第二十九話 勝負下着っ!?【知佳視点】
「私は、知佳と一緒にいて迷惑だなんて思ってない。私が一緒にいたいから、そう思わせてくれたから一緒にいるんだよ」
ああ、言葉の魔力ってほんとすごいなぁ、と思う。
それを友達から言われたならなおさらだ。
でも。
「知佳はほんとに魅力的なんだから、きっとすぐに辰馬も知佳を好きになるよ」
そうやってにこっと笑われた瞬間、胸の中に浮遊していた幸せの粒がどこかへ霧散していくのを感じた。
――本当に辰馬は私のことを好きになってくれるのだろうか?
あ、ちなみに愛奈萌にはもう真相を見抜かれている。
付き合っているふりをしていると打ち明けた日、辰馬がトイレに行っている間に、
『知佳は辰馬のこと本当に好きだと思ってるでしょ?』
と彼女から追及され、おどおどしていたら即バレした。
「そ、そうかな」
「そうだよ。いまだって、辰馬はかなり知佳に気があるように見えるし」
「……それは、でも」
目を閉じて考えてみる。
流山くんの話を聞いたときに、辰馬にとって私はお母さんのかわりなのかもしれないと思ってしまった。
それを完全に否定できる根拠も自信も、いまの私は持ち合わせていない。もし私が歩けてしまったら、そのとき辰馬はどうするのだろうか。
もちろん、辰馬が私にまた歩けるようになってほしいと思っていることが、純粋な善意であるとはわかっている。
でも、もしそれで、本当に私が歩けてしまったら、辰馬のお母さんと同じように車椅子に乗っているという最大の個性を失ってしまったら。
そのとき、お母さんの代わりではなくなった辰馬は私から離れていくんじゃないか。
別の車椅子に乗った人を探して、その人のもとへ行ってしまうのではないか。
私はそう思わずにはいられないのだ。
それに――――。
「……ぇ、ねぇ、知佳ったら!」
肩が強く揺すられていることに気づき我に返ると、愛奈萌から不安そうに見つめられていた。
「どうしたの? 急にぼーっとしちゃってさ」
「ううん。なんでもないよ」
「さては辰馬とイチャイチャするところを想像してたな」
「そ、そんなことしてないって」
辰馬のことは考えていたけれど。
「あっ、そうだ!」
愛奈萌がいきなり胸の前で手を合わせたので、私が「どうしたの?」と聞き返すと、愛奈萌は私の手を取った。
「ねぇ知佳。明日なにかあったときのためにさ、エロ可愛い勝負下着を買いに行こう!」
「え? しししし勝負下着?」
どどどどどどういうこと?
「ってか、なにかあったときのためって?」
「だって明日辰馬と二人きりになるんだよ。辰馬も男だよ。知佳みたいな可愛い子と部屋で二人きり、しかも両親はいない……。そんなの、いつそういうことになってもおかしくないじゃん」
「え? 二人きり?」
なんか話がおかしくなってきている。
明日は三人で勉強会の予定では?
「明日は私行かないから。適当に理由作っとくから」
「なんで?」
「なんでって、もとはといえば二人で遊ぼうって誘う予定だったでしょ? それを知佳が三人で勉強会にしちゃったんだから、狂った予定を元に戻すためだよ」
「そそそ、ででででも、そそそんないきなり」
口がうまく回らない。
たしかに、愛奈萌に辰馬を家に誘うよう勧められた当初はそういう予定だった。でもいざ誘うときに、つい恥ずかしさから三人でと言ってしまった。
「ね。だから、がんばれよ知佳」
「でも、まなもぉ」
藁にもすがるような気持ちで愛奈萌を見上げると、愛奈萌は身もだえさせながら、「くうぅ」と唸った。
「その顔はずるい! なんでも言うことを聞きそうになっちゃう! ……けど今回はノーサンキュー」
愛奈萌に肩を優しくたたかれる。
「女は度胸だ! ま、辰馬はずいぶん奥手だろうから九分九厘なにもないだろうけど、勝負下着は念のため。可愛い女の子と密室で二人きり。しかも学校じゃなくてそれが女の子の家っていうプライベート空間ならなおさらどきどきするよ。辰馬に女として意識させてやるんだよ。既成事実は大事だから」
「いや、既成事実って」
「辰馬のこと好きなんだろ」
私を真っすぐ見据える愛奈萌の大きな瞳に、心の奥底を見つめられているような気分になる。
私は、辰馬とどうなりたい?
なにがしたい?
なにをしてもらいたい?
「……うう、わ、わかった」
私は誰かに、辰馬に見捨てられたくない。
必要としてほしい。
「私、がんばってみるよ」
辰馬の本当の彼女になりたいというのは……傲慢すぎる願いだろうか?




