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第五話 変態ブラコン姉ちゃん登場

 帰宅後、辰馬は制服のままリビングのソファにダイブした。


 今日一日、いろんなことがあり過ぎて疲労困憊だ。


「ああ、あんな可愛い子の、彼氏かぁ……」


 知佳とかかわることで、これからの自分の高校生活――俗に言う青春ってやつががらりと変わるのだと思うと、毎日がより楽しくなる気がする。そのきっかけが童貞であることをからかわれて見栄を張っただけ、っていうのはちょっと切ないけどね。


 そんなことを考えているうちに、うとうととまどろんでいた。


「辰馬、辰馬」

「……んん」


 誰かに肩を揺さぶられている。


 この声は姉ちゃんだな。

 もう少し、寝させてくれよぉ。


「こんなとこで寝ない。もう夜の八時よ」

「……んんん、ごめん。姉ちゃん」


 瞼を擦りながら、体を起こす。


 あれ……ここ、ソファか。あのまま俺、寝ちゃったんだ。


「とりあえず風呂入ってきたら? その間に夜ご飯作っとくから」

「うん……そうする――――ってだから姉ちゃん!」


 明瞭になってきた視界に浮かび上がった姉ちゃんに向けて俺は叫んだ。


「風呂上りなのはわかるけどさ、服着てっていつも言ってるじゃん!」


 俺の言葉通り、姉ちゃんはパンツしか穿いていない。ピンクのフリルのついた可愛いやつ。胸は乳房まで丸出しだ。


「ちょっとは羞恥心を思い出してよ!」


 そう。


 なにを隠そう――なにも隠れてないだろってツッコミはしないでね――姉ちゃんは俗にいう裸族なのだ。家にいるときは、俺がどれだけ頼んでもたいていパンツしか穿いてくれない。着てもキャミソールまで。


 あ、ちなみに、うちの父親は海外赴任中で不在である。


「ええー」


 姉ちゃんは弟の言葉など気にも留めてないようだ。


「いいじゃん別に。家族なんだし。家の中でくらい好きな格好でいさせてよ」

「よくない!」

「年ごろのおなごの裸だぞー! がんぷくがんぷくぅ。ほれほれー」


 ニヤニヤ笑う姉ちゃんがむぎゅっと抱きついてくる。ちょっと! 胸当たってるって! 一般女性よりもかなり大きなその胸は、マシュマロのように柔らかい。


「やめろ! 離れろって!」

「んもう。よいではないかよいではないか。ちょっとだけ。先っちょだけ」

「どこのエロじじいだよ! いい加減離せって」

「またまたー、ほんとは嬉しいくせに。お姉ちゃんはいつだって辰馬を受け入れる覚悟はできてるんだぞ」

「姉ちゃんの裸なんか見て興奮なんかするわけないだろ!」

「姉ちゃん、じゃなくてちゃんと雅って、名前で呼んで」

「だれかこの暴走列車とめてー!」


 必死で姉ちゃんから離れようとするが、抱きしめる力が強すぎて中々離れられない。学校ではカリスマ性と優しさを兼ね備えた、みんなから尊敬される生徒会長様だっつーのに。あの人格はまやかしか? 家じゃただただ弟にダルがらみしてくる露出狂変態ブラコン女でしかないんだよなぁ。一升瓶でも持たせたらうざい酔っぱらい女にしか見えないよ! 婚期を逃した三十路の会社のお局的な位置のな!


 俺はなんとかして姉ちゃんを振り払い、ダイニングテーブルの上に置いてあったジャージとキャミソールを投げる。


「とりあえずこれ着て」


 俺が投げた衣服を受け取った姉ちゃんは瞳をウルウルと潤ませ、


「お姉ちゃんはこんなにも弟を愛しているっていうのに、辰馬はお姉ちゃんのこと嫌いなの?」


 と嘘泣きし始めた。


「いいからとにかく服を着ろ。着なきゃゴキブリより嫌いになる」

「ええー、だって拘束されてる感じがしてやなんだもん。家はプライベートな空間だから私の自由でしょ?」

「俺のプライベート空間でもあるの」

「ちぇっ、しょうがないなぁ」


 本当にしぶしぶと言った感じで、姉ちゃんはキャミソールだけは着てくれた。いやいやそれだけ? と思ったが、なんかもういいや。争う方が疲れる。学校中の生徒から尊敬され、先生からも一目置かれている姉の本性がこれだからなぁ……。


 人間ってわかんないものでしょ?


 まあ、昔の冷めきった姉ちゃんよりはましだけど。


「あ、そうだ、辰馬」

「今度はなに?」

「昼休みのあれ、なんだったの?」

「昼休みって?」

「ほら、いきなり生徒会室使える? なんて聞いてきたじゃん。実は今日あそこで会議が入っててさ、慌てて放課後にずらしたんだよ」

「え? そうだったの?」


 言ってくれれば俺だって遠慮したのに。


「いいって。愛しの辰馬からの頼みだもん」


 姉ちゃんは腰に手を当てて自慢げに胸を張る。


「……で、なんの用だったの?」


 心臓がどくっと跳ねた。


 知佳とのあーんし合いっこを思い出す。


「あ、えっと、クラスメイトからちょっと相談受けてて。誰にも聞かれたくないって言うから、二人きりになれる場所がほしくて」

「それ嘘でしょ?」


 姉ちゃんは、面白いおもちゃを見つけた幼子のようにキラキラと目を輝かせている。


 ってか……え?

 なんで速攻バレたの?


「う、嘘じゃないって。ただの相談」

「ほんとは彼女なんでしょ?」

「だだだだから違うって、うううう嘘じゃないって」

「なにも隠さなくていいのよ。お姉ちゃんは弟のことならなんでも知ってるものだから。だって盗撮盗聴は当たり前だし――じゃなくてそれがお姉ちゃんってものだから!」

「全部自白しちゃってるから。姉ちゃんは色々と隠すことを覚えた方がいいよ」


 そのおっぱいも、弟に対する過度な愛情も。


「ごめんごめん。書記の田中さんから聞いたの。ほら、辰馬と同じクラスの女の子」

「それをはやく言ってくれよ」


 なんだそういうこと。

 だったらもうしらを切り続けるのは無理か。

 同じ学校に通っているのだから、隠しててもいずれバレるもんね。


「ま、まあその……なんつーか、最近、付き合うようになったっつーか。ただそれだけだから」


 本当は付き合っているふりだけど。でも自分で付き合うなんて言葉を言うと、やっぱすげー胸の内側がむず痒いっていうか、変な感じだ。


「そうそう。最初からそうやって認めればいいのよ」

「ごめん。ちょっと、恥ずかしくて」

「恥ずかしいことないでしょ。むしろ立派なことじゃない」


 それまでとは打って変わった姉ちゃんの真剣な声に、俺はつと顔を上げる。すると、いきなりむぎゅりと抱きしめられた。

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