02 殺気
意識を取り戻した時、目を開ける前に真っ先に行ったのは周囲の気配の探索。
里始まって以来の才女と呼ばれた理由は過酷な修練の賜物というだけでは、実は無い。
生来の異常な感覚の鋭さ。
気配を読むことに関して、私は絶対の自信を持っていた。
最も今となっては、裏切りの気配すら感知出来なかった自分の自惚れを恥じるのみであるのだが。
自慢の気配感知によれば、敵は目の前のひとりのみ。
しかし、その気配感知のせいで状況が絶望的であることをも悟る。
目を閉じているからこそ分かる、相手の圧倒的な実力。
万全の自分でも引き分けすら難しいほどの使い手。
いわんや拘束状態においてをや。
私の乱れる思いを知ってか知らずか、敵があっさりと拘束を解いた。
目線のみで素早く周囲を確認。
目の前には槍を構えた小柄な少女、不敵な余裕の笑みに歯噛みする。
任務失敗した隠密の末路の悲惨さは、子供の頃から叩き込まれている。
依頼主や隠れ里の情報のみならず、私を裏切ったふたりのことさえも、
くのいちの矜持として命を懸けて全てを守秘する覚悟が産んだ言葉。
「くっ、殺せ」
何なんだこの少女は。
私の覚悟を凝縮した一言を聞いた少女は、
呆けたような表情で固まった。
あれだけ私を苛んだ殺気が、今はかけらも無い。
もしや脱出の好機かと身じろぎしようとした瞬間、
死を、覚悟した。
先ほどまでとは比較にならぬ、
およそ人が出せるものでは無い、
狂気としか呼べぬ規格外の殺気。
穏やかな笑みを浮かべながら少女が近付く。
意識が、途切れた。