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第五十一話 カラフルに色づく世界

 あれから半年。


 知佳はまだ、俺や愛奈萌以外の人の前で歩くことはなかった。


 ただ、俺たちにとってそんなことはどうでもいい。


 歩けようが歩けまいが、知佳は知佳だ。


 針の穴よりもミジンコよりも小さなことを気にする必要はない。


 あ、ちなみに、俺はあの後ちゃんと知佳に告白して無事にオッケーの返事をもらったぞ。


 あれ以上の幸せはもうやってこないんじゃないかってくらい、とにかく嬉しかった。


 恋人がいると昨日までとは世界が違って見えるんだよなぁ。


 世界がカラフルになったっていうか、色づいたって言うか、ああ、俺の幸せをみんなにもお裾分けしてやりたいぜぇ!


 もちろん、愛奈萌にだって大きな変化があった。


 なんと、いま世代を超えて流行している動画投稿サイトに個人チャンネルを開設したのだ。


 元人気子役の愛奈萌が元ファンから襲撃されるという事件は衝撃的なニュースとして大々的に報道され、愛奈萌はまた意図せず世間の注目を浴びることになった。


 でも、したたかさを会得していた愛奈萌は、だったらそれを逆に利用してやろうと思い立ち、今回の個人チャンネル設立に至ったのだという。


 チャンネルタイトルは『まなもノート』。


 昔の清楚で礼儀正しかった愛奈萌を見せるのではなく、髪を染めて、メイクばっちりで、BLが大好きな、いまの愛奈萌をありのまま動画にして全世界に公開した。


 実里愛奈萌の激変した姿での復活劇は、襲撃事件以上のニュースになった。


『昔のまなもちゃんがよかった』や『変わりすぎ、ウケる』、『こんなのまなもちゃんじゃありません。襲われて当然です』みたいな批判コメが最初のうちは殺到して炎上したが、それすらも愛奈萌は計算済みだったようで、


「わざわざアンチが私の宣伝してくれるなんて最高だよねー」


 と笑っていた。その言葉通り、すぐに『まなもノート』にかんするネット記事が乱立し、チャンネル登録者数はうなぎのぼりで上昇した。


 俗に言う炎上商法ってやつだよね。


 まあ、いまはもう炎上も落ち着いている。


 チャンネル登録者数は六十万人にまで増えた。


 現在の視聴者たちは、いまのありのままの渋野愛奈萌を受け入れている。


 もちろん相も変わらず批判コメをし続ける、アンチなのかとにかく構ってほしい熱烈なファンなのかわからない人もいるけれど。


 そんな感じで環境の変化はあったけれど、俺たち三人の関係性は変わらない。


 今日だって、学年末テスト終了を記念して三人でお疲れ様会をしているところだ。


 場所は駅前のカラオケ店。


 そこで一時間ほど騒いだ後、曲が途切れた瞬間に、知佳が突然こう言った。



「私ね、今日お母さんとお父さんの前で歩いてみようと思うの」



 ドリンクバー取りに行ってくるね、みたいなテンションで言われ、俺はすぐにその言葉がなにを意味しているのか理解できなかった。


「その決意が、梓川知佳を受け入れてくれる二人といて、ようやくできたから」


 知佳は遠慮がちに笑いながら続けた。


 俺は驚き顔の愛奈萌と目を見合わせる。


「ちょっと二人とも、そんなに驚かないでよ」


 知佳は自分から俺と愛奈萌の手を取り、ぎゅっと握りしめる。


「二人のおかげだよ。二人の前ではずっと歩いてきて、私自身を見せてきて、ああもう大丈夫なんだって、そう思えたから」

「そっか。よかった」


 その言葉を聞いて、俺は知佳の決意を心から祝福できた。これで俺たちだけの秘密がなくなるなぁ、ってちょっと寂しくもあったけどね。


「知佳なら大丈夫だよ」


 愛奈萌は、知佳とつながっている手を見つめながら白い歯をこぼした。


 それから、もう三時間ほどカラオケ店に居座り、解散となった。


 知佳が両親の前で歩くシーンを見たかったし、その場で応援したかったし勇気づけたかったが、あえてそれをしなかったのは、知佳が「一人で大丈夫」と力強く言い切ったから。


 もちろん別れる間際、俺と愛奈萌はできる限りの勇気を知佳に託した。


 そして、その夜。


 風呂から上がった俺は、ベッドに座って、知佳からの連絡を待っていた。


 さっきから謎の浮遊感に見舞われている。


 そろそろじゃないかなぁ……なんて思っているとスマホが震えた。


『知佳から連絡来た?』


 愛奈萌からだった。


 肩透かしを食らった気分だ。


 ったくあいつ、不安なのはわかるけど、いったい何度同じメッセージを送れば気が済むんだよ。


 これでもう十五回目だぞ。


 かくいう俺も、愛奈萌に『知佳から連絡来た?』と十回ほどメッセージを送っているのだけど。


『まだ。でもそろそろだろ』


 そう打ち込んだときに、スマホに新規メッセージを知らせる通知が来た。


 ――知佳からのメッセージがあります。


 しかも、俺と知佳と愛奈萌の三人のグループチャット内に。


「………………きた」


 高校の合格発表のときよりも緊張している自分がいる。いやいや、メッセージが来たってことはきっちりと伝えられたってことでしょ? なんて俺の中の大人ぶりたがる人格がささやいてきたが、心配なものは心配だし、緊張するものは緊張するし、不安なものは不安だ。


 深呼吸を二度繰り返し、覚悟を決めてから、俺は知佳から送られてきたメッセージを読む。


『ごめん。明日は学校休むね』


「嘘だろ……」



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