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「今までは、警察に影響力のある権力者達が“闇レース”の資金源パトロンを担ってきた」




 一条いちじょうソウと“雷王”我田がだ荒神こうじんのレース、そして、その後のやり取りを遠巻きに眺めている、二人の男がいた。




「我田が負けた瞬間、彼らは『後ろ盾を辞める』と方々《ほうぼう》へ伝えたようだ。おかげで“闇レース”をマークしていた警察が、大々的に動けるようになった」

 上品な紺のスーツを着た男が、隣の男に話す。

「まあ、警察がいなくてもココは潰れただろうけどね。目玉商品が《《あのザマ》》じゃ、客はもう寄ってこない」


「“雷撃サンダー”とやらが面白いと聞いて来てみたが、とんだ肩透かしだったな」

 隣の男は、額に大きな傷がある。彼は、退屈そうに肩をすくめた。

「あの程度の魔力出力では、遊びにもならん」




「あの砲撃手ガンナーは? 狙撃精度に加えて、警察の潜入捜査官とか、結構面白そうじゃん?」

「生身で大型ライフルを振り回す腕力は、まあ悪く無いが……所詮、凡人に毛が生えた程度の特徴だな」




「“消失ゴースト”は、珍しかったんじゃない? ゼウ」

 潜入捜査官・雪野の合図で、突入した警官達に我田らが取り押さえられる光景を眺めがら、スーツの男は話を続ける。

「ふふ……そうだな」

 “ゼウ”と呼ばれた額に傷のある男は、逃げ惑う観客達を見てニヤニヤしながら言う。

「この細道のコースでエンジンを切って衝突大破クラッシュしないのは、世界ランカーくらいのものだ。それを平然とやったのは評価できる。だが」


「だが?……フフッ」

 スーツの男は、無様に地面を這いずり回って逃げようとする我田を見て、鼻で笑った。

「ゴメン。絵面えづらがあまりに面白かったもんで。いや、なんだって?」




「直後の昇日の曲線(ライジング・ドリフト)。アレはダメだ」




「そ? 公式戦でも見れない、見事なドリフトだと思ったけど」

「加速が恐る恐るだった。ミスが怖かったのか? それとも他に理由があったのかは知らないが……」


 言いながら、“ゼウ”は我田に注目した。

 我田は警察の制止を振り切り、機体に乗り込む。

「くそぉ! ふざけんな! もう何もかもおしまいだ!」

 我田が叫ぶと、機体は暴走するように動き出し、賭博レース場の出口へ向かって走り出した。

 観客をくのもいとわない様子で、危険な運転をする我田。


「あの程度のドリフトでは、おれとは勝負にならない」


 “ゼウ”は、我田の機体をひと睨みした。


 その瞬間、耳をつんざく破裂音と共に、機体の反重力エンジンが砕け散った。

 制御を失った我田の機体は、地面を滑って壁へ飛んでいく。


「帰るか」

 凄惨な衝突音を聞きながら、彼は会場に背を向けた。

「え? もう? ……まあ、いいか」

 スーツの男も、呆れた顔で帰りの方角を向く。

「確かに、もう面白い事は起こらなさそうだ」




 我田の機体の反重力エンジンを破壊したのは、爆発でも“迎撃ミサイル”でもない。

 魔力そのものの圧力から生まれる“衝撃波”。

 魔力自体に物理的な力を持たせる“衝撃波”は、あらゆる魔法攻撃を超越した威力を誇る。しかし、その発現には莫大な魔力を要し、機体による魔力増幅を以てしても、“衝撃波”の発現に至る者はわずかしかいない。


 “ゼウ”という男は機体の力を借りず、己のみの魔力で、さらには遠隔で“衝撃波”を発生させる。




 彼のレーサーとしての呼び名は“ゼウス”。


 「神の“如き”速さ」を名に冠した“神威カムイ”とは違い、「神」そのものを名に冠する。


 彼は世界で唯一、「強すぎて勝負にならない」という理由で、世界レース協会からあらゆる公式レースへの参加を禁じられた。


 出会った人間すべてが認める、“世界最強のレーサー”。




 会場を出る直前。

 “最強”は、背中に視線を感じた。

 一条ソウの視線を。




 この二人がレースで戦うのは、まだ随分と先の話だ。

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