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ジャン、あとは適当にやっといてね!


 アリーチェの意識が戻った事をジャックが教会の人に知らせると、アリーチェを心配していた人々に伝わり大勢が部屋に集まって来た。


 ジャンとジャックの他に、ボニート司祭、ステラ校長、ダニエラ、ルイーザ助祭、コルネリオギルド長と冒険者ギルドのネム、マルティーナPTメンバー、ピエロとローラさんなど、部屋は大混雑だった。


 ボニート司祭がアリーチェの回復状況を確認する。


「症状は魔力欠乏症に似ていましたが、教皇様のような魔力をたくさんお持ちの方がなるような重い症状でしたので、学生のアリーチェさんには考えられません。結局原因は分かりませんでしたが、もう大丈夫でしょう」


 街の外に行ったアリーチェが夜になっても戻って来ないのを心配して、大勢の人が探し回ってくれていた事をこっそりとジャンに聞いたアリーチェが、恐縮しながらみんなに謝罪とお礼を言った。


「皆さんにご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。皆さんありがとうございました」


 アリーチェはベッドに上半身を起こして、少し頭を下げながらお礼を言った。


 意識を取り戻したアリーチェを見てみんな喜んでくれていた。


「街を出る時は、護衛の冒険者っぽい人と一緒に出たと聞いたけど、何かあったの?」


(あ~、街を出る時はシドと一緒だったわね………)


「ん~~…………よく思い出せないです。すいませんステラ先生」


 ステラ校長先生は微笑む。


「無事に帰ってきたんだからいいのよ。次から街を出たい時は先生に声をかけてね、忙しくない時なら一緒に行ってあげられるから」


 部屋にいる他のみんなも同じ想いのようで、みんないつでも声をかけてねと言ってくれた。


「俺が街にいる間は、俺にも声をかけてくれな」


「ふふっ、ありがとう。でもAランクの冒険者に気軽にお願い出来る程お金は持ってないわ」


「金?依頼とかじゃないぞ、友人としてだ。俺もお嬢ちゃんを守りたい気持ちは、この部屋のみんなと一緒だからな」


「ジャンも皆さんもありがとうございます。これからは気をつけます。あと司祭様、アリーチェは商人ギルドに僅かばかりですがお金がありますので、それで治療費が足りなかったら少し待って頂けないでしょうか?」


 教会で治療を受けるのには結構お金がかかり、それが司祭様となれば相当高いのが常識である。

 学校で学んでこの世界での常識人になりつつあるアリーチェ。


「お嬢ちゃん、教会に連れて来たのは俺だ。治療費は俺が払うから心配するな、これでもAランクだ、結構持ってるから心配するな」


 ぶっきらぼうだが、ジャンは優しく言ってくれた。


「私がアリーチェさんを助けたかったのですから治療費はいりませんよ。ベッドを提供しただけで他に何もやっていない気もしますしね」


 ボニート司祭は微笑んでいた。


 申し訳なく思いながらも、素直にご厚意を受けるアリーチェ。


「ありがとうございます。でも何かお礼が返せたらいいのですが………」


「ではまたチャンスがあったら舞いを見せて下さいね」


「分かりました、必ずお見せ致します」




  *  *  *  *  *




 一通りみんなにお礼をして、部屋にはジャンとジャックだけ残ってもらった。



「やっとお嬢ちゃんと落ち着いて話せるな、どこまで秘密なのかとか誰が知ってるかとか分からなかったから、誤魔化すのが大変だったぞ」


「秘密を守ってくれてありがとうね、精霊の事を知っているのは、父と母とあなたたちだけなの。あと今部屋にいたピエロとローラさんは、精霊の事は知らないけど、アリーチェがジャンの左腕を治した魔法を使える事を秘密にしてくれているわ」


「うんうん、あの魔法もヤバイもんな。分かった覚えておこう。今いた他のみんなは知らないって事か………危なかったな。でもまあ賢明な判断だ、あれがばれたら相当大変だからな。争奪戦になりつつも命を狙われるだろうな」


「お父さん、なんて事を言うんだよっ!アリーチェを怖がらせて」


「タッくんありがとう、でもアリーチェもそう思うわ。だから大人になって、自分の身を守れるようになるまでは頑張って秘密にしようと思ってるの」


 ジャンは、怪訝な表情で息子のジャックを見る。


(おいおいっいつの間に親しくなったんだ?今ジャックの事をタッくんって呼んだぞ……全然関係ない名前なのにジャックは受け入れてるよな。俺の息子ながら驚きだぜ。まぁ命の恩人に気に入られるのはいい事だしな…………)


「そっか、両親だけが知ってるのか。そういやあ平民なのに、貴族や冒険者や街のみんなから好かれてるんだな」


「えっ?そうなの?そんな事ないでしょ?アリーチェはなんにもしてないけど」


「街に着いた時には、みんなで行方不明のお嬢ちゃんを探して大騒ぎだったぞ!味方が多いのはいい事だ。無自覚だとしたら凄い才能だぜっ」


「そうなんだ、みんなにお礼を言って廻らないと……あとワイバーンの事なんだけど」


「あぁ、お嬢ちゃんが倒しちまって解決済みだがまだ何も言ってないぞ。どう報告すりゃあいい?秘密がばれちまうよな」


「うん、それでね、ジャンが全部倒したって事でどうかしら?みんな納得しそうな気がするんだけど」


「いや流石に無理があるような………」


「でも最初は勝つつもりで1人で戦ったんでしょ?それで勝ったって事でいいと思うの……どうかしら」


「ん~~、確かに倒すつもりだったんだが…………負けたしな」


「いいじゃない、倒すつもりだったんだからジャンが倒したって事で決まりねっ!ワイバーンのお肉って美味しいんでしょ?ダメにするのは勿体ないから今から荷馬車をいっぱい連れて行って、お肉を持って帰って来て欲しいの。アリーチェ食べてみたいわ」


「ええ~っ、肉を持ち帰るのはいいが、みんな上手く信じるかな?」


「大丈夫よAランクだもの。お肉は少しだけ分けてもらえればいいから、あとはジャンから街の人々に振る舞っていいわよ」


「ほぅ、お嬢ちゃんって結構太っ腹なんだな」


 急にジャンを睨むアリーチェ。


「むぅ~アリーチェのお腹は太ってないわよっ!ジャン、あとは適当にやっといてね!アリーチェはもう少し寝るわ、おやすみっ!」


 アリーチェはふてくされて背中を向けて横になってしまった。

 とっとと行きなさいとばかりに、手だけをヒラヒラするアリーチェ。


「………お父さんワイバーンの処理に行こうか」


 そう言ってジャックは、懐に忍ばせていた白いふわふわの小鳥を、そっとアリーチェの布団の上に離してあげた。

 小鳥はちょこちょことアリーチェの枕元へ行ってうずくまり、挨拶するように鳴いた。


「ぴぃ~ぴぃ~」


 それに気がついたアリーチェ。


「あらっ、元気になったのね」


「ぴぃ~ぴぃ~」


 ふわふわの小鳥に頬ずりするアリーチェ。


「ふふっ、ふわふわで気持ちいいわ。そうだ、ふわちゃんて呼ぼうかしら」


「ぴぴっ!ぴぃ~!」


 小鳥は元気に鳴いた。


「気に入ってくれみたい………よろしくね、ふわちゃん」


「ぴっぴっぴぃ~」


 アリーチェは、ふわちゃんと一緒に布団に入った。




  *  *  *  *  *




 ワイバーンを倒した場所は、片道馬車で1日の距離だ。

 今はまだ朝、今出れば夜には現着する。


 ジャンとジャックは馬で先に行って、倒したと言う事にする予定だ。

 その後みんなが到着して、解体を始めれば、明日の朝にはワイバーンを荷馬車に積んで向こうを出られ、日没頃には街に帰って来られるだろう。


 アリーチェと話した後、ジャンとジャックはすぐに行動を起こしていた。

 冒険者ギルドにも協力してもらって、大きめの荷馬車7台と、解体のプロをお願いした。


 流石にコルネリオギルド長は、ジャンが1人でワイバーンの群れに挑む事に難色を示していたが、必ず倒せると自信を持って言いきるジャンを信じて協力してくれた。



 ジャンを先頭に、解体要員も乗った荷馬車隊が7台、派手に東門を出発する。


「頼んだぞ~」

「頑張ってね~」

「きゃ~ジャック~こっち向いて~」

「おっさんは向くんじゃないわよっ!」


 街の女性たちからの声援が熱かった。




  *  *  *  *  *




 アリーチェは、その日の夕方に、ボニート司祭やルイーザ助祭、そして教会でお世話になった方々にお礼をいってから、アパートに戻った。


 そしてラダック村へテレポート。

 シド、ウィスプ、ランパスをエリスママに返して、お礼の串焼きも渡してきた。

 また明日ワイバーンの串焼きをお礼に持って来る事をエリスとルカに伝えて、ボスコのアパートに戻った。




  *  *  *  *  *




 次の日の夕方、ボスコ街道を荷馬車隊が砂煙を上げながら帰ってきた。



 遠くにその姿を見つけた衛兵が、街の各所に知らせると、東門の周りから街中の通りまで、迎える人でパレードのようになっていた。



 ボスコの東門が近くなると、ジャンは街の人々の様子に気がついた。


「出迎えがかなりいるな。お嬢ちゃんの手柄なんだが…………まあそのお嬢ちゃんの希望だからしょうがないか」


 Aランクだから歓迎には慣れているが、人の手柄なのでジャンは複雑な心境だった。





 街の人々の歓迎は凄かった。


 たった1人でワイバーンの群れを討伐したジャンは、もはや街の英雄だった。


「ジャンありがと~」

「まじ格好いいぜ~」

「お帰りなさ~い」

「きゃ~おっさんお疲れ~こっち向いていいわよ~」




  *  *  *  *  *




 冒険者ギルドのギルド長室で話す2人。


 感心した表情のコルネリオギルド長。


「本当に倒して来るとは流石だ、ありがとう。街の護衛依頼以外にも、ワイバーンの群れの討伐報酬も話し合うから、少しだけ待ってくれないか。街の危機を救ったんだから領主様も色を付けてくれると思う」


「ああ分かった。金額は兎も角、振り込み先なんだがあのお嬢ちゃんの口座にしてもらえないか?」


「えっ?まだ学生だぞ?まあGランクといえども口座は作れるが、アリーチェに何かあるのか?」


「まぁ~そうだな………気に入ったとだけ言っておこうか」


「………おい、まさか……ロリコンか」


「違うわっ!恩があるんだよっ!恩がっ!この先は秘密だ!」


「わっ分かった、ロリコンは秘密にしておくよ」


 両者とも顔が引きつっていた。




 その夜。


 街の全ての広場で、ワイバーンの肉が無料で振る舞われたのだから大騒ぎだ。


 アリーチェもジャンたちをねぎらってから、ワイバーンのお肉の塊と串焼きをいっぱいもらってラダック村へテレポートした。


 その夜アリーチェは、家族みんなと精霊全員で、ワイバーンのお肉を心ゆくまで食べまくった。



 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。


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 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆




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