巫女装束で踊ってみた!
アリーチェは夜のベッドで考え事をしていた。
マルティーナPTやコズモPT、ヨランダPTに戦い方を教えただけなのに、なぜ注目が集まってしまっているのだろう。
学校で一般常識を学んでいるのにまだ常識がずれているのだろうか、別に戦い方はウィスプに教わっただけだし魔法は精霊たちに教わっただけだ………能力の数値化はルナの魔法のお陰なだけで…………おおっ!全部精霊かっ!!
気をつけないといけない。
貴族に目を付けられると囚われたり最悪命までも危ない、生徒はみんな貴族の子供なんだから特にだ。
お姉ちゃんを探すどころではなくなっちゃう。
アリーチェの異常さがばれる前に、身を守る強さを身につけてお姉ちゃんを見つけなければいけないのだ。
お姉ちゃんはアリーチェと同じタイミングで転生したから多分同じ歳のはずだ。
そしてお爺ちゃんはきっと、お姉ちゃんに魔法の才能を与えてくれていると思うから、この地域ならボスコ学校の魔法科の1年にいると思っていた。
お姉ちゃんは東大理学部の大学院生で頭の回転が早い、いわゆるリケジョだ。とっても頼りになる。
物事を論理的に考えて、アリーチェよりも生徒たちを上手くまとめると思う。
今までの感じでは、魔法科1年にはお姉ちゃんっぽい生徒は居なさそうだった。
聞いて確認する訳にもいかず、結局ハッキリした事は分からない。
前々からアリーチェは、小花咲良として巫女装束で神楽を舞えば、それを見た姉の方から来てくれる筈だと考えていた。
巫女装束も鈴も扇子も揃った。
お囃子に、和太鼓が無いのは残念だが、笛があってルカパパがだいぶ吹けるようになってきたのは良かった。
神楽舞の際に頭につけるカチューシャの様な髪飾りも自分で作り最低限は揃って披露しても大丈夫と思えるようになった。
日本に居た時の小花咲良そのままだ。お姉ちゃんなら絶対に分かる、姉妹一緒にこの世界に来ている事を。
神楽を生徒たちの前でやれるかどうか校長でもあるステラ先生に相談してみよう。
* * * * *
次の日の校長室。
ステラは戸惑っていた。
「踊りを生徒たちに見てもらいたい?アリーチェさんが踊るの?」
「はい、アリーチェの踊りを全校生徒たちが見てどう感じるのかを知りたいんです。将来踊りを仕事にしたいと考えてるのでお願いします」
「踊りを仕事に?演劇の様なものかしら……」
「ええ、みんなの感想を聞いて、それで今後の方向性を考えようかと思いまして………先ずは教室でクラスメイトに見てもらい、良ければその後に全校生徒に見てもらうと言うのはどうでしょうか」
「そうですか…………分かりました。アリーチェさんのお願いですから、可能かどうか学校としても前向きに検討させてもらうわ」
「あっ、ありがとうございます!」
アリーチェは商人ギルドのダニエラさんの所にも来ていた。
ブラウンの髪をアップにし紺のスーツの様な商人ギルドの制服を着た、出来る秘書の雰囲気のダニエラさん。
「そうですか、先ずは学校内でのお披露目ですか」
「学校側の許可がおりればそうしようと思ってるの………小花咲良としてね」
「………分かりました。その時は、商人ギルド代表として私も出席させて頂いても宜しいですか?小花咲良様には商人ギルドの後ろ盾があると示しておきたいので」
「その方がいいの?」
「ええ、貴族の子供たちですから親はアリーチェ様に接触して来ると思いますし、何をしてくるか分かりませんので」
「分かったわ、ステラ校長先生には伝えておくわ、ありがとう」
「いえお気になさらずに、アリーチェ様を守る為ですから当然です」
ダニエラは頼もしかった。
* * * * *
次の日にはステラ先生の返事が返ってきた。
「来週の火曜日、課外授業の無い日の放課後なんでどうかしら?」
「はいっ!やらせて頂きます、ありがとうございますっ!」
アリーチェは嬉しかった、実際に姉探しが始められるのだ。
そして神楽を披露する当日。
教室には1年の生徒たちの他に、ステラ校長先生とエンマ副校長先生、それと商人ギルドのダニエラもいた。
ダニエラが商人ギルドとしてみんなに説明をしていた。
「アリーチェ様は、小花咲良の名前で商人ギルドに登録しておりますので、何をするにも商人ギルドを通して頂くことになっております」
登録してるのは商人としてだが、アリーチェを守る為に交渉したい時もギルドを通せとはっきりと言っておくダニエラ。
この事は生徒を通して親にも伝わるからだ。
生徒たちからは、小花咲良って芸名?とか、もう商人ギルドに登録しているのかと感心する声があちこちから聞こえてきた。
マルティーナは驚きの表情で固まっていた。
(ちょっとまって、このはなさくらって私の持っているお人形さんの製作者の名前よね…………私と変わらない年の子だったなんて本当かしら………いえっ、わざわざ商人ギルドの人が来てるって事は本物ね……………………サインもらえるかしら)
ざわざわしていた教室のドアが開き、いつもの制服ではなく巫女装束を身に纏ったアリーチェが、ゆっくりとした歩みで入って来た。
教室は一瞬にして静まり返った………
アリーチェは白と赤が眩しい巫女装束だ。透ける程の生地で出来た白無地の上着をゆったりと羽織り白い足袋を履いている。
長い髪は白と赤ののし紙でまとめられ、頭にはカチューシャの様な金色の冠がキラキラと輝いていて、手には神楽鈴と扇を持っていた。
アリーチェは静まり返った教室を厳かにゆっくりと中央まで進み、正面を向いて一礼をした。
真っ直ぐ前を見据えながら、スッと両手を前に伸ばしてピタリと止まる。
右手には神楽鈴、左手には扇。
アリーチェのちょっとした動きにも、厳かさとそして優雅さを感じて息をのむ生徒たち。
いつの間にか教室の隅に座っていたルカが、笛を吹き始めた。
ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~♪
神楽鈴と扇を持ったまま止まっていたアリーチェが、笛の音に合わせて神楽鈴を一振り鳴らす。
シャン♪
鈴の音はその場の全てが清められる涼やかな響きだった。
ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~♪
シャン♪
アリーチェがゆっくりと前に伸ばしていた両腕を左右にいっぱいに広げる。
神楽鈴を持つ右手は斜め上に、扇を持つ左手は斜め下の位置で決まる。
笛と鈴の音は同じリズムで鳴り続けた。
ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~♪
シャン♪
両腕を斜めに広げたポーズだったアリーチェは、高く掲げている神楽鈴を見つめながら、優雅にゆっくりとその場で回り始めた。
鳴り響く鈴の音とアリーチェの舞で、教室内と生徒たちの心が清められていく様だ。
厳かな雰囲気の中、優雅な舞はいつの間にか終わっていた。
終わった事に気が付いた者もそうでない者も、アリーチェから目が離せなかった。
アリーチェは神楽鈴と扇を、入口に置いてあった剣に持ち替えた。
中央に歩み寄り、両腕を前に伸ばして、鞘に収まったままの剣を横向きに持ってかざして、視線さえも動かさず、呼吸さえもしていないかの様だった。
ピィ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~
また笛が鳴り始めると、止まっていた時間が動き出す。
伸ばした両腕を広げるように、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。
左手に持っている鞘は、隠すようにぐるっと左手で背中に回した。
右手の剣を円を描くように回してから、高々と掲げる。
もう一度円を描くように回してから、高々と剣を掲げる。
その後は、剣の型を練習しているかの様な動きだった。
それはとてもゆっくりで………とても美しかった。
優雅に舞うように剣を振るうアリーチェに見とれていた教室の人たちは、アリーチェが剣を鞘に収めお辞儀をしても、まだ終わったとは気づかなかった………
「いかがでしたか?」
アリーチェはみんなを見渡して微笑んだ。
最初の拍手ははぱらぱらだったが、徐々に増えて教室全体に鳴り響いた。
生徒たちは綺麗だったとか、かっこ良かったとか、みんな褒めてくれた。
小花咲良の名前について生徒たちは、変わった名前ねとか可愛くて良いと思うわとかその程度で、姉ならば名前の理由やあんた誰?的な事になってくると思うので、姉がいない事が確認できてよかったとアリーチェは思った。
マルティーナだけはキラキラした目でアリーチェを見つめていた。
ステラとは全校生徒の前で神楽を披露する話しを進めた。
神楽を初めて見たダニエラさんは、あとでこれからの事をじっくり話し合いましょうと不敵な笑みを浮かべていた。
こうして小花咲良としての活動は順調にスタートした。
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