剛腕のジャン!☆4
アリーチェは言う。
「約束を守ってもらうのはこれからよ」
もう色々見せちゃってるし、秘密にする約束もしてるからと思って、アリーチェは両手を翳して詠唱無しで魔法を使用した。
「『リジェネネイティブ』!」
ジャンとジャックの全身が白く暖かい光りに包まれる。
アリーチェが瀕死の2人をみると、おじさんの方は全身が焼け爛れてたし、左腕の肘から先が無かった。
若い方も足が曲がっちゃいけない方向に曲がってたし身体の正面には大きなキズがあった。
アリーチェは今回の戦いで怪我した2人を手っ取り早く全快にするつもりで2人に欠損再生の魔法を使ったのだ。
それによって勿論2人の命は助かったのだが、昔負った大きな傷や昔失った腕を治してしまったのだ。
暖かかった光りが消えてると、2人の身体は昔の健康な状態に戻っていた。
ジャンとジャックは信じられない表情でお互いの身体を眺めていた。
2人は自分の身体を確認するようにゆっくりと立ち上がる。
ジャックには胸から腹にかけて昔負った大きな傷跡があったのだが破けた服の下に見える肌に傷跡は無かった。
足だって激痛と共にあらぬ方向へ曲がっていたのに治っていた。
ジャンはワイバーンのブレスで、全身焼け爛れていたのだが綺麗になっていた。
それどころか10年前に失った筈の左腕が何事も無かったかのように存在していた。
2人は夢でも見ているかのように呆然としていた。
ジャックが声をかける。
「おっ、お父さん………左腕………」
ジャックの声で現実に返ったジャンは、ゆっくりと左手を握り締めながら少しずつ込み上げてくる想いを言葉にした。
「あぁ、思ったとおりに動く…………すごく熱い感じがして……………懐かしいな…………くっ………んぐっ」
ジャンの瞳には涙が込み上げてきていた。
ジャックも泣いていた、そして2人が抱き合った。
ジャンはその懐かしい左手で、ジャックの背中をポンポンと叩く。
「この通りだ……………動くぞ」
「うん、分かるよ…………お父さんの左腕だ………夢じゃないんだね」
アリーチェはなんか話しかけずらい雰囲気だったのでしばらく我慢して2人をそっとしておいた。
「…………………………」
いつまでもポンポンやっているのでアリーチェは我慢できずに2人の周りをうろちょろしだした。
視界をうろちょろするアリーチェに気が付いたジャンが、ジャックを離してアリーチェに向き直った。
「えっと……………変なところを見せちまってすまなかったな。この身体はたぶんお嬢ちゃんのお陰なんだよな…………礼を言う、ありがとう」
ジャンは今の状況を色々と考えたが結局分からなかった、自分の失った左腕が治った事も、ジャックの胸にあった傷跡が治った事も。
死ぬ筈だった2人が元気になり、回りに居たワイバーンは全て倒されている。
多くの精霊が現れてワイバーンを倒したのは分かる、しかし何故ここに精霊たちが居るのか分からない。
最後に信じられない回復魔法をかけてくれたのがこのお嬢ちゃんで、ここに居る多くの精霊が守っているのもこのお嬢ちゃんだ。
ジャンは考えるのを辞めた。
(俺が理解出来なくったっていいさ、命もこの左腕も救ってもらった事実は一生変わらないんだから)
「お嬢ちゃんありがとう。いやそれだけじゃ足りないな。ん~そうだな…………生きている限りお嬢ちゃんの力になろう」
ジャンは胸に拳を当てて誓った。
アリーチェは戸惑った。
「えっ、おじさん、生きてる限りは重いよ……」
「あっいや、俺と息子2人の命の恩人なんだからそれくらいの気持ちでだな………」
「ん~アリーチェとしては今見た事を秘密にしてくれればそれでいいから」
「勿論だとも!一生秘密だ!ジャックもそうだろ?」
死にかけた命が助かり、父の左腕が元に戻ったのが何故なのかジャックには今ひとつ理解出来なかったが、この子が助けてくれたのは事実だった。
「うん秘密にするよ、ありがとう」
「って事だお嬢ちゃん!死んでも秘密は守るから心配するな」
「私はアリーチェよ」
「俺はジャンだ」
「僕はジャック」
「ああぁぁっ!ジャンって無茶な冒険者の?」
ジャンは微妙な表情をする。
「その呼ばれ方は初めてだが………お嬢ちゃんの言っている無茶な冒険者かどうかは分からないが、ボスコの為に王都から派遣されたAランクの冒険者なんだぜ!」
Aランク冒険者は尊敬される存在なので、ジャンは少し自慢げに言った。
「やっぱり無茶な冒険者だ!ギルド長に1人でワイバーンを倒しに行くなって言われたでしょ!まったく」
「えっ?あっいや………すんません」
アリーチェが怒ったことで精霊たちの怒りが増し、ジャンは精霊たちに囲まれて睨まれている事にやっと気がついた。
精霊たちはアリーチェを危険な目にあわせたジャンにかなり怒っていたのだ。
だがアリーチェが気にしてなさそうだから精霊たちは我慢していたのだ。
アリーチェが怒った事で我慢が限界まできていた。
ジャンは理由は分かってないが、命の危険を感じたのか回りで怒っている精霊たちに全力で謝り始めた。
「いや、すいません。ほんとすいません。ごめんなさい。もうしません……」
情けないAランク冒険者だった。
少し落ち着いたところで、ジャンがもう一度お礼を言ってきた。
「改めて息子共々助けてくれてありがとな。俺の無茶のせいで息子も死ぬとこだったよ」
「もういいわ。ちゃんとボスコを守ってよね」
「勿論だとも………でもよ、何から守ればいい?ワイバーンの群れは回りの精霊たちが倒しちまったけど………」
「あっそっか、じゃあ無茶な冒険者は用なしか」
「いやいやお嬢ちゃん、それは………」
「えっ!!この人たち精霊なの?」
「えっ?なんだジャック、気づいてなかったのか。お嬢ちゃん以外全員精霊だぞ」
「うっそ……」
アリーチェは意外と鈍そうなジャックに念を押した。
「………秘密だから守ってよね」
ジャックは今になってやっと秘密と言っている意味が分かりかけてきた。
ジャックはアリーチェの仲間がワイバーンを倒したと思っていたがみんな精霊だった。
アリーチェの回復魔法が父の左腕を治してくれた事は、1番信じられなかったが、1番感謝していた。
「そうだったのか………ありがとう。君のおかげで僕たち親子の念願を果たせるかもしれない。僕たちの念願を果たしたら、僕は僕の全てで君の為に生きよう。神に誓うよ」
ジャックの瞳は真っ直ぐアリーチェを見つめていた。
(うぅ~わっ、重いわ………親も重かったけど息子も重すぎるわ)
「いえっ、別に大丈夫よ、ジャックはジャックの人生を自由に生きてね」
「えっ…………僕の人生…………分かった。それじゃあ僕の人生を自由に生きるよ。全てをかけてアリーチェの為に生きるのが僕の人生だ!」
(そういえば人の話を聞かないタイプだったわ…………あらっ?よく見ると似てるわね………)
ジャックはアイドルのような男前だった。
日本で暮らしていた頃に唯一追っかけをしていたアイドルのタッくんの事を思い出していた。
瓜二つと言うよりむしろ冒険者として鍛え上げられた身体はタッくん以上だった。
急に恥ずかしくなるアリーチェ。
「あっ、えっとね…………元気でいてくれたらそれで嬉しいです………」
応援する気持ちで言ったのだが、アリーチェは更に恥ずかしくなった。
「ありがとう、アリーチェ」
ジャックは真っ直ぐアリーチェを見つめた。
(きゃ~タッくんこっち見ないで~~)
「えっとその………アリーチェはあっちで確認する事があるからじゃあね」
とってつけたような言い訳で、ジャックの前から逃げ去るアリーチェ。
アリーチェは精霊たちと共に白いワイバーンの所へ来た。
よく見ると倒れたワイバーンの後の崖には小さな穴があった。
アリーチェがぎりぎり入れるくらいの小ささだ。
「やっぱりこの奥に何かいるわ、小さいけど何かこう………不思議な魔力を感じるのよね」
横に立ってるウィスプも何か感じるようだ。
「確かに何かいますね、魔物でしょうか。相当弱ってますね」
「今にも死んじゃいそうね。ちょっと見てくるわ」
「えっ、いけませんアリー………チェ様……」
アリーチェは引き留める言葉も聞かずに、ササッと入って行ってしまった。
少しするとアリーチェは、ギズだらけの白いふわふわした小鳥を抱っこして出て来た。
「ねえ見て、何かしら、まさか白いワイバーンの子供?子供を守っていたの?」
「ワイバーンの子供は見たことありますが、鱗で覆われていて、このような羽毛はありませんでした、ワイバーンの赤ちゃんではありませんね。傷だらけですから、襲われていた可能性の方が高いかと思います。しかし感じた事の無い魔力を持った魔物ですね」
ウィスプが周りの精霊たちにも確認するが、みんな首を横に振るだけで誰も知らないようだ。
「まあいいわ、ふわふわして可愛らしいから、悪い子じゃないわよ」
そう言って『ヒール』をかけるアリーチェ。
だが傷は回復しなかった。
「あれっ?回復しないわね、『リジェネレイティブ』でもかけてみるか」
簡単にあり得ない魔法を使おうとするアリーチェ。
「お待ち下さいアリーチェ様。回復魔法で回復もせずダメージも受けない魔物に、1つだけ心当たりがあります」
「おお、さすがルナ!で何々?」
アリーチェに褒められて嬉しくなるルナ。
「はい!自分自身の能力で回復するとされている魔物です」
「ふぅ~ん…………自分の能力で?でも放っておいたら死んじゃいそうよ」
「はい、その魔物が自身の能力で回復出来るのは大人になってからなのです。子供の頃は魔力を吸収して育つのですがその育つ時に傷も回復するとされています。つまり子供の傷を回復するには魔力を注ぎ込む必要があるのです。只、私の予想どおりだとその子を回復する魔力量がですね…………」
「なんだ、魔力を注ぎ込めばいいのね!ありがとうルナ。魔力量なら任せて、じゃあいくわ」
いつの間にかジャンとジャックも、精霊たちと一緒にアリーチェを囲んでいた。
地面に足を伸ばして座って、膝の上に白いふわふわした小鳥を乗せているアリーチェは、魔力を注ぎ始めた。
しばらくたつと、少しずつキズが回復し始めた。
「結構魔力を注ぎ込んでるけどまだなのね…………」
白いふわふわした小鳥の傷が徐々に回復していった。
残りの傷もあと少しとなっていたが、アリーチェは顔にすごい汗をかいていて顔色も青白くなっていた。
ウィスプがアリーチェを止める。
「十分ですアリーチェ様、もう今は辞めましょう」
他の精霊たちもジャンもジャックまでもがアリーチェを止めようとしていた。
ジャンもジャックも魔力欠乏は知っていた。
とても辛く、意識を失ってしまうし、無理をすれば精神に支障をきたすのだ。
アリーチェは魔力欠乏などなった事が無く、目の前のキズを回復する事に集中するあまり、頭が朦朧としてきても気づかず、みんなの声も頭に入って来なかった。
精霊がこの世界に居るためにはアリーチェから魔力を少しずつもらっているので、アリーチェの魔力節約の為に精霊たちは徐々に精霊界に帰っていった。
最後にウィスプが消えかかった時、ジャンとジャックに話しかけた。
「あなたたち、アリーチェ様をお願い出来るかしら」
ジャンはウィスプを真っ直ぐ見た。
「任せろ、俺たちはこのお嬢ちゃんのおかげで生きている。命に代えても守ってみせるさ」
「そう、じゃあお願いね。只、命に代えてもはダメよ、あなたが死ぬのは勝手だけど、アリーチェ様を守る人が居なくなるわ、そうしたらただじゃおかないわよ」
そう言ってウィスプは、光りの粒子と共に消えていった。
「ははっ、命に代えてもは言葉のあやだっでのに……死ぬのは勝手か…………ゾクゾクするぜ」
ジャンはウィスプのSな所に魅了されていた。
みんなが止める中、小鳥のキズは完全に回復した…………。
やりきってアリーチェは気を失った。
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