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教会にとって巫女は異端じないの?


 全校生徒の前での神楽から1週間。


 学校に姉がいれば、あんた誰?的な事を言ってくるはずなので、いない事は分かった。

 しかし、ダニエラの所へ小花咲良についての問い合わせが貴族から殺到していて、無下にも出来ないようで丁寧に話しを聞いて丁重にお断りすると言う作業が続いていた。

 アリーチェは申し訳なくてダニエラの所に顔が出し辛くなっていた。


 学校内の雰囲気も変わり、1年生の教室近くでは今まで見かけなかった上級生を頻繁に見かけるようになった。


 ………アリーチェは知らない人とよく目が合うようになり、恥ずかしさで俯いて歩くようになってしまった。


 しかし上級生にとっては俯いて控えめなのもまたぐっとくるようで、益々1年生の教室近くでの上級生が増えていった。


 ダニエラさんによって小花咲良公式ファンクラブも設立された。

 第1号はダニエラさんだ、そして学校内の生徒と先生の全員が加入していた。



 小花咲良として目立ち過ぎたのか、教会の司祭から声がかかってしまった。


 アリーチェは事情を聞く為に商人ギルドのダニエラの所に来た。


「で、なんで司祭様が?」


「それがですね、踊りで神様を招くと言う事に関して、難癖を付けてきてまして………、聖職者は神の加護を得る為に一生涯努力する訳ですから、”踊りなんかで呼び出すなど無礼にも程がある!”だそうです」


「むぅ~なるほど………分からなくもないけど」


(実際、お爺ちゃんが降りてきて転生する羽目になったんだけど………)


「それで1度見せてみろと言ってきまして……」


「おっそうなんだ、いきなり極刑だとかじゃなくて良かったけど、無礼な舞いを見たいの?」


「はいその様です。たぶんアリーチェ様の踊りの事は学校に派遣で来ている助祭のルイーザ先生から聞いたんだと思います。ここからは私の予想ですが、司祭様は極刑だなんだとなったと思いますがルイーザさんが止めたんだと思います。なにせルイーザさんはファンクラブ会員ナンバー3番で、アリーチェ様の熱心なファンですので…………ちなみに2番はステラ校長です」


「…………なる程、密かにルイーザ先生に助けられているのか………だいぶ上から目線の人だったと思うけど、それとなくお礼を言っておくかな」


「あっ、私の予想なので本当に味方をしてくれたかは分かりませんので、お礼は必要無いかと」


「それもそうか、分かったわ。とにかく司祭様の前でやればいいのね?」


「はい、お手数をおかけします。司祭様には商人ギルドから正式に有料である事を伝えてありますので、公演とお考え下さい」


「有料?すっ凄いわねダニエラさん、司祭様相手に……」


「ええ、司祭様だろうと商売ですから。この前、全校生徒の前でやったのも、学校から公演料を頂いております」


「マジで?さすがダニエラさん」


「手数料を引いて小花咲良様の口座に振り込まれておりますのでご安心下さい」


 いつの間にか小花咲良としてデビューして、芸能活動が始まっていた。





 数日後。


 貴族街噴水広場にある教会に来たアリーチェとルカとダニエラとピエロとローラ。 

 なぜピエロとローラが一緒にいるのかと言うと、ここに来る前にローラに巫女装束を手直ししてもらった時に、見てみたいと言うので一緒に来る事になったのだ。

 人数が多いと思うが、芸能人には取り巻きがいるしローラさんは衣装係だからスタッフだ。


 平民街の中央広場にも教会はあるが、貴族街の教会に呼び出された。

 教会の建物は平民街のに比べてこじんまりとしているが、建物から床や装飾全て大理石で出来ていて桁違いの建設費がかかってそうだった。


 教会の受付で司祭様に呼ばれて来た事を告げると、助祭のルイーザさんが案内役として来てくれた。


「助祭のルイーザです。ようこそおいで下さいました。ここでは小花このはな様と呼ばせて頂きます。小花様とダニエラ様だけ司祭様の元に御案内致しますので、他の方は礼拝堂でお待ち下さい。小花様ダニエラ様ではこちらに」


 笑顔でよどみなく挨拶をした後、司祭様の所に案内してくれた。



 ルイーザさんがドアをノックする。


小花このはな様とダニエラ様がお見えです」


 中から男の声がした。


「通せ」


 ルイーザさんの案内で中に入る。


「失礼します」


 お辞儀をして部屋に入るアリーチェ。


 部屋の中はとっても豪華だった。絨毯も調度品も、そんなに詳しくないアリーチェから見ても高価なのが分かった。司祭の後ろの窓際にアリーチェの作ったぬいぐるみが飾ってあった……


(………高級品なのか?)


 仕事中だったのだろう、執務机に向かっていた司祭が顔を上げてアリーチェに視線を向ける。


「んっ?何処かで見た顔だな………お前は確か……………ゼロゼロの娘じゃないか!珍しいから覚えておるぞ、残念な娘だよな」


「残念って……………あっそう」


 速攻で不機嫌になるアリーチェ。


 アリーチェの不機嫌さを見てとってダニエラが間に入る。


「失礼します。ボニート司祭様。商人ギルドのダニエラです。この度は公演依頼をありがとうございます」


「ああダニエラか。まさかこんな形で小花咲良に会えるとはな…………そうかその娘か」


「ええ、これも小花様が活動を始められ、必要と判断されたからです。そうでなければお会いさせるつもりはありませんでした」


「そうか、改めて挨拶しよう、私が司祭のボニート・コルンバーノだ。人形の製作者に会わせて欲しいと散々お願いして、ダニエラに断られ続けたが、まさかゼロゼロだったとはな」


 お人形は小花咲良の名前でオークションに出品しているし、こんな名前が他にいるはずがない。

 踊りじゃなくお人形目的だった。

 ただアリーチェは、ダニエラが領主や貴族だけでなく司祭からも守ってくれていた事を知って今まで以上に有難うが溢れてきた。

 アリーチェがダニエラを見つめていると、やさしく微笑んでくれた。


 話しの内容を理解出来なかったルイーザが疑問を口にする。


「人形ですか?」


「んっ?そっかルイーザは知らないか。今貴族の間で大人気でな、その窓際に飾ってある人形だよ、製作者を商人ギルドが隠すから謎の人物だったんだ…………それが小花咲良(このはなさくら)さんだ。踊りには興味が無いが、ルイーザから名前を聞いて驚いたし、まさか会えるとも思って無かったよ」


 はっきりと踊りに興味が無いと言ったボニート司祭にダニエラが1歩近づいた。


「司祭様、本日は小花咲良の公演として参りましたので、ぬいぐるみ等の交渉でしたら引き上げさせてもらいます」


「あっすまん、気をつけるよ。会えただけでも満足だからな。じゃあ一応踊りを見せてもらおうかな」


 踊りに興味のない司祭に顔をしかめつつもルイーザが案内の為にみんなに声をかける。


「では、礼拝堂の祭壇の前に場所を用意してありますのでこちらへどうぞ」


 祭壇の前と聞いて驚くダニエラ。


「祭壇の前ですか?その様な神聖な場所で大丈夫てすか?」


「あ~大丈夫だ、今は教会の入り口を閉めて一般の者も居ないから…………まぁ、ルイーザが祭壇の前以外はあり得ないと譲らなかったからなんだが……」


(ルイーザ先生の気持ちは分かったけど、教会の祭壇前で巫女が舞を披露して大丈夫なのかな………宗教が違うし異端なんじゃ…………)




 アリーチェの心配をよそに礼拝堂の祭壇前に案内されるアリーチェ。

 ルカとピエロとローラがすでに居て、祭壇前の椅子が幾つかどけられて舞いをする場所が出来あがっていた。


 ボニート司祭は礼拝堂にいるピエロを見て驚いた。

 前に平民街の教会で見た人物だったのだ。

 ボニート司祭は、神の加護を受けている教皇様が神様に祈る時に一緒にいた事があり、神様をとても近くに感じた事があった。

 その時と同じ感覚を感じた時に礼拝堂にいたのがピエロだったのだ。横にアリーチェも居たのだがボニート司祭には見えていなかった。


 司祭はピエロを最前列の椅子に案内した。

 ピエロも回りの人たちも疑問でいっぱいになったが、断る事など出来る筈もなく素直に従った。


 教会を閉めて人よけまでしてるのを気にして、アリーチェは急いで準備をした。


 まだ準備中で時間がありそうだったので、司祭はピエロに話しかけた。


「あなたはどういった方ですか?」


 司祭に話しかけられて恐縮するピエロは、隣のローラの手を握りる。


「はっはい、司祭様、私はピエロと申します。Dランクになったばかりの冒険者です。アリー………小花さんにはお世話になってばかりなので、手伝える事が無いかと一緒に参りました」


 お世話になってばかりと言う所でローラの手を握り締めるピエロ。


「Dランク冒険者ですか…………」


 司祭は深読みしていった。


(まだDランク冒険者なのか、近いうちに必ず神の加護が与えられるだろう。そうなればSランク間違いなしだ……ふふふっ私はついている)


「そうですか、何かお困りの事があったらいつでも私の所にいらして下さい。できる限りお助け致しましょう。ふふふっ」


 ピエロとローラはとても優しいボニート司祭が怖かった。


「はっはい、ありがとうございます………」



 準備も整い、祭壇の前に立つアリーチェ。


 観客も席についてみんなの準備が出来たのを確認してから、祭壇に向かって神楽鈴と扇をかざしていつものポーズをとった。


 まばたきすらもせず微動だにしないアリーチェ。


 静かな礼拝堂…


 外の喧騒が遠くに聞こえる…


 巫女装束のアリーチェに、ステンドグラスを透した色鮮やかな陽の光りが射して、神々しい雰囲気に包まれる礼拝堂。


 長い静寂の後に、笛の演奏が始まった。


 ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~♪


 シャン♪


 その場を清めるように清々しく響き渡る神楽鈴の音。


 そして神楽の舞が始まった。


 優雅で気品あふれる舞。


 司祭も含めて観る者全てが魅入っていた。


 神降ろしの舞がおわり、神楽鈴と扇を剣に持ち替える動作の時になって、司祭は礼拝堂の空気の異常さに気づいた。


 それは教皇様が神様に祈っている時よりも異常で、神様を近くに感じていた。


(どういう事だ、神降ろしとはまるで本当に…………小花咲良とはいったい……)


 (つるぎ)の舞が始まる。

 優雅でとても美しく洗練されていた。

 誰もが魅入り心が洗われていく様だった。



 全ての舞いが終わり、神様が遠ざかっていくのを感じながら、ボニート司祭は涙を(こら)えていた。

 ボニート司祭は感動しつつも訳が分からなかった。


(私や教皇様がお祈りしてもこれほど神を近くに感じた事はない…………何なんだ。やはりこの場にこのDランク冒険者が居るからなのか………きっとそうだ、そうに違いない)


 ピエロが居るからだと自分なりの結論を出したボニート司祭。


「小花咲良さんお疲れさま。それとピエロさんもありがとうね。いいものを見せてもらったよ」


 ピエロは何故自分がお礼を言われたのか分からず、益々笑顔の司祭が怖くなった。


 アリーチェはボニート司祭と関わりたくなくて、お辞儀をして急いで舞台を降りた。

 ボニート司祭がアリーチェをゼロゼロと勘違いしてくれた事には感謝している。

 おかげで色々と隠せているし魔法科にも通えているのだ。

 でもやっぱり貴族と関わらないに超したことはない。


 そんなアリーチェの思いとは裏腹に、ボニート司祭は笑顔で手を振っていた。




 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。


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