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棘に映る肖像

 加賀美かがみレイがレーサーを目指し始めたのは、大学に入った時のことだ。


 「レーシングサークル」に入り、走ることの楽しさを知った。

 サークルに1機だけあった機体で、コースを走ってみた。それだけで、魅力にとりつかれるには十分だった。

 入ったのが工学部で、機械をいじるのが好きだった彼が、機体の製作にも興味を持つのも自然な流れだった。


 だが、加賀美は壁を知った。




 どんなに頑張っても、「操縦のセンス」という壁がある。




 サークルのエースのタイムは、何度挑んでも超えられなかった。

 「熱心だけど、趣味だよね?」と、誰からも言われた。

 加賀美自身もそれを自覚し、大学と同時にレースからも一旦は卒業した。


 それでもレースの世界に帰ってきたのは、企業で働くセンスもどうやら加賀美には無いからだった。

 企業を勤め続けるメンタルを持たない加賀美を拾い上げるチームは無かった。

 それでも他に道を見つけられなかった彼は、3年間、使う時間も無く貯め続けてきた預金と親の仕送りをはたいて機体を自作し、自分なりに機体をチューンアップした。


 才能の無い奴は、“打開”で勢いに乗らなきゃ勝てない。


 好きな勝ち方じゃない。

 本当は、昔の映像で見た“神威カムイ”のように、攻撃に頼らず速くなりたかった。


 


 期待されない自分も、本当は好きじゃない。


 チームメイトに「勝てなくてもいい」じゃなくて、「お前も勝て」と言って欲しかった。







 <特殊武装“棘の鉄槌(ニードル・ハマー)”>。


 小型の反重力エンジンとAIを搭載した、高威力の“迎撃ミサイル”。

 人を乗せる必要が無い、限界まで小型化したボディは反重力エンジンにより超高速移動を可能とし、AIは指定した敵機を、敵機の動きに合わせた巧みな操縦で追い詰める。

 最後は反重力エンジンを自爆させることで、狙った敵機に甚大な損傷を与える。




「これが俺達『ニードルズ』の新兵器だ!」

 公共フリー通信で、誰かの得意げな挑発が響く。

「2位の機体、潰させてもらうぜ!」


「反重力エンジンを積んだ“迎撃ミサイル”だ」

 今日は砲撃手ガンナー一条いちじょうソウが、敵の攻撃を分析する。

「こっちの“迎撃ミサイル”で撃ち落とす」


 加賀美は、バックミラーで敵の攻撃を確認した。

 魔力の塊である通常の“迎撃ミサイル”とは違い、重たそうなボディを持つ、どちらかというと機体に近い容姿だ。黒いボディに、大きなとげがびっしりと生えている。棘のついた棍棒こんぼうのようなデザインだ。


 ソウが機体の背部銃口から“迎撃ミサイル”を発射する。ソウは砲撃手ガンナーとしては初心者のはずなのに、必要なところで的確に“迎撃ミサイル”を命中させている。加賀美にとっては、複雑な心境だった。


 ――やっぱり、才能のある奴は何やっても強いんだな。


 今回の狙撃も、見事命中した。敵の“棘の鉄槌(ニードル・ハマー)”は、迎撃されないよう左右にちょこまかと動きながらこちらへ迫ってきていた、それにも関わらずだ。




 しかし、それは絶望の始まりでしかなかった。




「効いてない!?」


 ソウの驚いた声に、加賀美はもう一度バックミラーをチラ見した。

 “棘の鉄槌(ニードル・ハマー)”は、何も無かったかのように相変わらず、こちらを追ってきている。


「バカが! “棘の鉄槌(ニードル・ハマー)”の装甲に、フツーの“迎撃ミサイル”なんて効くかよ!」

 通信であおってくる声が聞こえる。

「無敵、もう一回できるか!?」

 ソウが焦った声で加賀美にく。

「……無理だ」

 加賀美は、魔力残量のゲージを見ながら言う。

「魔力残量が5パーを切ったら、使えないようになってる。“無敵道化スター”解除前に魔力が切れると、バリアが暴走して機体が自爆するから」

 魔力残量のゲージは、今は「4%」と表示されている。


 線香花火のような音が聞こえた。

 その直後、フロントガラスの真正面に、棘だらけのボディが姿を現した。




 コクピットを破壊されることはなかった。

 しかし、機体下部の反重力エンジン付近に、大きな衝撃が走った。




「ハンドルが効かない!」

 加賀美は叫んだ。

 実際は、効かなくなったのはハンドルだけではない。アクセルもブレーキも、反応しなくなっていた。

「墜ちる!」




 墜落したのは、ゴール前の最終コーナー手前だった。

 幸い、加賀美もソウもケガは無い。

 機体だけが、動かなくなった。


「クソ!」

 他の機体が上を通り過ぎる中、二人は反重力エンジン部の損傷具合を確認していた。

「こりゃ、さすがに動かないな」

 整備士の資格も持つソウは、煙を上げる反重力エンジンを見て言った。

「あんな装備は、前のシーズンには無かった……クソ! オレの判断ミスだ」




 ――「お前じゃない。」




「まだだ」

 加賀美が、口を小さく動かした。

「……ん?」

「機体を押して歩けば、ゴールできない距離じゃない」


「……いや、無茶言うなよ」

 ソウは、あきれ顔で言った。

「普通の車よりも重いんだぞ? しかも、オレはこの足だから押すのも引っ張るのも無理だ」

 ソウは松葉杖で立ち上がりながら言った。

「ソウはいいよ。俺一人でやる。今までだって、一人でやってきたんだ」

「やってきたって、それはレーサーとしての話だろ」

「うるせぇ! やるんだよ!」


 加賀美は機体の後ろへ駆けていく。

「うああーっ!」

 叫び声が聞こえると、ズズ……と機体が少しだけ、地面を滑った。

「やめろ、もういい! ゴールできたって、どうせ12位だ! 1ポイントしか入らない!」

「リタイアしたら0なんだろ!?」

「だから、違いなんてほとんど――」

「俺は認めねぇぞ、こんなの!」

「……加賀美?」

「俺は、俺は……諦めねぇんだ。どんなに否定されたって、諦めてなんか……」

 少しずつ、機体が砂利を押しのけて滑る。

 少しずつ、1センチずつ。

「諦めてなんか、やらねぇんだ……」




 11位がゴールして、20分以上が経過した。

 開始から1時間半を超え、レースは強制終了となった。

 12位の機体だけがゴールできず、時間切れのリタイアとなった。







<“D-3リーグ”Fブロック第1レース 最終順位(括弧内は所属チーム)>

1位 赤居祐善 (アカガメレーサーズ)

2位 ローデス(Dan-Live A-Team)

3位 景谷尊号 (ニードルズ)

4位 村道みのり(お茶の間親衛隊)

5位 ゴリラ(動物園)

6位 佐東陣 (ハバシリBチーム)

7位 うっす(お笑いの走り手達)

8位 戸倉洋二 (千種食器)

9位 なんだかなあ(言葉遊びレーサーズ)

10位 二船佐和 (グラビアレーサーズ)

11位 キング(シャドウズ)

リタイア(時間切れ) 加賀美レイ(チーム望見)


<“D-3リーグ”Fブロック 各チーム獲得ポイント数&順位>

1位 アカガメレーサーズ 12pt

2位 Dan-Live A-Team 11pt

3位 ニードルズ 10pt

4位 お茶の間親衛隊 9pt

5位 動物園 8pt

6位 ハバシリBチーム 7pt

7位 お笑いの走り手達 6pt

8位 千種食器 5pt

9位 言葉遊びレーサーズ 4pt

10位 グラビアレーサーズ 3pt

11位 シャドウズ 2pt

12位 チーム望見 0pt

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