表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/56

レース直前、強者の思い

 (ダンジョン)レーシング国内最大グランプリ“(ディー)リーグ”。

 その開幕戦となるのが、全国8カ所、8グループに分かれておこなわれる“D-3リーグ”の第1レースだ。


 この8つのグループの中で、異常なまでに注目を浴びているグループがあった。


 それは、Fグループ。


 注目の理由は、2つある。


 1つは、強豪チーム“アカガメレーサーズ”の存在。

 前シーズン、D-2リーグから陥落かんらくしたことで一部では「アカガメは終わった」と噂された。しかし陥落の要因は、D-2の他チームから警戒され、魔法攻撃を集中されたことによる順位の低迷、そして何より、リーダーにしてエース・赤居あかい祐善ゆうぜんのケガによる欠場だった。

 赤居が復帰した現在、問われた評論家が全員「アカガメのD-2昇格はほぼ確実」と太鼓判を打つほど、その実力は盤石だ。


 もう一つは、その赤居祐善をエキシビジョンで破った謎のレーサー、一条いちじょうソウ。

 表沙汰にはなっていないが、“闇レース”において“雷王”我田がだ荒神こうじんを破ったことで、一部の界隈かいわいではアカガメを超える関心が寄せられている。

 彼が「チーム望見のぞみ」の一員としてD-3リーグ“Fブロック”へ参戦することが判明した時、多くのレーサーとレースファンが、ある一つの疑問を持った。




 一条ソウの速さは、本物なのか?




 その答えを知り得るレース。

 それが、一条ソウと、“全力の”赤居祐善の対決だ。







「ようやくこの日が来たな、祐善」


 会場に一番乗りした“アカガメレーサーズ”の面々は、広々としたピットで、早くも機体の整備を始めていた。

 その最中、機体内で装備の調整をしている赤居祐善に声を掛けたのが、チームでナンバー2の実力者、緑川みどりかわカイだ。


「エキシビジョンの雪辱、晴らせるといいな」


「ちょっと快、その話題はダメよ」

 緑川をたしなめたのは、赤居の隣で機器の調整を進めていた砲撃手ガンナー桃葉ももはユリンだ。

「こう見えて、結構気にしてるんだから」


「構わねぇよ、ユリン」

 赤居は、挑発的に口元を歪めて笑う。

「本当の実力は、嫌でも結果に出る。何戦も続く、Dリーグでな」


 赤居の機体は、エキシビジョンとは異なっている。

 エキシビジョンで乗っていたのは、型落ちの“ポンコツ”だった。

 今日の機体は最新の装備を搭載した、赤居の“本命の機体”。

 エキシビジョンとは、速さも装備も段違いの高性能。

 「運良くとはいえ赤居を破った男・一条ソウと再び相まみえたとき、完膚なきまでに叩きのめすため」と、チーム“アカガメレーサーズ”の専属整備士達が全力を結集して用意したのが、今日の機体だ。




「その機体を、まさか初戦で見ることになるとはな」

 陰険いんけんそうな男の声が、ピットに響いた。赤居達が、声の方に注目する。


 そこにいたのは、赤居達“アカガメレーサーズ”と同じく、前シーズンにD-2から陥落したチーム“ニードルズ”の面々だ。

 彼らのトレードマークは、一様に揃えたスキンヘッドの髪型。赤居達からは10メートルくらい離れた位置にいるので、どれが誰だか区別がつかない。

 声の主は、そのリーダー・棘野とげの順二じゅんじだ。と言っても、声から判断できるだけで、棘野がスキンヘッドの群れのどの辺りに立っているのか、赤居にはよくわからなかった。


「いきなり虎の子の赤居が出るほど、“アカガメ”は追い詰められてんのか。他のレーサーは、ビビってションベン漏らして逃げたのか?」

 棘野は、棘のある言葉で赤居達をあおる。


「野郎……」

 緑川が、眉毛を怒りでじ曲げながら棘野をにらむ。


「ちげーよ。初戦で教えてやろうっていう、親切な心遣いだ」

 赤居は、挑発を物ともせず言い返した。

「どのチームがぶっちぎりの1位で、どのチームが情けねぇ2位争いを頑張るしかねぇのか、ってことをさ」


「あ?」

 棘野が、ドスの利いた声で唸る。赤居は、構わず言葉を続ける。

「特に、こないだまでD-2にいたからって、自分達が強いとカン違いしてるハゲどもにな」




 赤居と棘野達が睨み合っていると、次第に周囲がざわつきだした。

 他のチームも続々と会場に到着し、ピットで調整を始めているからだ。


「……てめぇは、ウチのナンバー2が倒す。俺様が出るまでもねぇ」

 棘野が言う。見た目的には、どのスキンヘッドが言ったのか赤居達にはわからない。

「良かったな。『一番手は出てなかったから』っていう、負けた時の言い訳ができて」

 赤居は、どのスキンヘッドが棘野かわからないながらも煽り続ける。


 チームのどの選手がレースに出場するかは、前日に事前に登録をする。当日、他チームの動向に合わせて出場選手を決めるのを防ぐためだ。


「悪いけど、あんたらは眼中に無いんだ」

 赤居の舌戦を見て勢いづいた緑川が、負けずに挑発する。

「ウチのエースが本気の機体で出るのは、エキシビジョンで運良く勝った“一条”って奴に教えるためだよ。『本当に速いのは、赤居祐善だ』ってね」


「ハッ!」

 負けじと煽り返す棘野。まるで、この舌戦の勝敗がレースに影響する、と言わんばかりの勢いだ。

「無名のレーサーにもリベンジしなきゃならねぇとは、“アカガメ”も落ちたもんだな!」




 ――こいつら、完全にビビってるな。


 赤居は、棘野の煽りを聞きながら冷静に考えた。


 ――機体の調整もそっちのけで、精神攻撃しかけようとしてるのでバレバレだ。






「あっ!」

 赤居の隣に座っているユリンが、パッと明るくなった電光掲示板を見て、声を上げた。

「今日の出場選手、一覧出たわよ!」


 その声を合図にするように、緑川も棘野達“ニードルズ”も、一斉に電光掲示板に注目する。


 赤居も、掲示板を見た。


 他のチームなど興味無い。

 一条ソウが所属する“チーム望見”から出場するのは、誰なのか。

 それだけが、赤居の興味を引いた。




 加賀美レイ(チーム望見)




「なんだ、一条は出ないのか」

 棘野の安心したような、ガッカリしたような声が聞こえた。彼も、エキシビジョン1位の一条には少なからず関心があったらしい。

「オイオイ、赤居を敬遠したのか、一条?」

 緑川は明らかにガッカリとした、不満げな声を上げた。

「そんなわけないでしょ。運が悪かっただけ」

 ユリンが言った。

「残念だけど、汚名返上はまた今度ね。気落ちせずにいきましょ」


「ああ。誰が相手だろうと、やることは同じだ」

 赤居は、落ち着いた声で言った。




 ――よ……よかったあああああああああ。


 そして赤居は心の中で、心底安心していた。


 ――一条ソウに勝って雪辱を晴らす? 汚名返上? ムリムリムリムリ! 勝てるわけないって、あんな速い奴!




「けど、せっかく一条と戦うために機体用意したのに……」

 それでも落胆が隠せない様子の緑川の声が、赤居の耳に入る。




 ――いやいやいや、機体性能とか、そういうので何とかなるレベルじゃねぇっつーの! チームの連中が「一番いい機体にしろ」ってうるせぇから仕方なくそうしたけど、実際に一条と走ってたら赤っ恥だったぜ!




「なんだ、一条は出てないウホか」

 赤居の機体を横切って歩きながら、掲示板を見たレーサーがつぶやいた。

 チーム“動物園”所属・ゴリラ。呟きでも声がデカい。見た目はほぼゴリラ。

「せっかくオイラが出るウホなのに、雪辱が晴らせないウホ」




 ――いや何言ってんの、あのバカゴリラ!? エキシビジョン出たのに気付いてないのか? 追尾攻撃あんなにホイホイ避ける奴、D-1にもいねぇって! つーかチームの奴ら、「汚名返上」とか「リベンジ」とか言うのもうやめてくんないかな? 二度とアイツと走りたくねーんだよ、こっちは!




「おい、棘野! 悪いが宣言させてもらう! 俺は1位を取る!」

 最も恐れていた“一条ソウとのレース”を回避できた赤居は、テンションが上がるあまり棘野に追加の挑発をかました。

「反省会の予定でも立てとけ!」




 ゴキゲンな赤居は威勢のいい挑発を終えると、何やら必死に言い返している棘野を無視して、ポケットからスマホを取り出した。

「さーて、そろそろ配信でも始めるかな」







<“D-3リーグ”Fブロック第1レース 出場選手一覧(括弧内は所属チーム)>

No.1 赤居祐善 (アカガメレーサーズ)

No.2 景谷尊号 (ニードルズ)

No.3 ローデス(Dan-Live A-Team)

No.4 なんだかなあ(言葉遊びレーサーズ)

No.5 佐東陣(ハバシリBチーム)

No.6 うっす(お笑いの走り手達)

No.7 戸倉洋二(千種食器)

No.8 二船佐和 (グラビアレーサーズ)

No.9 ゴリラ(動物園)

No.10 村道みのり(お茶の間親衛隊)

No.11 キング(シャドウズ)

No.12 加賀美レイ(チーム望見)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ