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隣村への道行き

本日3度目の投稿です。



僕をぶんぶん振り回した後、これが唯一の希望とばかりに抱きしめて日に当たるイーネ。

脱色されてキラキラと金色に輝く髪も相まって、抱かれる僕からは「奇麗だな」としか思えない。

はた

傍からはどう見ても石抱きの刑です。ありがとうございます。


家の中にはギスギスとした空気が漂っていて身じろぎも出来ない雰囲気だ。

イーネは口を尖らせて苦痛を堪えるような表情をしており、イーネ母は荷物を纏めた後、黙々と手紙を書き綴っている。

イーネの格好と合わせて虐待が疑われるケース。


――こんな居づらい環境は生まれて初めてです。ああ、足を生やして逃げ出したい。

そんな風に考えている内に、知り合いへの手紙も書き終えたらしい。


「じゃあ、これを持ってライゼンお爺さんに会うのよ。出来るだけ脇道を通ってね。それから――」

「隊商と一緒にサンクアディットに向かうのね。分かってる」


母の言葉を遮るように、イーネが言う。反抗期なのだろうか?


「そう……とにかく――」

「お母さんは、大丈夫だよね?」

「え?」


虚を突かれたように、イーネ母の言葉が途切れる。


「絶対元気に戻ってくるから!」

「ええ、気を付けていってらっしゃい」


目元に涙を溜めた母を後に、イーネは森へと走り去った。

コンクリ片()を片手に持って。




駆ける。山道を。

駆ける。枝を避けながら。

駆ける。コンクリ片()を振り回しながら。

駆ける。僕を盾に、藪を突っ切って。駆ける。


山道に慣れた子供の足がこれほど速いとは思わなかった。

おそらく隣村までの最短距離を突っ切りながら、小川を超えて、山を越えて。


基礎体力は現代人の小中学生とは比べ物にならないんじゃないだろうか。それくらいの速さで山道を入り抜けるイーネ。

流れる景色の爽快さと、風を感じられないわが身悲しさを感じながら、僕は生まれて初めて村の外に出た。


目でない目で物を見て、耳でない耳で音を聞き、嗅ぐ鼻もなく手に触れる感触を知らず、初めて味わったのは悪漢の血。手足もなく動く事も出来ない。

そんな僕が村を出た。


震える程の感動というのはこういうものを言うんじゃないだろうか。

走り回りたい衝動は今までになく掻き立てられ、大声を上げて叫びたい。


――僕は自由だ!




……なんて思っていた時期が確かにありました。

冷静に考えれば、刑務所のテレビにチャンネルが増えたようなもので、自由ではない。

イーネにいつ捨てられてもおかしくないという意味では、細い命綱での綱渡り状態が続いているのだ。


脇道というより獣道とも言うべき経路を終えて、僕らは街道に出た。

アスファルトは当然、石畳が敷かれているわけでもない。

長い間に利用されることにより、自然に出来た道で、いわば平地に出来た獣道みたいなものだ。違いは人が作り、轍があるという事くらい。


こんな風に考えるのは、僕が人間じゃないからなんだろうか。


開拓地に続くだけのこの道は、元から利用者がそれほどでもないのと、不定期的に騎士の皆さんが巡回するという理由から、比較的治安が良いらしい。


なので盗賊の心配はいらないし、野生動物の類も滅多に出てこないらしい。

「滅多に」というからには出る事もあるという意味なのだけれど、餌の豊富な春のこの時期、人里に現れる方が珍しい。魔物に関しても同様だ。


そんな街道に飛び出すと、すれ違う少数の人間から気になる呟きが漏れた。


「魔物か……っ!?」


いいえイーネです。

草むらから血の跡の付いた石塊を持った金髪可愛い系が現れたら、ちょっとホラーだとは思う。


「あ、こんにちは」


木の葉を払いながら挨拶するイーネ。

暢気すぎない?通行人の手が短剣の柄にかかってるんだから。


「なんだ人間か。びっくりさせないでくれよ」

「あはは、なんかすみません。ところでイムルの村はあっちで合ってますか?」


心持ち俯き加減で問い掛けるのに、通行人の男がどう思ったのか、


「ああ、間違ってないよ。これから向かうのかい?」

「はい」

「1人で?大丈夫なのか」

「はい、大丈夫ですよ」


答えながら僕をブンブン振り回すイーネに何を感じたのか。


「あ、ああ……気を付けてな」


僕は分からない。

少なくとも、「茶髪の可愛らしい娘」ではなく「石塊を振り回す金髪の少女」として覚えただろうから、上手く誤魔化せるかな?……大分引いてたし。





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