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第二十三話 本当に素敵な女の子

「本能寺の変は、織田信長が森蘭丸と浮気していたこと知った明智光秀の嫉妬によって起こったものよ。光秀は老いていく自分の身体も、森蘭丸のような若い男のみずみずしい身体を求める織田信長も許せなかった。愛情が憎しみに変わってしまったのね。あ、ちなみに秀吉も織田信長と関係を持っていたわ。じゃなければ着物の懐で草履を温めようとなんかしないでしょ?」


「秀吉と言えば、あの有名な句のことも覚えなければいけないから。あの中に出てくる“ほととぎす”って言葉は男のアレを表してるの。だから、鳴くまで待とうと言っている徳川家康は受け、鳴かせて見せようと言っている豊臣秀吉は攻めよ。殺してしまえって言ってる織田信長は……『わしを満足させられないやつは殺してしまえ』って意味だからやっぱり受けね」


 とまあ、こんな感じのBL談義が日が暮れ始めるまで続いた。


「仕方ない。集中力も続かないだろうし、今日はこのぐらいにして切り上げましょう。一度に聞いても全部覚えられないでしょ?」


「そ、そうだな」


 俺は眉間をもみほぐしながら答える。途中からツッコむ気力すら失ってうなずきモンスターと化していたのだが、知佳はときおりメモを取りながら熱心に話を聞いていた。


 うん。やっぱり知佳さんってもうそっちの感性が目覚めてますよね?


「愛奈萌。帰る前にちょっといいか」


 俺はこほんと大袈裟に咳払いをしてから、知佳に視線を送った。


 知佳は俺の意図を悟ったようで、ピンと背筋を伸ばす。


 俺も同じように居住まいを正した。


「え? なになに二人とも?」


 さっきまで愛奈萌の独壇場だったが、俺たちの行動によって空気ががらりと変わった。


 今日の真の目的は、勉強会でも、ましてやBL講義でもない。


「だからどしたの? そんな改まって」


 愛奈萌の顔にも緊張が走る。BL談義中に漂っていたあのおちゃらけた(こんなこと言うと愛奈萌に悪いか)空気が嘘のようだ。


「実はさ、俺たち……愛奈萌に言っておきたいことがあって」

「私に? 言いたいこと?」

「ああ」


 俺は本当にいいんだよな? という意味を込めて、もう一度知佳の目を見る。


 知佳は俺から目を逸らすことなく顎を引いた。


 よし、だったら、伝えよう。


「実は俺たち、本当は付き合ってないんだ」

「え?」


 鳩が豆鉄砲でも食ったような顔とは、まさにいまの愛奈萌のことを言うのだろう。


「どういうこと?」

「えっと、話せば長くなるんだが……」


 俺は知佳と付き合っているふりをするようになった理由をすべて話した。もちろんめちゃくちゃ恥ずかしかったよ! 勢いで彼女がいると嘘をついてしまった俺の虚栄心が始まりだなんて言うのは。


 じゃあ、なんで辱めを受けてまでその関係を愛奈萌に明かそうと思ったのかというと。


 卑怯な気がしたのだ。


 愛奈萌は俺たちに自分のすべてをさらけ出したのに、そんな愛奈萌を騙し続けることは、愛奈萌の友達として誠実ではない気がしたのだ。


 あ、ただ童貞をからかわれたことが見栄を張った原因だとは言えませんでしたすみません。


 でもこんなこと、この世の男子全員言えないよね?


 墓場まで持っていくよね?


 そもそもこの事実は知佳にも言ってないことだから、童貞の神様も許してくれるでしょう。


 童貞の神様に許されたからなんだよって話ですけどってか童貞の神様ってなんだよ!


「なるほど……ね」


 顎に手を当てて、考え込むように目を伏せる愛奈萌。


「本当にごめん。結果として、俺たち愛奈萌に嘘ついてたから」

「私も、ごめんなさい」


 俺が頭を下げると、隣の知佳も同じように頭を下げた。


「え? なになに? ちょっと顔上げてよ! なんで謝るの? そんなことしなくていいから」


 愛奈萌に言われた通り顔を上げると、愛奈萌は恥ずかしそうに笑っていた。


「むしろ嬉しいから。言ってくれて。だってそれって私を信頼してくれてるってことじゃん」

「愛奈萌。……ありがとう」


 俺はもうしないでと言われたのに、思わずまた頭を下げていた。


 よかった。


 やっぱり愛奈萌は優しい。


 本当の愛奈萌は、こんなにも素敵な人間だったのだ。


「だからいいって。いい加減、照れるから」


 愛奈萌の顔が真っ赤に染まっているのは、窓から差し込む夕日のせいではないと思う。

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