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出所退院編

いろいろあった。


本当にいろいろ。


初めての経験。


初めて警察に捕まったし、留置所へ送られた。


初めて閉鎖病棟に入ったし、隔離室へ入れられた。


逮捕と入院とカープの優勝と、友貞さんや田中さん、看護婦、看護師。


いろんな人との出会いがそこには会った。


俺は思う。


この先いったい自分は何になるのか。


この出会いそのものが、自分のために用意された、何か必要な過程だったのではないかと。


入院患者たちがみんな作家さんに見えた。


作家の先輩たちが俺に、人生を通じて大切な何かを教えてくれているような気がした。


そういう人たちとの関わりの中で、自分は自分のために何かを生み出す事が出来る自分になれたのだろうかって。


入院中なにか書くことはほとんど出来なかった。


でも作家なのかなんなのか、何ものかになれると信じている自分が、何かを目指し周波数を感じ自分という人生の塗り絵を描くような生活作業を楽しんでいたかのように思う。


意味のない行動も。


意味のある行動も。


どんな行動にも、何かがある。


ゲーム感覚でこの入院3か月を俺は本当に楽しんだと思う。


書き物で書けたのは、優勝を記念して作ったカープの歌だけだ。


とてもダサい恥ずかしくて人前では歌えないようなそんな歌だ。


あと書いたものといえば、紙切れによくわからない小説で出てきそうな場面描写くらいだ。


その紙切れ達をたくさん書いて、繋ぎ合わせれば一つの小説になるぞと。


明石家さんまが言ってた妄想もした。


本当に妄想だらけで。


本当に人に迷惑をいっぱいかけて。


よくわからない涙も、カープ優勝の涙も流したけど。


ようやく退院だ。


退院の時。


待ち遠しかった親が迎えに来た。


親に連れられて車に乗る際。


閉鎖病棟の窓を見た。


窓から、友貞さんが


『ゆうきくーん、ばいばーい』


健気に手を振る姿が見えた。


この人は不思議な人だったが、わりと俺は好きなタイプの人だったと思う。


俺は車に乗り込んだ。


やっと退院だ。


やっと家に帰れる。


途中で少しの実家途中退院もあったが、本格的に退院で帰れるのはこの日が初めてだ。


味わったことのない解放感。


味わったことのない安心感。


この先自分の身に何が起きようとも。


もう変な過ちは犯さない。


道を踏み間違えるような行動は絶対取らない。


なぜなら、だって。


こんなヘンテコな入院3か月はもうごめんだからだ。


俺を乗せて走る車は。


どんどん鶴居村から遠ざかり。


友貞さんとはきっと。


最後のさよならになったに違いない。

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