白いふわふわの小鳥!
涼しくて心地いい夏の早朝。
アリーチェはアパートの中庭でマウロたちと朝練をしていた。
「マウロたちもアリーチェを捜してくれてたんだって?心配かけてゴメン、ありがとうね」
全員腹筋をしているタイミングだった。
「師匠の……ングッ……為なら……ングッ……当然……ングッ……です……ングッ、ハァッハァッハァ…」
聞き取りづらいが、気持ちは伝わった。
* * * * *
朝練を終えて部屋に戻り、アリーチェは精霊たちと一緒に朝食に串焼きを食べていた。
肩の上に留まっているふわちゃんを見て、ふとルナが言っていた事を思い出す。
「ルーっ、そういえばふわちゃんについて心当たりがあるって言ってたと思ったけど、どう言う事?」
ルナはなごり惜しそうに朝食の串焼きをお皿に置いて、意を決して立ち上がった。
「はい、よくぞ聞いて下さいましたアリーチェ様!私も見た訳ではなく多くの文献から導き出された考察ですが、その確率が高いので申し上げます」
「ええ、分かったわ、続けて」
「はいっ!アリーチェ様はフェニックスをご存知ですか?」
ルナはいきなり伝説級の魔物の名前を口にした。
アリーチェは少し戸惑いながらも答えた。
「えっと、学校で習ったわ。確か死んじゃってもすぐ復活するとか、身体が炎で出来ている火の鳥だったかしら。復活するから何処かに居るはずなのに、文献に書かれているだけで実際に確認されて無いって習ったわ」
「流石アリーチェ様、正解です。少し付け足しをさせて頂きますと、死ぬと復活するのですが、大人のフェニックスとして復活するのではなく子供で復活するのです………つまり小鳥としてです。そして100年以上かけて大人になるのです」
「へぇ~、最初は小鳥なんだ…………でも白いふわちゃんと関係なくない?」
「ところがですアリーチェ様っ!子供のフェニックスはまだ炎を纏えないので炎の姿ではなく白い小鳥なのです」
「えっ白い小鳥?そう………でも白い鳥はふわちゃん以外にも、いっぱいいるんじゃない?」
よくぞ聞いて下さいました的な表情で、自慢げに答え始めるルナ。
「フッフッフッ、アリーチェ様、もう一つあります。フェニックスの魔力はとても膨大ですが、子供の頃に表に感じられる魔力は微々たる物なのです。しかし表面上微々たる物でも、奥が深いといいますか、小さな穴に見えて実は無限に深い穴の様な感じの魔力なのです。強い魔物にはそれが分かるので子供のフェニックスは狙われます。喰らえば膨大な魔力が手に入り、たいていの魔物は上位種になれます。子供のフェニックスはまだ弱く、そこを強い魔物に狙われるのですから、大人になるのもまた大変なのだと思います。100年以上魔力を貯め続けて成長してやっと大人になれるのです」
「へぇ~ルナの話しを聞いてると、ふわちゃんがフェニックスに見えて来たわ」
「ありがとうございますアリーチェ様っ。最初にアリーチェ様の『ヒール』で回復しなかった時にピンときたのです。フェニックスは魔法で回復はしなかったと何処かに書いてあったのを思い出したのです。自身の魔力で成長しながらに回復すると。アリーチェ様の企画外れの魔力を全て吸収して、やっとふわちゃんは回復しました。つまりアリーチェ様の魔力で成長したと考えられます。つまりアリーチェ様の余った魔力を毎日ふわちゃんに与え続けたら……100年とかかからずに大人のフェニックスに成長するだろうと考えられます。アリーチェ様の魔力量ですと、10年とかからないのでは無いでしょうか」
「ん~確かフェニックスのランクって確か………」
「はいっ、魔王やドラゴンと同じ、Sランクです。アリーチェ様の魔力で育ったフェニックスはアリーチェ様を母親と思うでしょう……ふっふっふっふはっはっはっ、ぶぅわあ~っはっはっはっはっ!いきなり天下を取れますぞアリーチェ様!魔王すら同等っ!アリーチェ様に逆らう奴はフェニックスの業火に焼かれて死んでしまえってんだっ!ひゃ~はっはっはっ!」
「ル………ルー?アドバイスありがとう………ゆっくりと考えさせて」
「お考えになる余地はないかと思いますが、何かお有りなのですね!畏まりましたアリーチェ様!いやっ、アリーチェ皇帝……帝王……神王も悪くない………魔王の上で大魔王とか……」
ブツブツ言いながら朝食の串焼きを食べ始めるルナ。
アリーチェは肩の上で遊んでいるふわちゃんを心配そうに見つめながら、早く大人に育てて親離れをさせて上げたいと思い始めていた。
その夜から、魔力欠乏にならないように、小鳥のふわちゃんに余った魔力を与えるのがアリーチェの日課となった。
ふわふわで可愛いから、一緒に居てアリーチェも癒やされた。
(大人になっちゃったら、こうやってモフモフ出来ないのか………)
モフモフの為に迷ってしまうアリーチェだった。
* * * * *
夜のとある酒場で、街の英雄ジャンが酒を飲んでいた。隣ではお酒の弱いジャックが食事をしていた。
横から酒のボトルとグラスを持ったカップルが話しかけてきた。
「相席よろしいですか?」
アリーチェが教会で目を覚ました時に、部屋で見かけた男女だった。
「あぁいいぞ、確かお嬢ちゃんの知り合いの………」
「ピエロと申します」
「妻のローラです」
「おお、そうだったそうだった、名前を覚えるのが苦手でな、すまんすまん」
「いえ、名乗るのは初めてなのでお気になさらないで下さい」
「ありゃっ、そいつはしまったな、はははっ…」
「いえ、英雄のジャン様に顔を覚えて頂けるだけで光栄ですから」
「あ~、畏まらなくていいぞ、ジャンで頼むわ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……ジャンさん」
「なんか大事な話しがありそうだな」
「ふふっ、少しだけ世間話をしにまいりました。アリーチェちゃんをどれくらい大切に思っているかを話してみたくなりまして」
「ん………そっか、まぁ俺も結構大切に思ってるぞ」
「ええ、私たちと同じくらいかなと思ってます」
「……………まぁな」
「…………世の噂でジャンさんは片腕だったと聞きました。まぁ、見る限り噂に過ぎなかった様ですが」
「あぁ、噂だから色々あるさ」
「架空の物語の話しになりますが、ある女性が悪い貴族によって片腕と片足を切り落とされたそうです、その女性は裁縫が大好きでしたが片腕では前の様に裁縫が出来ません。生きる気力も失って、いつ死のうかと考えるようになりました。しかしその女性の前に、女の子の姿をした神様が現れて、腕を……足を……元通りに治してくれました。女性は女の子の姿をした神様にして上げられる事は何でもやるようになったそうです」
ローラは膝に置いていた両腕をテーブルの上で組んで、話しを続けた。
「私も裁縫が得意ですので、いいお話しだと思いました。女の子の姿をした神様って素敵ですね」
ジャンもジャックも、ピエロとローラが魔法の事を知っているとは聞いていたが、細かい事情は知らなかった。
「いい話しだな。そんな女の子の神様がいたら、俺も命がけで守りたいと思うだろうな」
「まあ、ジャンさんが素敵な方で良かったわ」
「ははっ、じゃあその女の子の神様に乾杯しようじゃないか」
お互いに酒をつぎ、ジャックはミルクの入ったグラスを持って、女の子の神様に乾杯した。
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