〜雪が解けるまで〜
ここは何処だろうか。わからない、見たこともない。でも、確かに僕はここに来たかったのだ。理由は分からないが涙が溢れる。「雪… 」 なぜか僕は彼女の名前を呼んだ。愛おしい…
数時間前『涼介!』そう呼ばれたが振り返る事なく僕は歩き出した。
僕はもうすぐ退院できる。この無駄に広い箱と最低限の物しか置かれてない家具、目を閉じててもこの部屋に何があるか何処にあるか話せるくらい僕はこの部屋に閉じ込められてた。24歳の夏「さぁ、やっと退院だね涼介。」そう話しかけてくるのは僕の母親だ。
この部屋にも多少愛着はあった。なにより僕の命を救ってくれた場所だ。
14歳の冬、やけに胸が息苦しく、辛い日々が続いていた。下校中倒れて僕は病院に運ばれたのだ。病名は分からない。ただ病院の先生に『お母様と2人で先にお話しさせていただけますか?』と言われ、話し合いが終わった後母は僕に『安静にしないといけないの。運動なんて絶対ダメ。入院してもらわなきゃいけないの。学校も部活も休んでくれる?』こう告げられたのだ。
それから、すぐに入院。
こんな所でも過ごしていればそれなりに友人ができる。その中でも彼女の話をしよう。
印象的なのは肌の白さ。そしてなにより可愛い!…いや、美しい女の子だ。
彼女は僕より年下の女の子だった。名前は雪。名前の通り溶けて消えそうな淡い儚いような感じのする女の子だった。
彼女とは病棟が一緒で、よく椅子に座って話をしていた。彼女の趣味は小説を読むこと。雪の母親は雪に似て美しい女性だ。雪は家族の話をする時が1番美しい。
雪が小説を読んでる時隣の席に座り何も話さず時間だけが過ぎていく時僕と雪の命を感じる。病院に入院しているんだ。いつどうなってもおかしくないとお互い感じている。検査に呼ばれるまで僕と雪はその過ごし方をする。
ここまで話したら僕が雪のことを好きなように聞こえるんじゃないだろうか?
確かに美しいし可愛いとは思う。だが恋や愛なんてものではない。
15歳の夏「ねぇ、涼介。お祭り行かない?」日差しに照らされながら雪の白い肌がより透明感をまして消えそうな声で消えそうな雪が話しかける。
雪が死ぬ時は透明になってこの世から消えるんじゃないだろうか。なんてくだらないことを考えてしまった。
「え、祭り?僕と雪が?外出できるの?」
驚きが隠せないくらい大きな声が病棟に響いた。