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侵入者

「ちょっと待って! 俺は雪野ゆきのアズサの予備砲撃手(ガンナー)として勧誘したんじゃないの!?」

 加賀美かがみレイは、驚きの声でソウに抗議した。

「俺が運転手ドライバー!? 俺、今まで一人で走ったレース、全敗だぜ!?」


「今までのレース結果なんて、これから出るレースの結果には関係ねぇよ」

 一条いちじょうソウは、ニッと笑って言った。

「それに、知らねぇの? そもそも、リーグはシステム上、一人で全レース出るのは無理だ」

 そう言って、ソウは歩き出す。

「ほら、ニナが待ってる。ガレージに行くぞ」




 ガレージに入ると、ソウはまず加賀美の機体の方へ歩み出た。

「が、砲撃手ガンナーの席には、一条くんも乗れるように調整したよ。乗ってみる?」

 ニナが、ソウに声を掛ける。

「すごいな。本当にたった数日でできたんだ?」

「う、うん。運転手ドライバーと違って、座席をいじればいいだけだから」


「まさか……俺の機体を博士ハカセちゃんに預けたのって、お前が俺の機体に乗るため!?」

と、加賀美。

「それと、単純に機体の整備な。お前の機体、速さ以前に故障が多すぎるんだよ」

「は、外れかけてる部品がいっぱいあったから、直しておいたよ」


「そ、そりゃどうも……」

 加賀美は、恥ずかしそうに頭を下げた。

「金が無いから自分で整備してるんだけど、どうも苦手でさ……」




「そうだ! で、なんで俺が出ないといけないんだ!?」

 加賀美は顔を上げて言う。

「なんだ、マジでリーグの仕組みわかってないの?」

 ソウは呆れ顔で応える。

「じゃあ、説明するよ」




 3人は、加賀美の機体の近くにある作業台を囲んで座って、話をすることにした。


「まず、オレ達がこれから出るD-3リーグは、1日1レースを4回、計4レースで勝ち負けを決める」

「そこは知ってるぜ! 各レースで順位ごとに点数がもらえるんだろ?」

「そ。例えば12チームでレースしてるなら、1位は12ポイント、2位は11ポイント、って感じで1ポイントずつ減ってって、最下位は1ポイント。リタイアは0ポイントだ。4レースの合計点が高い2チームが、上位の『D-2リーグ』に進める」

「ま、まず、完走できないと最下位よりポイントが低いんだよね」


「問題は、その4レースを5日間のスケジュールでやる、ってところだ」

 ソウが言った。

「具体的には、第1、第2レース、1日休んで、第3、第4レース、っていう5日間。加賀美。お前、連日でレースしたことある?」

「いや、無いな」

 加賀美、即答。

「それは、なぜ?」

「レースした次の日って、いっつもすっげぇ疲れてんだよな。何もする気にならねぇ」


「そこが問題だよ」

 核心をついた、といった感じで、ソウは続ける。

「Dレーシングの機体は、運転手ドライバーの魔力をかなり吸う。1回レースしたら、次の日はとても走れるような状態じゃない。つまり」


「……一人が2日連続で運転手ドライバーをやるのは、無理」

 加賀美は、結論を察して俯いた。

「そういうこと。リーグは2人以上で分担して走る前提の日程、いわば『チーム戦』だ。加賀美、お前には第1と第3の2レース、走ってもらうぜ」



「マジか……」

 加賀美は、虚ろな視線であちこちを見ながら言った。

「やべぇ。俺、完全に走らないつもりでいたわ」


「か、加賀美くんは、レースで何がしたい、っていう目標はあるの?」

 意気消沈した加賀美に気を遣ってか、ニナが話しかけた。

「えっ?」

「ほ、ほら、一人で機体を用意して、ずっとレースに参加してきたんでしょ? すごいと思うよ!」


「そ、そうか?」

「うん! 私なんて、1レース走りきることもできなかったんだから!」


「いやあ! まあ、俺の目標は、最強の“打開専用機”を作ることだからな!」

 加賀美は、すっかり調子づいた。

「下位に落ちてもめげない、諦めない! 一人きりだからって、何のそのよ!」


「だ、“打開専用機”?」

「そ。追い上げ前提の“打開”は、タイム至上主義の公式戦じゃ嫌われ者だ。だから、これまではずっと非公式のレースで鍛え上げてきたんだ」

「そ、そっか。ありがとうね、私達のチームに入ってくれて」

「いやあ、ハカセちゃんみたいな美少女に誘われたら、断る理由なんてねぇよ!」

「び、美少女!?」

「ああ。見た目的に、『美女』ってよりは『美少女』かなあと」


「とにかく、第1レースと第3レースは頼んだぜ、加賀美」

 加賀美がニナを口説きにかかったからか、若干苛立ち気味のソウ。

「1位を取れなくたっていい。合計点で勝ちゃいいんだからな」


「で、第2・第4レースでソウが出て、足りない分のポイントを稼ぐと」

「ああ。今の機体は、こないだの“闇レース”で扱いに慣れた。魔力の少ないオレでも、疲労を何日も引きずることはもう……」




「あ、あの」


 話の途中で、ニナが俯き加減で、テーブルに乗り出した。

 とても、申し訳なさそうな感じで。


「な、なんでしょう?」

 ソウは、彼女のあらたまった様子に引きながらも、応対する。


「い、一条くんの魔力なんだけど……たぶん、少なくない……」




「どういうこと?」

 加賀美の質問にニナは口を閉ざしたまま、1枚の用紙をテーブルの上に置いた。

 はじめはニナが読みやすい向きに置いたが、ハッと気付いた顔をすると、反対側にいる加賀美とソウが見やすい向きに直し、置き直す。


 機体の安全テストの結果を記載した、保証書だ。


「き、機体が搭乗者から吸う魔力量は、安全テストで決められた基準があるの」

「ああ。ニナの機体は、その安全テストに合格してる。だから、機体は悪くない。悪いのはオレの……」

「だから、違うの!」

 ソウの言葉を、ニナは慌てて遮る。彼女は、今までに無いくらいの速さで口を動かす。

「基準は! 『運転者の最大魔力量の10分の1』って、決められてるの!」


「いや、知ってるが」

 ソウは、ニナの意図するところが読めず、困惑しながら言葉を返す。

「そ、それで……安全テストでは私が運転者でテストしたから……」

 ニナは、用紙のとある箇所を指差した。

「保証書を貰った時は、嬉しくてよく見てなかったけど……よく見たら、こんな結果なんです」




 加賀美とソウは、指差した先の記述を、じっと見た。


「……加賀美。お前、自分の最大魔力量、知ってる?」

 ソウは、まず加賀美に質問した。

「ああ。3,600mp」

「大人の平均値ぴったりだな」

「すげぇだろ」

「いや、それよりこれのが……」




 運転者:望見ニナ

 運転者の最大魔力量:100,000mp

 機体吸収魔力:上限9,500mp




「すごすぎだろ」

「いち、じゅう、ひゃく……」

「10万だ」

「……10万か……」

「常人の、およそ30倍」

「30倍!?」


 一足遅れて、驚愕する加賀美。


「上限9,500……そりゃ、手加減無しで吸わせたら、常人なら魔力全部吸い取られるな」

 ソウは、興味深そうにウンウンと頷きながら言う。

「た、たぶん、私の魔力量、検査ミスだよ。じ、自分の魔力量なんて、気にしたこと無かったけど……」

「いや、協会の検査でミスはまず無い」

「で、でも、常人の30倍って……」

「昔、世界ランカーのレーサーで、8万って奴もいた。10万がいてもおかしくはない」


「こ、今度はレース前に一条くんも検査を受けるから、こんな無理な吸い方は……」

「ニナ。助手席から吸わせる魔力、可能な限り、沢山にしてくれない?」

 ソウは、腕組みして考え事をしながら言った。

「えっ?」

「このアドバンテージ、できるだけ生かしたいんだ」


「アドバンテージ?」

 加賀美が聞き返す。

「ああ。機体に持たせる魔力量が多いのは、それだけでアドバンテージだ。それどころか、運転者の魔力量は“大加速ブースト”できる回数にも影響するし、うまくいけばニナに運転して貰うのも……」

「ま、待って!? 私が運転だなんて、そんな――」

 ブツブツと呟くソウの言葉に反応するニナ。




 だが、ソウはそのニナの声を遮って、上を見上げて声を張った。




「おい」


 ソウの言葉を聞き、視線を見て、加賀美とニナも上を見上げる。




「いつまで、こっちを覗いてんだ?」







「なんだ、バレてたのか」




 ガレージの換気口の隙間から、顔を覗かせる不気味な男が、そこにはいた。

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