たぬきの耳と不思議な親子――企画アンサーストーリーズへのアンサーストーリー
この作品は、拙作『たぬきの耳ときつねのひげ』及び黒森 冬炎様の作品である『おもちゃのカード』に対するアンサーストーリーとなっております。
「あれ、ない、ない、どこに落としたのかしら?」
おいしいサンドイッチの味が忘れられなくて、たぬきのポン子は、またしても人間たちの町に探検に来ていました。ちゃんとたぬきの耳も人間の耳にできるように、あれから何度も練習したのです。おかげで変化はばっちりだったのですが……。
「どうしよう、お金に変える葉っぱ、どこかに落としちゃったわ」
今日はおもちゃのカードじゃなくて、人間のお金に変化させるように、小さな葉っぱをスカートのポケットに入れておいたはずなのです。ですが、何度ポケットをごそごそやっても、葉っぱは見つかりません。コンビニの中で、うろうろしながら探していると、うしろから女の子の声がしました。
「お姉ちゃん、なにか探してるの?」
くるりとふりかえると、ポン子よりも一回り小さな女の子が、うしろで手を組んでニコニコしながらポン子を見ていたのです。ふわふわした茶色い髪の毛をしています。
――えっ、もしかして、人間に見られたの――
どぎまぎしながら首をふるポン子に、女の子はえへへと笑って手を前につきだしました。おそるおそるのぞきこむポン子に、女の子は手を開きます。
「あっ、あれ、どうして?」
女の子の手のひらには、このあいだポン子が変化させた、人間のカードがにぎられていたのです。ポン子は女の子とカードとを、交互に見くらべました。口をぱくぱくさせて、なにかいおうとして、でもなにをいったらいいかわからないポン子に、女の子は小声で話しかけました。
「これ、音ならないでしょ?」
ドキンッ! と、ポン子の心臓が飛び出そうなほどになりだします。どうやってごまかそうかと考えているうちに、女の子はカードを両手で隠して、そしてもう一度手を開いたのです。
「あ、え、あれれ?」
カードはいつの間にか、金色に光るお金に変わっていたのです。またしても女の子とお金を交互に見るポン子に、女の子はお金を手わたそうとしました。
「えへへ、ママにはないしょだよ」
いたずらっぽく笑う女の子でしたが……。
「こら、ミイコ、もしかしてあんた、『アレ』やったんじゃないでしょうね?」
女の子のうしろに、ぱっちりした目の女の人が立っていたのです。ふわふわの茶色い髪の毛が、女の子とおそろいです。ポン子の胸が、今度はズキンッと痛みました。
「あ、ママ、あの、その……」
「もう、ダメじゃないの。あなたにはまだ、『アレ』は早いって、いつもいっているでしょう?」
女の人は、ミイコと呼ばれた女の子の手をつかんで、その手からお金を取り上げます。そして初めてポン子と目が合ったのです。
「あら、あなたもしかして、ミイコのおともだち?」
「え、あ、その……」
女の人にじっと見られて、ポン子は固まってしまいました。緊張して、ふわふわの髪の毛がぴくぴく動きました。ぎくりとして、ポン子は急いで人間の耳があったところを押さえます。
――ああ、どうしよう、たぬきの耳に戻っちゃったんだ――
ですが、女の人はポン子の心配はよそに、その様子をじっと見ています。そして……。
「あら、めずらしいわね、あなたも『アレ』ができるみたいね?」
女の人にいわれて、ポン子は耳を押さえながら目をぱちくりさせました。女の人は、そっとまわりを見てから、ミイコから取り上げたお金を手のひらに乗せたのです。すると……。
「あっ、葉っぱに!」
お金はまたたく間に、もとの葉っぱに戻ったのです。女の人の顔を見あげるポン子に、女の人はふふっと笑いかけました。
「あれ、目が……」
さっきまで黒かったはずの目が、いつの間にかオレンジ色に変わっています。女の人はパチッとウインクしました。
「わたしたち化けネコは、『アレ』……変化をするとき、目が変わるのよ。それと、はい、本物のお金よ。人間の町に来てもいいけど、もう葉っぱのお金は使っちゃダメよ。そのかわり、ミイコと遊んでくれたら、おこづかいをあげるから、また遊びに来てね」
「えっ、でも、どこに……?」
「わたしたち家族は、カフェをやっているのよ。『カフェ・猫じゃらし』っていうの。猫じゃらしで遊ぶネコの看板が目印よ。それじゃあまたね、かわいいお耳ちゃん♪」
ぽんぽんっとポン子の髪の毛をたたくと、ふわふわの髪から、たぬきの耳がひょいっと顔を出しました。ポン子はあわてて耳を押さえます。女の人とミイコは、笑いながら手をつないで行ってしまいました。
「んもう、子どもあつかいして……。でも、優しそうなお姉さんだったな。それにあのミイコって子も、妹みたいでかわいいかも」
手のひらにわたされた本物の、金色に光るお金を見ているうちに、ポン子の耳が、またぴくぴくと動き出しました。
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原作はこちらとなっております。
小畠愛子 作『たぬきの耳ときつねのひげ』
https://ncode.syosetu.com/n1687gu/
黒森 冬炎 作『おもちゃのカード』
https://ncode.syosetu.com/n0753gv/9/