷たい雰囲気を感じた。
ソウが加賀美の気持ちを、考えていないような気がして。
「こ、怖いのかも」
ニナは自信なさげに、呟くように言った。
自分の発言にも、ソウが納得するかどうかも、自信が無かったから。
「怖い?」
ソウが聞き返す。
「だ、だって……私だったら、あんな攻撃受けて、機体が動かなくなったら……怖いと思う。次のレースでも同じ事をされるかもしれないと思ったら、余計に……」
ニナは、ソウの顔を見ながら言うのが怖くて、休憩室の窓から見える湖の、日光を反射して輝く水面を眺めながら、言った。
「そっか」
ソウは、短く返した。
「普通は、そうなんだろうな」
「そ、そうだ! 一条くん、大丈夫だった?」
ニナが思い出したように言う。本当は忘れていたのではなく、ずっと気にしていたことだった。最初はニナ、ソウ、加賀美の3人で、機体の前で話していた。そこへ「ニードルズ」のチームメンバーと思われる男達が数人やってきて、ソウにこの休憩室までついてくるよう呼び出したのだ。その後、しばらくニナと加賀美で話をした後、今に至る。
「ああ、あれはたいしたことなかったよ」
ソウは、道端でアンケートを採られた程度の感覚で言った。
「『次のレースで同じ目に遭いたくなかったら、俺達に協力するか、リーグを勝ち上がるのは諦るか。好きな方を選べ』ってさ。いっちょまえに、睨みを利かせながら言ってきたよ」
「そ、そんなこと言うなんて……」
「ああ。よっぽどオレらにビビってるらしい」
ニナがソウを見ると、彼は思い出し笑いをするかのように口元を小さく曲げていた。
「わざわざレースの数日前から、ちょっかいかけに来てたんだ。それこそ、今の加賀美よりずっとビビってるんじゃないかな」
「あ、あの棘の爆弾、何とかできそう?」
ニナは、心配を胸にソウに尋ねた。
「ああ、大丈夫」
「ほ、本当のこと言ってね!」
「ん?」
「あ、安心させるために言ってるなら、そうじゃなくて、ってこと……加賀美くんもいたときにも話したけど、あの攻撃、反重力エンジンと AI を積んでるみたいなの。だから、普通の追尾型攻撃とは違ってて……」
「オレ、安心させるために嘘つくとか、苦手でさ」
ソウは、いつもの余裕のある雰囲気で言う。
「だから、本当に余裕で避けれる。AIって言ったって、あの反応速度じゃたいしたことない」
「なら、いいけど……」
「オレの心配はするなよ、ニナ」
ニナは、突然名を呼ばれてハッとした。
「その分、加賀美の心配をしてやってくれ」
“闇レース”が終わって、「整備士」と「客」の関係でなくなってから、ソウはニナに丁寧語を使わなくなった。
――それだけでも、ちょっとドキッとするとき、あるのに……
「う、うん」
ニナは、照れ隠しで少し俯く。
少しして顔を上げたニナは、驚いて目を見開いた。
ソウが、冷徹な、尚且つ闘志を燃やした表情で、正面のモニターを見つめていたからだ。
「思い通りに、なると思うなよ」
ソウは、独り言のように呟いた。
「まずは、あのふざけた棘爆弾を潰す」
<“D-3リーグ”Fブロック第2レース 参加選手一覧(括弧内は所属チーム)>
1 緑川快 (アカガメレーサーズ)
2 seven(Dan-Live A-Team)
3 棘野順二 (ニードルズ)
4 山坂まこ(お茶の間親衛隊)
5 ゴリラ(動物園)
6 片岡栄吾 (ハバシリBチーム)
7 よっす(お笑いの走り手達)
8 儀棚友和(千種食器)
9 どうもなあ(言葉遊びレーサーズ)
10 四葉ななみ(グラビアレーサーズ)
11 メイス(シャドウズ)
12 一条ソウ(チーム望見)




