在りし日の咲良…
ボスコ教会に清々しい朝日が射し込んでいた。
ステンドグラスを透った色とりどりの光りに照らされて、祭壇は神々しい雰囲気だ。
祭壇横の部屋で静かな寝息をたてているアリーチェは、夢を見ていた……
咲良だった頃の夢を……
ポニーテールの活発そうな女の子が、手を振りながら走ってきた。
咲良の親友のゆきりんだ。
「みーこ、ごめ~んお待たせ~~!」
ゆきりんは、咲良の巫女神楽を見て感動してから、みーこと呼ぶ様になった。
万世橋の上で待っている咲良。
「も~うっ、ゆきりんお~そ~い~!サイン会始まってるよ~!」
ゆきりんは駅から走ってきて息を切らしていた。
「ごめ~ん、遅れといてなんだけど、このまま行くよ~、みーこダッシュダッシュ~!」
そのまま走り去るゆきりんに、慌ててついていく咲良。
「ちょっとちょっと~!ゆきりん転ばないでよ~」
咲良は友人のゆきりんと大好きなアイドルのタッくんのサイン会に来ていた。
写真集発売のサイン会で、一緒に写真も撮れるのだ。
まだデビューしたてだが、カッコいいだけじゃなく、不器用な優しさも魅力だった。
何処かで災害があると自分の貯金を全部寄付したうえに、仕事そっちのけでボランティア活動に行ってしまうのだ。
そりゃあ仕事のオファーは無くなるし貯金も無くなる。
数少ないファンである私たちの応援が無くなると大変なのだ………と勝手に思っている咲良たち。
サイン会の列の最後尾に、走ってきてやっと並ぶ2人。
「みーこ、なんとか間に合ったね」
かなり走ったが余裕のゆきりんに比べて、ヘトヘトの咲良。
「はぁっはぁっ……良かった」
「おっ、みーこみーこっ!、前の人タッくんと一緒の写真を2枚持ってる。並ぶの3回目みたいだね。私たちも2枚ずつ持ってるからもう1回並ぶからね」
「はぁっはぁっ……うん」
そこで終了の看板を持ったお兄さんが、咲良の後に立った。
咲良が驚く。
「えっ最後?」
「マジ危なかった~!」
なんとか2人の順番が来て、サインをしてもらい、写真を一緒に撮って握手をしてもらった。
それが終わるとスタッフのお兄さんは、容赦なく背中を押して排除しようとする。
咲良はタッくんとの余韻に浸りながらもされるがままだ。
しかし、ゆきりんは違った!
「ちょっちょっ!私たちもう1枚チケット持ってるからっ!ほらっ!ほらっ!」
チケットを見せるゆきりんを聞く耳も持たずに排除しようとするお兄さん。
「ちょっ、背中触ってるよっセクハラ!セクハラ!あっブラが外れたっ!!おまわりさ~~ん!ちかんちかんっ!!」
無表情で排除作業を続けるスタッフのお兄さん。
苦笑いしながらタッくんが助けてくれた。
「マネージャー、俺の数少ないファンなんだ、大切にしてくれよ」
マネージャーと呼ばれた男の人は、排除作業を続ける。
「でも拓也君、もう次の予定に遅れてるんだよ」
ツカツカと歩み寄って、咲良とゆきりんの手を握るタッくん。
「内のマネージャーがすまない………もう一度一緒に写真を撮らせてくれないか?」
渋い表情のマネージャーなど気にせずに微笑むタッくん。
手を握られて真っ赤になる咲良とは対称的に、勝ち誇るゆきりん。
「もちろんっ!うちらその為に来たから、あっ、タッくんを応援するのが1番の目的だからねっ!」
写真を撮り終わったら、最後にタッくんが特別にハグしてくれた。
* * * * *
タッくんとの写真を握り締めて、心ここに在らずで帰り道の万世橋を渡っていた咲良たち。
「来て良かったね、みーこ」
「うん………タッくん優しかった」
「私が遅れてよかったでしょ?」
「えっ?それとこれとは別だよ~!」
「いやいや、タッくんにハグしてもらえたのは、私が遅れたお・か・げ・よっ!」
遅刻を正当化して、自慢げにガッツポーズをとるゆきりん。
「むぅ~、結果そうかもしれないけど……遅刻は遅刻よ、クレープのおごりで許すっ!」
「くぅ~、まぁしゃ~ないか、うちも食べたいしね。よっしゃ!クレープ食べにまいりましょうか、み~こ姫!」
「うむ、くるしゅうない、良きにはからえ」
幸せそうな2人の時間だった。
* * * * *
ボスコ教会のベッドの上で、ゆっくりと目覚めるアリーチェ。
眩しい光りの中に、見えてきたのは横の椅子に座って寝ているタッくんの姿だった。
(んっ?、サイン会は終わったと思ったけど?………何でタッくんが横にいるの?)
段々と意識がはっきりしてくるアリーチェ。
(……タッくんが冒険者?そんな舞台あったかな)
アリーチェがジャックを見つめていると、目を覚ましたジャックがアリーチェに気づいた。
「あっ!アリーチェさん!気がついたんだね………良かった」
ホッとした表情のジャック。
夢を見て日本にいる錯覚を起こしていたアリーチェ。
「アリーチェ?…………あ~そうか………ところでここは何処?」
「ここはボスコの教会の中だよ、気を失ったアリーチェさんを司祭様に治療してもらってるんだ」
「ボスコの教会?、………アリーチェが居た所って確か…………森の中じゃなかった?」
「あぁ、僕とお父さんがボスコまで運んで来たんだ。命の恩人だからね。意識が戻って良かった、これからはアリーチェさんをずっと守れるように、もっと強くるからね」
顔が赤くなるアリーチェは、毛布で顔を半分した。
(夢で会ったばかりだけどタッくんの顔でそれを言うか)
「あっありがとう………さんは要らないよ、アリーチェでいい…………それとタッくんて呼んでもいいかな?」
「へっ?僕をタッくん?名前にタは入ってないけど………」
「………いいかな?」
「勿論アリーチェさんの希望だからいいよ」
「むぅっタッくん!次にさんをつけたら無視するからね」
「あっ…………うん、分かったよ、アリーチェ」
「「ふふふっ、はははははっ!」」
自然と2人は笑いあった。
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