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プロローグ 始まりの宣告

 

 いつからだっただろうか。死にたいなんて思い始めたのは。


 時期で言えば中学生の頃か。その頃は意味もなく、嫌なこと、悲しいことがあった時は、死にたいなんて思っていた。高校になって、より大人になって、心も落ち着いてきた。けれど、物事をいろいろ深く考えるようになっていた。意味を求めていた。それになんの意義があって、価値があるのか。


 そんなの誰も教えてくれはしない。去年の高2のときに先生に聞いてみたことがあった。そしたら、


「それは君が見つけなければいけない。そうしないと納得もできないだろう」


 みたいなことを言われた。確かにそうだ。他人に言われて、はいそうですね、なんて一つ返事できるとも思えなかった。所詮そんなものかと、落胆した。何か、誰かの答えが聞きたかった。


 そんな僕が考え、考え、考え、辿り着いたのは、


 ー意味を求めることこそが無意味だー


 と悟った。


 なにもかも、意味なんかありゃしない。そう思うと、すべてが滑稽に見えてきてしまって。なんでこんな僕が生きているんだろう。こんな社会に一つの得もない、価値もない人間が。もう死んでしまいたいなって、より強く思うようになった。


 それなのに、今僕はこうして生きて、血が流れている。そう、結局死ねなかった。

 そう思っても、足が竦んで一歩立ち止まってしまう。恐怖という感情があるから。それが生の苦しみにに勝ってしまっているから。

 これほど邪魔なものはないと思った。感情なんてなくなってしまえばいいのに。みんな同じことを思って、みんな同じことをする。そう望んだ。そうすれば、()()()は居なくなるから。


 もちろんそんな夢物語なんてなくて、現実は非常だ。こんな感情を捨ててしまいたいと、僕は表情をなくした。偽りの仮面をはぎ取った。くだらないことで、笑いあったり、張り付けた愛想笑いなんてことをする仮面を。日常を無に過ごすことで、そうすること邪魔な感情なんてなくなっていけばいいと切に願っていた。


 しかし、それと反比例するように、死の恐怖は今もなお消え去らない。何に怯えてるんだかもわからない。これは生物の持つ生存本能だと思いたい。

 本当に“死に損ない”だ。


 無意味な時間も時が過ぎるのは早いもので、すでに高3となった。

 就職だろうと進学だろうと、みんな進路に向け勉強なり面接なり励んでいる。羨ましいなと。熱心になれて。そこに意味があるんだろうなと。

 僕にその意味は見つけられなかった。極論、すべてが無意味に思えてしまってしょうがないから。僕は何かの義務感によって授業を受け、勉強をする。進路の紙に取ってつけたように書いた、進学の二文字に向けて。


 みんなが夢に向かって走っていく中、自分1人だけ疎外感がある。僕だけ空気が違う。自分だけが何もない...。

 そんな孤独感が毎日のように僕を襲っていた。


 僕だけおかしいんだなって、くじ引きの当たりが多い箱から選び選ばれた「ハズレ」のくじを引いてしまった。僕はみんなのようにはなれなかった。






 僕は今日もいつものように学校へ行く。何か得体のしれない義務感によって。それにつられて体は動く。

 今日も終わらない一日が始まる。


 いつも通りの通学路、いつも通りの人波。流れる川の音も、囀る鳥の声も、喧嘩する猫も、行き交う小中高生も、少しでも一緒にいたいとでも言わんばかりの付き合いたての寄り添い合う男女も。何もかもが昨日と同じで、きっと明日もそうなるんだろうと思う。


 いつものように道路を横断する。




 偶然か意図的か今はもう分からない。既に足は歩を進めていた。勢いよく飛び出てきた車。僕はもう道路の真ん中にいる。車1.5台ほどの整備もされてないような狭い道幅。


 突然現れた非日常。耳を劈くほどのクラクション。『キキィ!!』と必死にかけるブレーキ。その運転手と目が合う。焦ったような、絶望したような表情。


 僕はどんな顔をしていただろう。無か、笑みか、運転手に対する申し訳なさか。どれもあっていそうで、でも全部違う。焦りも恐怖も怯えもこの時は不思議となかった。今まであった死の恐怖も嘘のようになかった。存外、人ってものはそういうものなのかもしれない。


 僕が最初に思ったのは「ああ、やっとか」という安堵だった。


 避けようと思ったら避けられたのかもしれない。けれど、もういいや。これでもいつも通りの日常が変わって、そして潰える。


 これは不運な出来事で完結する。そんな幸運に僕は身を委ねた。


 後ろから迫る、声も気配も気づかずに....








 結局、


 僕は死んでも、病院送りにもなっていなかった....






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