剛腕のジャン!☆5
白いふわふわした小鳥の様な魔物を回復して、気絶してしまったアリーチェ。
精霊たちも消えてしまった。
その事によりジャンは、精霊たち全てをアリーチェが召喚していた事に気づいた。
「いったいお嬢ちゃんは何者なんだ………絶対に守らないとな」
ジャンとジャックは、ワイバーンの魔石とボロボロになったジャンの盾と義手を回収し、その他の素材は持ち運べないのでその場に残した。
ジャンは、元通りにしてもらった左腕も使って、両腕でそっとアリーチェを抱きかかえた。
アリーチェの膝の上にいた白いふわふわした小鳥は、もう元気だから飛べる筈なのだがアリーチェから離れようとしなかった。
「見たこと無い魔物だが、危険な感じはしないからまあいいか」
ジャンはアリーチェを抱っこして、急いでボスコの街を目指した。
途中でそれぞれの馬に乗り、森を抜けて街道まで出た。
ボスコの街まではあと1日かかるから、とりあえずここでキャンプを張る事にした。
まだ意識を失っているアリーチェをテントの中で休ませ、ジャンたちは警戒しながら外で休んだ。
そこは街道横の大きな木の下で、芝生のような草も生えている。
ジャンは携帯用のスープを温めていた。
「スープの匂いで目を覚ましてくれたら御の字だったが、やっぱ無理そうだな。魔力欠乏はかなり辛くヤバイ事だからな」
「やっぱりアリーチェは魔力欠乏症?」
「たぶんな、自分の魔力以上を使ったんだろうな。静かに寝てるから身体は大丈夫みたいだが………精神の方がな。なるべく無理をさせないで、早めに教会で見てもらわないとな」
2人は夜空の星が見守る下で、焚き火を挟んでアリーチェの心配をしていた。
その夜はまだアリーチェは意識を取り戻さなかった。
アリーチェの枕元にはふわふわの小鳥が一緒に眠っていた。
* * * * *
次の朝になってもアリーチェの意識は戻らなかった。
ジャンは慎重にアリーチェを抱えながら馬を出発させた。
「馬車で夕方には着く距離だ、少しゆっくりでも夜には着くだろう。今日中には必ず街の教会に連れて行くからそれまで辛抱してくれよお嬢ちゃん………」
ジャンは心配そうにアリーチェを眺めながら、馬をボスコへと進ませていった。
* * * * *
日も暮れて、街道が暗くなった頃、やっとボスコが見えてきた。
普通なら門が閉まっている時間だが、まだ開いていた。
門の周りや近くの森には、松明や魔法の灯りが数多く灯っていた。
ゆらゆらと動き廻って何かを探している様だった。
「ジャック!こりゃあ街で何かあったぞ!俺はそっちの対応に追われるかもしれないから、お嬢ちゃんを任せる、頼めるか?」
「任せて、絶対にアリーチェは守るから」
馬の上で、ジャンからマントに包まれたアリーチェを受け取ったジャックは、アリーチェの寝顔を見て顔が赤くなっていた。
街のみんなを刺激しないように、ゆっくりと門に近づくジャンとジャック。
そしてジャンは衛兵に尋ねた。
「ようっ、何かあったのか?」
馬上に乗った筋骨隆々の男に声をかけられた衛兵は、怪訝な表情をした。
「んっ?こんな遅くに冒険者?街道は魔物の危険があるから通れない筈だが…………」
ジャンは少し複雑な表情をした。
「あぁあれか…………まぁ後でいいか。それよりだいぶ騒がしいが何かあったのか、なんなら手伝おうか?」
衛兵は悲しそうな顔で答えてくれた。
「あぁそれは助かるが、昨日の夜からこれだけ人数が出てで見つからないからもう…………いやっお願いしよう。実は昨日の午前に魔物を狩りに出かけたアリー………子供がまだ帰って来てないんだ」
ジャンは少し疑問に思った。
子供の捜索にこれだけの人がいるのは普通じゃないのだ。
よく見ると冒険者PTに、聖職者も混ざっている。
ベテランっぽいPTもいれば、明らかに学生のPTもいた。
「その行方不明の子供は貴族か領主の子か?」
衛兵の答えは、信じがたいものだった。
「いや、平民のまだ8才の学生だ。その娘が帰って来ないと知った学生や冒険者や街の人々が探しにでてくれてるんだ」
「平民の子供?……そいつは相当みんなに好かれているんだな」
ジャンの横に馬を寄せて、ジャックが小声で話しかけた。
「お父さん、衛兵の人は8才の娘っていってたよ?」
ジャックは大事に抱えている、茶色のマントに包まれたアリーチェを、チラッと見た。
すぐに気がついたジャン、
「あ~っと、そのお嬢ちゃんは精霊と………いや、お嬢ちゃんは凄い魔法を………えっと」
ジャンは、何が秘密で何が秘密じゃ無いか分からなかったので、口籠もってしまった。
そこでジャックが聞いた。
「その娘の名前は、アリーチェと言う名前じゃない?」
驚いた表情の衛兵。
「えっ?そう、アリーチェちゃんだよ。よく知ってるな………この街では見かけない顔だな……………君たちボスコは初めてだよな!」
衛兵が警戒して警笛をくわえた。
「はい、僕は初めてですが、父は………」
衛兵が警戒する理由が分からずジャックは気軽に答えたが、いきなり衛兵が警笛を吹いた。
ピィッピィッピィーーーーーーーッ!
ジャンとジャックはびっくりした。
2人はアリーチェの捜索に当たっていた兵士や冒険者、街の住民などに囲まれる形となった。
「おいおい、何か誤解されてる気がするな………」
衛兵は剣を抜いた。
それに合わせる様に、周りの兵士や冒険者も剣を抜いていた。
衛兵がジャンを睨んでいた。
「なんで初めて来て、街で行方不明になっているアリーチェちゃんの名を知っているのか答えてもらおうか、答えによっちゃあただじゃおかない」
そこにステラ校長先生とマルティーナPTが帰ってきた。
今にも戦闘が始まりそうな様子に気がついたステラ校長先生は、それぞれの間に入った。
そしてステラ校長先生は馬に乗ったジャンを見た途端に、右手を挙げてその場の全員に語りかけた。
「全員、剣を閉まって~、彼には戦うつもりは無いし、戦ったとしてもこちらが全員やられてしまいますから」
みんなは何をバカな事をと思いつつも、ステラ校長先生の言葉に渋々といった感じで従って剣をおさめた。
「有難う皆さん、どうしてこうなってるかは知りませんが安心して下さい、彼はボスコの為に来て下さった冒険者です」
ゆっくりとジャンに歩み寄り、お辞儀をするステラ校長先生。
「ようこそおいで下さいました、Aランク冒険者のジャン・ヴァレンティーノ様と、そのご子息ジャック・ヴァレンティーノ様」
周りが驚きの声をあげた。
「えっ?ジャンってあのジャンか」
「Aランク冒険者がボスコに!」
「あの剛腕のか!」
「なんだおっさんじゃん…」
「息子、かっこいいわ」
色々と聞こえて来た。
やっと話しを聞いて貰えそうなので安心するジャン。
「誰だか知らないが、ありがとよ、俺はただお嬢ちゃんを教会で治療したいだけなんだ」
ジャンがジャックの大事に抱えている包みを見ながら話した。
「お嬢ちゃん?見せていただいても?」
ジャックは馬から降りて、意識を失ったままのアリーチェの顔を、マントを少しずらして見せた。アリーチェの顔はまだ青白かった。
「アリーチェちゃん!!」
思わず大きな声が出るステラ校長先生。
「意識を失っていてな………治療費は俺が払うから、急ぎたいんだが」
「分かりました!衛兵っ、馬車の用意と、司祭様に連絡、あと捜索者全員にアリーチェが見つかった事を知らせて!」
「はっ!了解しました!」
衛兵の返事と共にすぐに用意された馬車。
ステラはアリーチェをジャックから受け取り、すぐに馬車で教会へ向かった。
ジャンとジャックも後を追った。
* * * * *
中央広場の教会に着くと、もうボニート司祭とルイーザ助祭が待っていた。
治療は祭壇に1番近い部屋で、司祭によって行われた。
部屋でアリーチェのマントを取ると、白い小鳥が現れてみんな驚いたが、ジャックが素早く抱いていた。
みんなはアリーチェが心配だったので、特に気にした様子もなかった。
アリーチェはまだ気を失ったままだが、あとは司祭による治療を待つしかないので、冒険者ギルドに集まってジャンと話しをする事になった。
みんなはなぜ意識を失ったアリーチェを連れていたのか疑問に思っていた。
場合によってはAランク冒険者だろうとただではおかないと、みんな意気込んでいた。
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