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巫女が好評でなにより!


 神楽を披露した次の日。


 生徒たち全員のアリーチェを見る目が変わっていた。


 まだアリーチェと課外授業に出ていない生徒たちの中には、まだ平民だとか属性の才能が無いとかでさげすむ様な感じが残っていたのだがもはやそれも無くなり、尊敬や憧れの眼差しになっていた。


 ごく少数の女子生徒たちからは何故かアリーチェ様と呼ばれた………。

 アリーチェが友達なんだから様なんて無しでとお願いしてもうるうるした瞳で両手を胸の前で祈る様に組んだままだった。


「大丈夫です、アリーチェ様はアリーチェ様ですから」


 神楽を気に入ってくれたからだろうとは思うが、もう諦めるしかなさそうだった。


 あの服は何処に売ってるのか聞かれたが、量産出来る物ではないし、みんなが巫女装束になったら姉を見つけづらくなるので売り物ではない事を伝えて丁重に謝った。




 コズモやヨランダ以外の1年生PTとも、アリーチェが何度か一緒に課外授業をすると、連携も上手くなり魔物1体であれば危なげなく勝てるようになっていった。


 みんなアリーチェに一切逆らう事は無く、アリーチェを崇拝する視線を向ける者すら居た。


(なんかアリーチェがみんなを手なずけてるみたいなこの状況をみんなの親に知られたら、誤解されそうでマズいんじゃないかしら)


 アリーチェの心配事が増えた。





 ステラ先生にお願いしていた、魔法科と普通科の全校生徒への神楽の披露もめどが立った。


 お爺ちゃんが、お姉ちゃんに魔法の才能を与えてくれて無かった場合は普通科にお姉ちゃんがいる事になるし、無いとは思うが時期がずれていたら違う学年になるから念の為にやっておこうと考えたのだ。


 ステラ先生は学校の予定を組み変えて、数日後の月曜日の午前中に決めてくれた。


 アリーチェは放課後では無く、授業中に予定が組まれた事に少し驚いたが、ささっと普通科に行って生徒の前で踊って終わりにするつもりだったので、この時はそれ程気にしなかった。





 普通科で神楽を披露する前日の日曜日。

 アリーチェは、ラダック村特産品店を手伝いに来ていた。


「店内がスッキリしたと言うか、なんか商品が少なくなった?」


 ニッチェさんが答えてくれた。


「そうなのよアリーチェちゃん、予想以上に売れ行きが良くて在庫が足りなくなりそうだから、1日に出す商品の数も今までよりも少なくしてるのよ。もうすぐ夏だからみんなでラダック村に戻るでしょ?その時にまた編み物を受け取れるから、それまでもたせないとね」


 そこに店の奥から、荷物の箱を持って懐かしい顔が出て来た。


「ニッチェさん、この荷物何処に置けば良いの?」


 懐かしい相手にアリーチェの表情はパッとほころんだ。


「カンツォ兄~!」


 アリーチェが村を出る1年前に会ったっきりだから、1年半ぶりだ。

 だいぶ男らしくなっていた。

 アリーチェがボスコに来てからも半年は過ぎている。別にアリーチェが忘れてた訳ではない………


 カンツォは、前より可愛く女の子っぽくなっているアリーチェの笑顔に恥ずかしいやら嬉しいやらで赤くなっていた。


 店の奥で久しぶりに2人で話しをした。


「元気そうだし、なんか男らしくなったね、ボスコに来たのに会いに行けなくてごめんね。街に来たら色々と忙しくて」


「僕も街の食堂に住み込みで修行させてもらいながら、学校に通ってて忙しいからさ。それに学校でも会わないから変だなとは思ってたけど、アリーチェは魔法科なんだってね…………おめでとう」


 少ししょんぼりするカンツォ。


「ありがと、クラスメイトがみんな貴族の子だから、面倒くさいのなんのって、まぁ最近は良くなってきたけどね」


「アリーチェも卒業したら貴族になるんだね………」


「んっ?アリーチェは貴族になんてならないわよ?やりたい事もあるしね」


「えっ?貴族にならないって魔法の才能があるのに?貴族になればいい生活が出来るんだよ?幸せな生活が出来るんだ」


「アリーチェにとって貴族の生活は幸せじゃ無いんもの。踊りとかやりたい事があるし」


「絶対貴族になるより踊りって………あっ!そういえば、今度学校で踊りを観るってなってたけど、1年生のなんとかさくらって奴が踊るって聞いたけど、普通科と魔法科の全校生徒の前で踊るって凄いね。普通科の校庭に魔法科の生徒も集まるからって念入りに掃除をさせられたよ」


「そうなんだ………ごめんね」


「なんとかさくらってののせいなんだからアリーチェが謝る必要なんてないよ。魔法科の先生たちも来るんだろ?緊張するよな」


「みんな優しい先生たちだから大丈夫よ」


「なに言ってるんだよ、先生たちは魔法の才能がある中でも優秀で凄い人たちなんだぞ?特にステラ・フランチェスカ校長先生は凄い人なんだ。ボスコのベスト7の1人と言われているんだ」


「えっ?なにそれ、知らないんだけど」


「まぁ街のみんなが勝手に言っているだけなんだけど、どこでも今のベスト7は誰だみたいなのがあって、ボスコのベスト7の一人に校長先生が入ってるんだよ。あと副校長先生も入ってる」


「へぇ~、ステラ先生とエンマ副校長先生って凄かったんだ」


「あと領主様や冒険者ギルド長とか、みんなLV40以上らしいから凄いよね、Aランクの魔物が現れても、この人たちが居れば大丈夫だよ」


「へぇ~、街の偉い人たちってみんな強いんだね」


「魔法の才能があって強いから偉くなるんだよ。貴族の子供たちは強くなるのが義務のみたいなもんだから大変だよな。アリーチェだって魔法の才能があるんだから偉くなるかもな」


「はははっ………」


 アリーチェは魔法が中心の世界である事を改めて感じだが、偉くなるのは勘弁して欲しいと願うのだった。




  *  *  *  *  *




 普通科の校庭で神楽を披露する当日。


 魔法科と普通科の敷地は繋がってはいるが、貴族街と平民街を分ける塀が間にあって、完全に分かれていた。


 滅多に開けられる事の無い、魔法科と普通科を行き来する為の門が開かれた。


 ステラ校長先生を先頭に、4年生、3年生、2年生、1年生の順で魔法科の全生徒が2列に並んで普通科の校庭に入ってきた。

 最後に巫女装束のアリーチェとルカと商人ギルドのダニエラさんが続いた。


 魔法科は1学年20名程度で4年制なので約80名だ。

 アリーチェたち1年生から見ても先頭の4年生は凛々しくて足取りも揃っていて頼もしい大人のお兄さんお姉さんに見えた。


 普通科にドームは無いが校庭は魔法科よりも広い。

 400メートルトラックがあり、その中に普通科の生徒たちが整列していた。


 普通科は2年制、1学年200名程度で総勢400名の生徒数だ。


 普通科の生徒たちは、普段魔法科の生徒たちを見る事は無かったので、羨望の眼差しで見つめていた。

 カンッオはとても緊張している様子で、変わった服を着ているのがアリーチェだと気づく余裕はなかった。


 校庭の中央には、高さ1メートルで神楽を舞うのに丁度良い四角い舞台が設置されていた。


 その舞台を囲む様に生徒たちが整列し終わると、ステラ先生が舞台に上がった。


 普通科生徒たちのステラ先生を見る目は輝いていた。

 カンツォ兄にステラ先生の凄さを聞いた後から、アリーチェも少し尊敬の眼差しで見る様になった。

 

「え~皆さん、急遽このような予定を組んだのは、情操教育として心が豊かになればと考えてです。今後の皆さんに良い影響があれば幸いです。ゆっくりと御覧になって下さいね」


 アリーチェは姉を探すためだったので心が痛んだ。


(そんな風に思ってくれてたなんて……申し訳ないわ。心を入れ変えてもっと頑張ります)


 その後ダニエラさんから、小花このはな咲良さくらさんは商人ギルドに登録してるから、何かあれば商人ギルドを通すようにとの注意事項が説明がなされた。



 舞台の横に待ってる間、やっと巫女装束のアリーチェに気が付いた生徒たちにじろじろ見られた。


 魔法科の上級生たちには、なんでこんな奴の為に時間を無駄にしなきゃいけないんだ的な目で見られた。

 特に4年生は課外授業で少しでも魔物を倒して卒業までにレベルを上げたいのだから気に入らない筈だ。


 そんな雰囲気の中、アリーチェは目を見開いて驚いてるカンツォ兄と目が合った。


 アリーチェは微笑んでウィンクをしておいた………




 ダニエラの話しが終わり、ステラ先生が踊りの説明をしてくれた。


「これは神様に捧げる踊りだそうです。始めが神様をお迎えする為の神降ろし。次が神様に捧げる踊りで剣の舞です」


 そう言ってステラ先生は舞台を下りた。





 アリーチェは気持ちを落ち着けてから、ゆっくりと階段を上がって舞台の中央に進む。


 巫女装束に身を包んだアリーチェは、神楽鈴と扇を持つ手を前にまっすぐ伸ばして、姿勢も視線も動かさずに笛の演奏を待った。


 咲良の(かも)し出すおごそかな雰囲気に、会場は静まり返っていた。

 心地よい緩やかな風になびく黒髪、揺れる巫女装束。


 舞台の端に座っていたルカが笛を吹き始める。


 ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~♪


 併せるようにアリーチェが鈴を振る………


 シャン♪


 舞台と全生徒が清らかな音色に包まれて、止まっていた時間が動き出した。


 


 神降ろし………剣の舞が終わり、正面に向かってアリーチェがお辞儀をした。



 全生徒アリーチェを見つめたままだった。


 ステラが最初に拍手をした。

 他の生徒たちが終わった事に気づくと次々と拍手が起こり、割れんばかりの拍手となっていった。




 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。


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