剛腕のジャン!☆1
モンテラーゴはボスコの街から東へ馬車で2日程進んだ先にある街だ。
山々に囲まれていた山間部からロンバルディア平原へと繋がる要所にある街だ。
鉱石採掘場に出来た鉱山都市であり、採掘や鍛冶により武器や防具の商業が盛んで活気あふれる街だ。
街の規模も大きく人口はボスコの倍以上で防御壁も高い。
街と言うより都市と言った方が合いそうだ。
モンテラーゴに門は2つ、ロンバルディア平原側にある南門と、ボスコへと至る街道側にある北門だ。
空が白み始める頃、モンテラーゴの北門が開かれた。
数人の衛兵に敬礼されながら馬に乗って出て行く男か2人、Aランク冒険者のジャン・ヴァレンティーノと息子のジャック・ヴァレンティーノだ。
父親のジャンは年の頃は40代後半だが、角刈りで背は高く、日焼けした筋骨隆々の肉体は若々しく見えた。
背中には大剣を背負い、右腕は特に逞しかった。
左の二の腕に盾が固定されていたが、左の肘から先は銀色の義手だった。
馬を進めながら、ジャンが誰に話しかけるでもなく呟く。
「さて…………ボスコの街へ行く途中に、ワイバーンの顔でも拝んでくか」
ジャンの少し後ろを馬に乗ってついて行く息子のジャック・ヴァレンティーノは、まだ14才で身体の線は細く、少年の雰囲気だった。
背負っている武器は、大剣と片手剣の中間くらいの長さの剣だった。
「お父さん、先ずはボスコの冒険者ギルドに顔を出した方がいいよ、ギルド間通信でボスコのコルネリオギルド長にそう言われたでしょ?」
「まあ、ワイバーンの顔を見てからでも遅くはないし、偵察をしてたらそのまま戦闘になっちまったって言えばギルド長も文句を言わないんじゃないか?」
「偵察は済んでるの知ってるでしょ?その情報では少なくともワイバーン6体とリーダー1体。AランクPTの仕事だよ、お父さん1人じゃ無理だと思うよ。僕なんかまだLV14だから、Bランクの魔物相手じゃ手伝えないし」
「敵が群れだっていっても仲間に当たるから同時には攻撃してこないもんだ、攻撃は僅かにずれるからよく見てりゃあなんとかなる。ジャックが1人前だったら背中を任せられるんだが………まぁ大丈夫だろう」
「よく見れば防げるって………Aランクにもなってあんまり無茶しないでよねお父さん、僕ももっと強くなって少しでも助けられるようになるからさ」
「無茶してでも強くならないと、母さんの仇のアイツには届かねえからな………俺の左腕の借りも返さねえといけねえし、それまで俺は絶対に負けられねぇんだ」
2人は馬のスピードを上げて、ボスコへの街道を進んでいった。
* * * *
アリーチェは昨日、ラダック村のエリスの所に行って、1日だけウィスプとランパスとシドが、ラダック村を離れる事を相談にいった。
エリスは双子の子育て真っ最中だったが、今は夏でルカもいるし、今までのお礼と共に精霊たちを送り出してくれた。
だいぶ日も高くなり、ボスコの街は賑わっていた。
今日ワイバーンの様子をこっそり見に行く予定だったアリーチェは、シドと一緒にアパートを出た。
ワイバーンの居る森は、隣の領の都市モンテラーゴへ向かう街道の途中だ。
真っ直ぐ続く街道は、左右を高い山々と森に囲まれていた。
今はワイバーンによる緊急事態宣言により街道を通る人はいなかった。
アリーチェたちは1番近い森にウッピー狩りに行ってくるからと衛兵告げて、ボスコの東門を出た。
東の森に着いたアリーチェは、前に母のエリスが作ってくれたグレーのつなぎを着てフードを被った。
「良し、準備完了~!」
遠目には鳥に見えなくもない格好だ………
護衛は飛行が1番得意なシルフに交代した。
アリーチェは『フライ』魔法で浮き上がると、一気に空高くまで上昇する。
空高くにふわふわと浮いているアリーチェとシルフ。
上空から見下ろしたボスコの街は、街に居る時よりも綺麗に見えた。
防壁に守られた街、中央を貫く大通り、人で賑わう中央広場や屋台広場、学校も見える。
ボスコの街を眺めていたアリーチェにシルフが話しかけた。
「素敵な街ですよね」
「そうね、生活してるとどんどん愛着が湧いてくるわね。お友だちも居るしボスコの街が好きになってきたかな。嫌な人も居るけどね」
高い上空で頬に風を感じながらボスコの街を見つめているアリーチェに、シルフが微笑む。
「そろろ参りましょうか」
「そうね、みんなの為にもね」
アリーチェとシルフは、風を切って東へ向かって飛んで行った。
* * * * *
ワイバーンの群れが居る森の手前まで飛んできたアリーチェ。
馬車で1日かかる距離も、飛ぶとそれ程時間はかからなかった。
「確かに大きめの魔力が幾つもいるわね1,2,3………6と大きいのがリーダーで7つ…………んっ?もう一つ大きいのがあって8?…あと小さいので9??………どう言う事?降りてこっそり近づきましょう」
ワイバーンがいる森の端に降りた2人。
ワイバーン出現のおかげか、街道は誰もいないし、森に魔物の魔力もほとんど感じなかった。
「アリーチェさん、こっそり近づくのでしたら、シドが適任ですよ」
「そうなの?」
「ええ、シドに聞いた方が早いと思いますが、影に潜んだり、影を囮にして誤魔化したりとか、まあコソコソするのが得意なんですよ」
「ははっ、今までは正々堂々と戦う所しか見たこと無いから知らなかったわ。有難うシルフ、じゃあシドと行ってみるわ」
「ではお気をつけて」
そう言ってシルフは光りの粒子と共に消えていった。そして無造作にシドを呼び出すアリーチェ。
「シド~!一緒にお願い~!」
すぐに目の前に、執事の格好でひざまずくシドが現れた。
「姫様、お呼び頂き有難う御座います」
「あっ、今日は街中用の執事の格好じゃなくていいのよ?」
「最近はずっとこの格好でしたので、この方がしっくりくるようになりました」
「そう、シドが気に入ってるのならいいわ。それでワイバーンの近くまでこっそり行きたいんだけど、シドが得意っ聞いたわ」
「はい、私が使える暗黒属性は闇に隠れ姿を見せずに敵を倒す事や、敵の視力を奪ったり弱体化させるのが得意なんです……イフリートには正々堂々と戦えとよく言われます」
「イフリートの事は気にしなくて大丈夫よ、拳で殴り合いたいだけのマゾだから。シドの方がとても助かってるから」
「有難きお言葉痛み入ります姫様」
シドは2つの魔法を説明してくれた。
『シャドーハイド』
中級
影に入って潜み、周りの様子を観察できる。
『ダークミスト』
中級
自分の周りに黒い魔素の霧を発生させて見つかり辛くさせる。
「この2つが今回お役に立つかと思います」
「分かったわ、ありがとう」
早速『シャドーハイド』で影の出入りを試してみてから『ダークミスト』をかけて、ワイバーンの群れに向かって歩き始めた。
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