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第二十四話 初めてのお誘い

 それから十分ほど駄弁って、俺たちは帰り支度を始めた。


「ごめん。俺ちょっとトイレ」

「じゃあ先に知佳と昇降口行ってるよ」

「すまん。すぐ行く」


 俺は二人と別れて用を足してから昇降口に向かったが、そこで待ってくれていた二人の様子がどうもおかしい。


 すでに外用の電動車椅子に乗り換えていた知佳はスカートの裾をぎゅっと握りしめており、愛奈萌は幼子に向けるような慈愛のこもった目で知佳のことを見つめていた。


「あっ、辰馬帰ってきたよ。知佳」

「う、うん」


 なにこの雰囲気?


 空間がほんのりピンク色を帯びているんですけど!


「ど、どうかしましたか? お二人さん?」


 俺が上履きを脱ぎながら尋ねると、


「いや、私はなーんにも」


 愛奈萌は頭の後ろで両手を組み、そっぽを向いた。


「知佳が、辰馬に話があるってさ」

「え?」


 スニーカーを床に置いてから知佳を見る。


 知佳は「あ、え」とつぶやきながら俺から目を逸らし、かと思えばまた俺の方を向いて、結局また目を逸らした。


 だから一体なに?


「あ、あの……辰馬、くん」


 知佳は明らかに緊張しているように見えた。


 くん付けがその証拠。


「えっと、なんでしょうか?」


 緊張からか、俺もなぜか敬語を使ってしまう。ってか愛奈萌さん滅茶苦茶ニヤニヤしてるんですけどなんですか? 俺たちの関係をBLに置き換えて楽しんでるんですか?


「その、実は……えっと、私と……」


 意を決したようにぐんっと顔を上げた知佳の睫毛は小刻みに震えていた。


「今週の日曜日! 私の家で勉強会をしたいなと思いまして! ……あ、あああえっと、この三人で!」

「べ、勉強会?」

「そう! この三人で! さっきみたいに……したら楽しいかなって。ちょうど日曜は親いないし、この三人で!」


 知佳の声はだんだんと小さくなっていって、最後はギリギリ聞き取れるくらいの大きさになった。


 彼女の隣に立っている愛奈萌は、なぜか眉間を手で押さえてため息をついている。


「え? いいの?」

「も、もちろん。辰馬がよければ」

「いいに決まってるよ! やろう! 勉強会! この三人で!」


 すごく嬉しかった。


 知佳が自分から、俺たちを誘ってくれたことが。


「でも、本当にいいの? 場所は知佳の家で」

「うん。大丈夫」

「ったく、この二人は……」


 呆れたようにつぶやいた愛奈萌がこちらに近づいてきて、なぜか背中をばしっと叩かれた。


「いってぇぇ! いきなりなにんすんだよ!」

「もっと男の方がしっかりしろよってことだよ! ほら、さっさと帰るぞ!」


 え? しっかりってどういうこと?


 わけわかんないんですけど。


 取り残された気分を抱きつつ、先に進み始めた知佳と愛奈萌の後を追いかける。


 でも、これは本当に喜ばしい展開だ。


 知佳が変わり始めているなによりの兆候だと思う。


 見上げた空には綺麗な夕焼けのグラデーションが広がっていた。


「今週の日曜。知佳の家で勉強会……っと」


 忘れるわけにはいかないと、俺はスマホのカレンダーにその予定を書き込んで――ってええぇ! 知佳の家?


 そこで俺はようやく重大な事実に気が付いた。


 知佳の家ってことは、女の子の家ってことだ。


 となると、いい匂いとかするのかな? ……じゃなくて、俺、女の子の家なんてお邪魔するの初めてなんですけど。


 どういう格好で行ったらいいの?


 お土産はなにを持って行くべき?


 ご両親にはどうやって挨拶したら…………そういえば両親いないって知佳言ってたなぁそれなら変な気を使わずに済むなぁああああああ両親がいないっ?


「あれ? なに立ち止まってんの?」


 三メートルほど先にいた愛奈萌が振り返って、いぶかしげな視線を送ってくる。彼女の隣にいる知佳も首をきょとんと傾げていた。


 どうやら俺は、無意識のうちに歩みを止めていたらしい。


「お、おう。すまん」


 俺は二人のもとに駆け足で向かう。


 いま、俺、うまく笑えているだろうか?


 ってか愛奈萌もいるんだから、俺が意識する必要はないんだよ。


 生徒会室が知佳の家に変わるだけだなんだ!


 そう何度自分に言い聞かせても、心が暴れるのを止められなかった。


 これから空は暗くなっていくことしかできないはずなのに、見上げた空は先ほどよりもはるかに真っ赤く染まっていた。

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