クラスメイトとPTを?☆5
無事にスライムを倒したマルティーナPTは、森の外の集合場所に戻って来た。
「はい、マルティーナPTのみなさんお帰りなさい。これで全員揃ったわね」
ステラ先生が迎えてくれたが、先に帰ってきて休んでいたPTは、最後に帰ってきたマルティーナPTを小馬鹿にする様にニヤニヤと笑いながら見ていた。
マルティーナが悔しそうに呟く。
「私たちが最後……」
アリーチェがそれに答えた。
「別に早さを競ってる訳じゃないわ。たまたま魔物が近くにいれば早いだけだし、気にしなくて大丈夫よ」
「そうよね………ありがとうアリーチェ」
そう言ってマルティーナは少し微笑んでくれた。
「では、引率の先生からお弁当を受け取って、昼食にしましょう。」
お弁当が生徒に行き渡ると、改めてステラ先生が話し始めた。
「それじゃあ食事をしながらそれぞれのPTの戦い方の感想を、引率した先生に発表してもらいます。それを聞いて自分たちの参考にしてちょうだい。まずは私から話すわ」
ステラ先生が引率をしたコズモPTを見ると、得意げな表情をしたコズモに対して、メンバーは無表情だった。
PTの雰囲気はあまりよろしくないようだ。
「コズモ君のPTは、スライムを1体倒して1番最初にこの集合場所に戻って来ました」
得意げなコズモに、生徒たちから拍手が起こった。
ステラ先生は、拍手が鳴りやむのを待った。
「森に入ってスライムに遭遇すると、コズモ君は仲間に声をかける事もなく、直ぐに斬りかかり戦闘に入りました。コズモ君が何度か反撃をうけてダメージを受け、途中から火魔法の詠唱を始めますが、スライムの攻撃を受けて何度も詠唱を中断、盾役が間に入ってくれようとしてもコズモ君は無視して攻撃と詠唱中断を繰り返し、慌てて回復役が回復、スライムのターゲットが回復役に向かってしまい回復役が危なくなりますが、なんとか盾役が守りました。その後コズモ君の何度目かの攻撃がたまたま核に当たったから良かったものの、戦い方は酷いものでした。スライム相手に犠牲者が出る所でした…………暫くは魔物討伐の課外授業は無理でしょう」
生徒たちは静まりかえり、コズモは顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
コズモのPTメンバーは、フンッといった感じでそっぽを向いていた。
「では次はヨランダさんのPTに引率している、ルイーザ先生お願いします」
教会にお願いして、派遣してもらっている先生で、白に金の縁取りの教会のローブを着た、グレーの長い髪で教育ママの雰囲気の女性だ。
「分かりましたわ。では報告致します。遭遇した魔物はウッピーでした。始め盾役ではウッピーを捉えきれず、前衛3人で囲み少しずつ攻撃を当て、なんとか倒せました。ウッピーの攻撃をみんなで受ける事になり、盾役以外はかなりのダメージを受け、ヨランダさんが前線に出て全員に回復魔法を使う事になりました。ヨランダさんに攻撃が集中しましたが、なんとか盾役が守り切ってくれました。しかし今のままではヨランダさんが心配で一緒にPTを組ませられませんね………以上です」
また厳しい話しになって生徒たちは暗い雰囲気になっていった。
その後も残り2PTの報告がされたが、それまでと同じ様な厳しい内容でみんな俯いていた。
ステラ先生は生徒たちの暗い雰囲気に少し満足している様だった。
「じゃあ最後に、マルティーナPTに引率したエヴァン先生お願いします」
「はい分かりました」
マルティーナPTには、氷属性の盾役はいるが、攻撃の火属性も回復の聖属性もいない。
サポート役としての風・水・闇と、属性無しのアリーチェだけだから、どうせ倒せずに帰ってきたのだろうし聞く必要も無いとみんな思っていた。
そんな中、エヴァン先生はマルティーナPTの戦闘シーンを、語って聞かせた。
ブルーノがしっかり盾役を務め、ロジータの弱体魔法、マルティーナのいいタイミングでの回復魔法、テレーサの背後から止めの攻撃。
最後にエヴァン先生が感想を述べた。
「初めての戦闘とは思えないほど見事でした。Fランクの魔物なら負けることは無いでしょう」
流石に褒め過ぎだと思いつつも、マルティーナとPTメンバーは顔を赤らめてうつむいていた。
ステラ先生は感心していた。
「そうですか、話しを聞いていると確かに素晴らしいですね、私も見てみたいものです」
全然納得のいかないコズモが文句を言ってきた。
「ずるをして勝ったってダメに決まってるだろう!」
みんなは意味の分からない発言に呆気にとられていた。
幼なじみといえど、流石にマルティーナが言い返した。
「何聞いてたのよ!どう解釈したらそうなるのよっ!メンバーの事も考えず連携も出来ないあんたが何言ってるのよっ!」
「なんだとっ!みんな4人で戦ってるのに5人じゃないかよ、それがずるいって言ってんだよっ!」
「なっ、確かに5人だけど……」
戦闘したのは4人だが、アリーチェの指示も必要で、5人で戦ったと考えているマルティーナは悩みだした。
エヴァン先生が補足をしてくれた。
「マルティーナたちは4人PTで戦ってたし、属性からいったらみんなの方が恵まれてるんだよ?」
コズモは食い下がった。
「えっ……でもきっとこいつらずるしてるんだよ」
ステラ先生が間に入った。
「コズモ君、人の事より自分たちの事を考えた方がいいわよ」
コズモもそうだが、他の生徒たちも、自分たちが上手く出来なかった事を、マルティーナPTが出来たとは、まだ信じたくはなかった。
ステラ先生は悩んだ末に、ひとつ思いついた。
「それではマルティーナPT以外はこのまま休憩しててもらって、PTリーダーだけマルティーナPTに同行して、その戦い方を学んで下さい、私もついて行って見てみたいわ」
ステラも初めての戦闘で、そこまで上手く出来るとは信じきれていなかったので、単純に好奇心から自分の目で見てみたかったのだ。
食後の休憩中に、アリーチェはPTメンバーにスライム戦で思った事を伝えた。
「スライムとの戦闘でブルーノは、盾で攻撃を受け止めてても少しずつ衝撃でダメージを受けてたのは分かった?」
「そうなのか?いやっ確かに身体が重くなっていく感じはしたな………そうだったのか、分かった」
「マルティーナもその事は覚えておいて、回復のタイミングに関わるからね」
「分かった、気をつけておくわ」
「それと魔法の詠唱は最後の魔法名の前まで詠唱して止めておけるのよ?後はタイミングを見て魔法名を言うだけなの。集中を切らすとダメだけどね」
「「「「そうなんだ……」」」」
「魔法のタイミングが正確になるから、みんなやってみてね」
「「「「はいっ!」」」」
アリーチェへの信頼度が上がったからなのか、みんないい返事になっていた。
食後の休憩も終わり、マルティーナPTとエヴァン先生、他のPTリーダー4人とステラ先生の順番で森の中へと出発した。
少し進んだ所で道が二手に分かれていた。
先頭を行くブルーノが、後ろのみんなに聞いてくる。
「どっちでもいいか?」
アリーチェ以外は頷いた。
「アリーチェはなんとなく左に行ってみたいかな」
その言葉にみんなは、視線を合わせてから頷いた。
後ろを見ていたブルーノも頷いて、前に向き直って左の道に進もうとした時に、アリーチェが片手を上げて全員を止める。
「確認しておく事があります!」
PTメンバーが何事かと思いアリーチェを見る。
「えっとね、タヌッキーに遭遇した時の確認をしておこうと思います」
みんなは何で今?と思いつつも、アリーチェへの信頼は高いので視線を合わせてから頷いた。
マルティーナが返事をする。
「分かったわ、言ってちょうだい」
アリーチェも頷いてから話し始めた。
「うん、タヌッキーの攻撃はスライムよりも強力だから、攻撃を盾で防いでももっとダメージを受けると思うわ。でもブルーノはそれでいいのよ、盾で防いで剣で攻撃のスタイルは変わらないわ。マルティーナの回復魔法のタイミングを早めにするだけだから、ブルーノは仲間を信じてタヌッキーの攻撃を受け止め続けて」
「そっか………わかった」
「最初はマルティーナにも回復のタイミングは言うわ」
「分かったわ、お願いね」
「うん、それでテレーサは変わらないわ。がんがん攻撃してターゲットが向いたらブルーノの後ろに隠れるを続けて。心臓の位置に核があるけど、それを狙わずに真っ向勝負で戦う経験を積むわ」
「核を狙わずに斬りつけるのね、分かったわ」
「最後にロジータ、長期戦になるから最初の頃にかけるポイズンは大事よ。じわじわと長い時間ダメージを与えられるから。その後にパライズ。短時間だけど麻痺して動けなくなったらブルーノとテレーサでたこ殴りね、麻痺が解けるタイミングに気をつけてね、その後ロジータはブラインドね、そしてまたポイズンかしらね、きっと切れると思うから」
「ポイズン、パライズ、ブラインドね、分かったわ、MP足りるかしら……」
「ロジータのMPは丁度だから大丈夫よう。じゃあ確認しておく事はこんなとこよ、じゃあ進みましょうか」
マルティーナが疑問を口にする。
「まるでこれから戦うみたいな話し方ね」
「えっ………かっ確認よ確認、出来る時にしといた方がいいから。じゃあ進みましょう……ねっ……ねっ!」
みんなは少し微笑んで頷いてから、ブルーノを先頭に進むのを再開した。
ステラ先生や他のPTリーダーたちは、何だったのかよく分からないままついていった。
アリーチェは索敵で、左に行けばタヌッキーがいるのが分かっていた。
スライムよりも強いが、トリッキーな攻撃は無く盾役がしっかりしていて、全員が役目を果たせれば勝てる相手だと分かっていた。
PTメンバーにしっかり役目を果たす事の大切さを、経験させて起きたかったのだ。
そんなアリーチェたちに、全然納得のいかないコズモがボソッと文句を言ってきた。
「お前ら1番いなくていいやつの言う事をよく聞いてられるな」
流石にしつこすぎてステラ先生が怒った。
「うるさいわよコズモ君!PTでの役立たずはあなたでしょっ!誰の為の見学だと思ってるの!次にしゃべったら見学組は帰しますからね。黙ってなさい!」
ステラ先生激おこである。
びびって静かになるコズモだった。
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