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剛腕のジャン!☆2


 森の中、馬を進めるジャンと息子のジャック。


「ワイバーンたちの魔力をビンビン感じるな。そろそろ気づく距離だからジャックはここで馬と一緒に待ってな」


 真剣だが楽しそうな表情をするジャン。


「お父さんが様子を見るだけじ無いとは思っていたけど躊躇ためらわないんだね。分かったこの辺りで馬と一緒に待ってるよ」


「狩れそうな魔物がいたら狩ってていいからな、まあワイバーンのせいで近くには居なさそうだけどな」


「お陰で安心して待っていられるよ」


「んっ、じゃあちょっくら行ってくるわ」


 馬を降りて、左腕に盾がしっかり固定されているのを確認するとジャンは、散歩にでも行くように気軽に歩き出した。



 森の中を進むと木々の隙間から、体長3メートルはある緑色のワイバーン数体が見えてきた。


 今まで気配を消して足音も立てずに歩いていたジャンが、ワイバーンに狙いを定めて走り出した。


 1体のワイバーンがジャンに気づき叫ぶ。


 ギャオォォォ~~ッ!


 ジャンがワイバーンのいる広場を走り抜ける。

 全てのワイバーンが気づく頃には、大剣の柄に手を掛けたジャンが1番近いワイバーンの側まで来ていた。


 ジャンに相対したワイバーンは、威嚇しながら目の前のジャンに噛みつきにいった。


 口を開けて迫るワイバーンの牙の更に下、地面すれすれをスライディングで躱したジャンは、スピードを活かしたまま両足でで踏ん張り、真上にジャンプしながら大剣を振り抜いた。


 高々とジャンプしたジャンの真下では、大剣で切断されたワイバーンの首がずり落ちるところだった。


 その様子を見た他の5体のワイバーンはすぐに飛び上がり、仲間を葬ったジャンへ怒りを向けていた。


 ワイバーンの群れの奥には、リーダーと思われるひときわ大きな白のワイバーンが怒りに燃える赤い目でジャンを睨んでいた。




  *  *  *  *  *




 森の中をワイバーンの群れに向かって歩くアリーチェとアリーチェの影に潜んで、精霊としての魔力を察知されない様にしているシド。


「誰かが1人でワイバーンの群れと戦ってるわね。少し離れた所にいる仲間っぽいのは…………弱そうだから邪魔にならないように隠れてるのかな?」


「ワイバーンの群れに1人で向かっていくなんて、いったい何者なんでしょうか?」


「あっ!ワイバーンが1体減ったわ…………へぇ~」


 まだワイバーンの居る辺りまで距離はあるが『ダークミスト』を使いながらゆっくりと歩いて近づくアリーチェ。




  *  *  *  *  *




 ジャンはワイバーンたちの噛みつきや足の爪でのアタックなどをギリギリで盾で防いだり躱しながら、魔法の詠唱をしてリーダー以外にポイズンをかけワイバーン5体に毒のダメージを与えていた。


 ジャンは闇属性なのだ。


 ジャンは隙を作る為ワイバーンにパラライズをかけて麻痺させるが、他のワイバーンが邪魔に入って思うようにトドメを刺せずにいた。


「ちっ、やっぱこの数は面倒だな………そろそろ魔力残量がヤバイいか、精霊召喚の分はリーダー戦に取っておきたいし……」


 ジャンは闇属性の精霊と契約しており、精霊召喚が出来るのだ。


 相変わらずギリギリでワイバーンの攻撃を躱したり、肩の盾で防いでいるジャン。


「フゥ、さて、どうすっか………」


 少し考え事をしてワイバーンたちから一瞬目を離した隙に、ジャンは後ろからワイバーンの体当たりを喰らって更に前から来たワイバーンに盾と肩をがっちり掴まれてしまった。


「しまっ!このっ!」


 全身に力を入れて踏ん張りながら、肩を掴んでいるワイバーンに大剣で斬りつけようとした瞬間、ジャンの肩を掴んでいるワイバーンの背後が真っ白に光った。

 ジャンはその瞬間に衝撃を受けて一瞬気を失った。


 ジャンは全身の痛みと共に気が付くと地面に倒れていた。


 左腕の義手も盾も吹き飛ばされて無くなっていて、肘までしか無い左腕があらわになっていた。

 よく見ると全身が黒く焼けただれていて、動く事すらままならなかった。


 横には黒焦げになった1体のワイバーンが転がっていて、視線の先には笑うように口を歪めた白いワイバーンがいた。その口からはブレスを吐いた後の煙が残っていた。


「うぐっ………まさか仲間が居ようが構わずブレスを吐いたのか………」


 流石のジャンも予想していなかった。


「くそっ、無茶しすぎたか…………ジャック………ジーナ………すまん」


 身体は動かず全身に焼ける様な痛みを感じながら、ジャンは自分の妻と息子に謝った。





  *  *  *  *  *




 森の中を見つからない様にワイバーンたちの所に向かっていたアリーチェ。


「今、凄く光ったけど、ワイバーンをまた1体殺ったみたい………あっ!!マズいわ死にかけてる!シド急ぐわよ!」


 アリーチェは隠れて進むのをやめ『ダークミスト』を消して、シドも影から出てもらって走り出した。


 アリーチェはシドの魔力でワイバーンの意識がこっちに向いてくれたらとも考えていた。




  *  *  *  *




 アリーチェの思惑通りワイバーンたちがシドに気づいて、ジャンよりもシドのいる森の方を気にしだした。


 瀕死で動けないジャンもシドの魔力に気づく。


「んっ?………精霊かな…………俺は召喚してないよな…………いや、したかな?」


 ジャンは意識が朦朧もうろうとしてよく分からなくなってきていた。




  *  *  *  *  *




 ワイバーンたちから少し離れた所で隠れているジャック。

 ワイバーンのブレスの光りは見たが、どうしたらいいのか分からずにいた。


「お父さんは大丈夫かな………」


 何かあったとしてもジャックは逃げるしか無いのだと考えていた。



 ガサガサッ

 テッテッテッテ~


 突然うしろの草むらから、全身グレーのつなぎを着た子供が走ってきた。


 「えっ?なぜ子供が??」


 ジャックはアリーチェを止めようと前に出た。

 アリーチェは草むらに今戦っている人の仲間が隠れている事は分かっていたので、急いでいるが一応立ち止まった。


「きっ、君!この先は危ないから引き返すんだ!」


「ワイバーンと戦ってる人が死にそうだから助けに行くの!あなたは邪魔だからここに居て!」


 アリーチェは素早くジャックの横をすり抜けて走り、シドもその後を追っていった。


「えっ?死にそう?………お父さんか!」


 すぐにジャックもアリーチェたちの後を追った。




  *  *  *  *  *




 ジャンとワイバーンが戦ってた広場に着くアリーチェ。


 ワイバーン4体と大きな白いワイバーンがみんなシドを見ていた。


「はぁっはぁっ、どうやら間に合ったみたいね」


 そう言ってアリーチェは焼けただれて倒れているジャックの元へワイバーンを警戒しながら歩みよった。

 ワイバーンたちはアリーチェに魔力は感じなかったのか、気にする様子はなかった。


「子供?………執事の服を着ているあっちが精霊か…………なんで子供と精霊がこんな所に?」


 ジャンはシドを精霊だと認識しつつも、朦朧としていて考えがまとまらなかった。


 そこにジャックも到着した。


「おっお父さん!!」


 ジャックは瀕死で倒れている父の名を呼び、ワイバーンの恐さなど忘れて父に走り寄った。


「お父さん!大丈夫っ?」


「おやっ………ジャックか。子供だけじゃなくジャックも来たか………」


 ジャックの顔を見て、朦朧としていたジャンの意識がハッキリとしてくる。


「ジャック?…………!!なんでここに来た!」


 ジャンが回りに視線を巡らすが、ワイバーンに囲まれている状況は変わってない。


「これじゃあジャックも逃げられないな………すまんジャック、父さん負けちまったわ。ジーナの仇はとれなさそうだな…………すまないジャック………んぐっ」


 悔しくて涙目のジャン。


「お父さん………」


 リーダーの白いワイバーンの様子をジッと見ているアリーチェ。


(こっちを完全に舐めてるのは都合がいいわ)



 アリーチェは白いワイバーンから目を離さずに、ジャンとジャックに話しかけた。


「お二人さん、これから見る事を死ぬまで誰にも言わないと神に誓えるなら、助けてあげるわよ?」


 ジャンとジャックは何を言われたのか理解出来なかった。


 ジャックは子供だから恐くてどうしたらいいか分からなくなっているんだと思った。

 もうこの状況では誰が考えても助からない。


「ワイバーンが怖いんだね。そりゃそうだよね」


 ジャンは子供と精霊の事を考えていた。


(あの執事の格好してるのはたぶん闇属性のシェイドだな。ワイバーン1体倒すのが精一杯だろうから誰も助からないか………ってか誰が召喚した精霊なんだ?んっ今子供が助けてあげるって言ったか?)


 ジャンには全く理解出来なかったが、この子も死ぬのが怖いんだな考えると可哀想になった。


「フッ、分かった。これから見る事は死んでも話さないと神様に誓うよ…………秘密だ」


「おっお父さん、何を言って……


「まあいいじゃないか、子供の最後の願いだぞ?ジャックも叶えてやれ」


「…………分かったよ。これから見る事は死んでも話さないと神に誓うよ。これでいいかな?」


 アリーチェは、たぶん2人とも理解してなと思うが、神に誓ったなのだから良しとした。


「良かった、神様に誓った事を

忘れないでね。じゃあその場所を動かないで!」


 ジャックが真剣な表情で、アリーチェに話しかけて来た。


「僕の願いも叶えてくれるかな、僕が時間を稼ぐから、君は森に向かって走ってくれないかな、もしかしたら助かるかもしれないから……」


「えっ?何言ってるの?」


「時間が無いからいいね、今すぐだからね、行くよっせぇ~のっ」


「だから、ちょっと待って!」


 人の話を聞かないでジャックが剣を抜いて叫ぶ。


「走れっ!振り返らずに走れっ!」


 そして白いワイバーンに向かってジャックが走り出した。


 アリーチェは呆れていた。


「もうっ!ばかっ!」


 白いワイバーンに向かっていったジャックは、横にいた普通のワイバーンの尻尾攻撃をもろにくらい、弾き飛ばされて瀕死の状態でアリーチェの足もとに転がって来た。


 瀕死だがまだ大丈夫そうなのを見てアリーチェは安心した。


(先ずはワイバーンを倒さないと…)


「………もう1回言うわね、2人とももう動けないと思うけどその場所を動かないでね」


 瀕死のジャンとジャックは、死を覚悟したのか手を握り合っていた。



 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。


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 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆




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