剛腕のジャン!☆3
アリーチェはジャンとジャックに秘密を守る事を神様に誓ってもらったので、あとはワイバーンを倒すだけだった。
勿論お友だちの精霊にお願いするだけなのだが………。
ジャンとジャックが瀕死の状態で倒れている横でアリーチェは、精霊みんなをあだ名で呼んだ。
「じゃあみんなお待たせっ!ウィナ(ウィスプ)とリートはリーダーの白いワイバーンを!他のワイバーンはディーネとフラン(フラウ)、シドとラン姉(ランパス)、シル(シルフ)とノン(ノーム)、ルー(ルナ)とヴォル爺がそれぞれチームで、好きなだけアリーチェの魔力を使っていいから、ワイバーンをやっつけちゃって!!」
名前を呼ばれる順に現れる精霊たちだが、格好はおしゃれな服装だった。
突然回りに現れる者たちを見て、唖然とするジャンとジャック。
可愛らしい服や綺麗な服など戦うための服装では無かった。
ジャンは精霊だとは分かるが、普通の服装で現れる事が理解できなかった。
ジャックは子供の仲間が突然現れた事や、戦う格好では無くおしゃれな服装なのが理解出来なかった。
イフリートは嬉々として白いワイバーンに向かって行って素手で戦い始めた。
ウィスプはイフリートについて行くが、とりあえずイフリートの好きなようにやらせるようだ。
ディーネとフラウは、2人で遊ぶようにワイバーンの周りを回りなら戦い始めた。
シドとランパスは、シドが弱体化魔法をかけて、ランパスが『ターン』魔法で敵の背後などに瞬間移動して一方的にワイバーンを鞭でボコボコにしていた。
シルフとノームは、シルフが飛んでいるワイバーンを強風で叩き落とし、ノームが魔法で岩をガンガンぶつけていた。
最後にルナとヴォルトだが、ルナが年寄り姿のヴォルトを魔法で強化して、ムッキムキになったヴォルトが帯電させた拳でワイバーンをビリビリさせながら、ボッコボコにしていた。
ヴォルトは意外に楽しそうだった。
ジャンとジャックは目の前で起こっている事が信じられなかった。
ジャンも精霊と契約しているので、シェイドが闇の精霊なのは分かるし他もみんな精霊なのが分かったのだが。
(どうなってやがる、闇属性の精霊シェイドが執事の格好してるのも分からんが、他もみんな可愛らしい普段着を着てるが魔力の感じから間違いなく精霊だ。そして全員普通の精霊よりあきらかにワンランク強い………)
倒れているジャックも目の前で起こっている事が理解できなかった。
(こんなに子供の仲間が居たんだ………そりゃそうか、こんな森の中に子供1人で来るわけないよな。僕もどうかしてるな)
ジャックは精霊の見分けも付かず、見当違いな事を考えていた。
ワイバーンと精霊たちの戦闘は、それ程時間もかからずリーダーの白いワイバーン以外は倒されていった。
戦闘が終わった精霊たちは、アリーチェの側に戻ってきてイフリートを見ていた。
残るは白いワイバーンだけだった。
イフリートは押されているが、嬉々として1人で戦っていた。
「はっはっは~!ぶほっ!やるではないかっ、へぶしっ!おりゃ!はぶほっ!ひでぶっ!」
アリーチェは苦笑いしていた。
(分が悪そうだわ…………そりゃそうよね、魔法を使わずに素手で戦ってるんだら)
痺れを切らしたアリーチェはみんなに指示を出す。
「リート時間切れよ!あとはみんなで倒しちゃって!」
「えっ?ぶへっ!まっ待ってくれ、はうっ!まだこいつとの戦いはこれからなん………!」
あろう事か戦闘中に、白いワイバーンの目の前でアリーチェの方を振り向くイフリート。
そのチャンスに白いワイバーンは、素早く口を開けてブレスを放った。
ジャンに放ったブレスの射線の先にはアリーチェたちが居た。
ピカッッ!ゴォォォ~~ッ!
一瞬にしてイフリートとアリーチェたちがブレスの光りに飲み込まれた。
白いワイバーンのブレスが治まった後にイフリートの姿は跡形も無く消え去っていた。
しかしその奥、ブレスの射線の先に居たアリーチェたちは、美しいシールドに守られて無事だった。
白いワイバーンはアリーチェたちを憎々しげに睨んでいた。
アリーチェは最初に魔法を教わる時、ウィスプに『シールド』魔法を真っ先に教えられた。
中級も上級も神級もだ。神級はだいぶ早くなったがまだ詠唱が必要なので急ぐ時は無理だった。
白いワイバーンがブレスを放つ瞬間に、アリーチェは両手を前にかざし『シールド』魔法を使った。
「『バリアウォール』!」
一瞬にして上級のバリアウォールが二重に展開された。
ブレスが治まると、1つ目の『バリアウォール』も綺麗なままだった。
アリーチェはイフリートの前にシールドを張ってあげる事も出来たのだがそれをしなかった。
(まぁ早く倒さなかったお仕置きね。イフリートは精霊界に戻っただけだから大丈夫だし、そもそもリートが戦闘中に後ろを振り向くとか自業自得な訳だもんね)
「リートもいなくなったし、じゃあみんなで、やっつけちゃっ……」
アリーチェが言いかけた所で、精霊たちの魔法が一斉に白いワイバーンに炸裂した。
シューカッキン!(氷)
ピカッバリバリッ!(雷)
ゴォーシュバババッ!(風)
ガンガンガンッ!(土)
ちゅど~ん!(どれか…)
どっか~ん!(どれか…)
ずばばば~ん!(どれか…)
……省略……
ブレスをアリーチェに見舞われて、精霊たちはぶち切れていた。
気がつけば白いワイバーンはその場に倒れていた。
ジャンもジャックも、口をあんぐり開けたまま固まっていた。
アリーチェは『バリアウォール』を解いて、ジャンとジャックに手をかざす。
「回復するわ。これも秘密だからね」
そう言ってアリーチェは回復魔法をかけようとした。
「回復魔法?聖職者でもなさそうだし、それに子供だろ?流石に死の間際の相手に希望を持たせようとするのはいいが、嘘ついちゃダメだぞ」
ルナがスッと前にでて、倒れて動けないジャンに歩み寄りっていきなり顔を踏みつけた。
「「「!!!!」」」」」
みんなドン引きした!
勿論、横で瀕死の息子ジャックも引きつった表情で固まっていた。
「アリーチェ様を嘘つき呼ばわりするとは、死にたい様ですね」
ルナは死にかけのジャンの顔を何度も踏みつけた。
「フンッフンッ!」
プ二ッ!プ二ッ!
ルナは医療に特化した属性なので、攻撃魔法も無ければ、自身の攻撃力も無かった。
ルナにとっては足で踏んづける、これが最大の攻撃なのだ。
「フンッフンッ!」
プニッ!プニッ!
何度も死にかけの人間を踏みつけるルナに、アリーチェはどっちも可哀想になってきた。
「ルー………死にかけてるわ、許してあげて」
「フゥ~~、はい分かりました。流石アリーチェ様はお優しいです」
ジャンの顔から足を退けるルナ。
「今日はこれくらいで勘弁してやる。あと何度か私が攻撃してたら死んでたぞ!お心の広いアリーチェ様に感謝するのだな。そうアリーチェ様に一生感謝しなさい!」
ジャンは突然踏んできた女の子も精霊なのは感じていたが、属性が分からなかった。
ルナにとっての踏みつけると言う全力の攻撃を受けながら、全く効いてないジャンは思った。
(属性は分からないが、自分の主人を侮辱されて怒っているんだよな、相当怒っている様に見えるが全く痛くない。手加減してくれている………優しいんだな。あっ、もうやめちゃうんだ…………)
足をどけたルナを見ながら、残念がるジャン。
そもそもこれだけ多くの精霊が守っている子供だ、何かあるのだろうと考え直すジャン。
「そっか…………嘘つき呼ばわりして悪かったな。俺はもう無理だから、息子のジャックを頼むよ。少しでも回復して貰えれば街の教会まではもつだろう。金は冒険者ギルド口座の俺の金を使ってくれ。息子の為だいくら使ってもらっても構わない。ジャックが証人だ…………後は頼むよ。鳥みたいな格好のお嬢ちゃん、あんたの秘密を守る約束を守れそうだよ………フッ、ありがとうな」
目を閉じて呼吸が浅くなるジャンを見つめながらアリーチェは言った。
「約束を守ってもらうのはこれからよ」
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