エルノさんの娘!
アリーチェは貴族街のオークションから帰って来た夜に、病気を回復する魔法についてウィスプとルナに相談した。
いつも通りウィスプが説明し始める。
「聖属性でほとんどの病気が治せま………」
ルナがウィスプの説明にかぶせてきた。
「月属性ならば全ての病気が治せます!」
ウィスプの口元が引きつる。
「………聖属性だって全て治せますわ!」
「ほとんどって仰ってましたけどぉ~?」
「いっ言ってません!全てと言いました!アリーチェ様は私と話してますの、邪魔しないて下さらない?」
「私も呼ばれましたぁ~!私ともお話ししていますぅ~!」
「聖属性が多くの人の治療や回復で忙しいのをみんなご存じです。誰も知らない月属性は黙ってなさい!」
「ああ~~っ!月属性なんてなんてぇ~~!みんなに広まれば月属性の方が凄いんですぅ~!」
「フンッ、神様に怒られたくせに。必要ないですわ!」
「なぬうぅぅ~、月属性は治療で1度アリーチェ様のお役にたってますぅ~~!そちらさんはどうですかねぇ~、もしかして役立たずかしらぁ~?」
「何ですって!誰も知らない属性のくせに!こっちは教会もあって忙しいの!信者の居ないぼっち属性じゃない!引っ込んでなさい!」
「ぼっちだと~~!………たっ確かにぼっちだけど………ぼっちじゃないもん」
アリーチェは聖属性と月属性が仲が悪いとは知らなかった。
全く話しを聞く事が出来なかった。
「は~いそこまで~。2人ともありがとうね。病気の女の子の相談だったんだけど、その子に会ってからにするわね」
「アリーチェ様に気を使わせるなんて、ほっんと子供ね!」
「はぁ~、Sな年増は面倒くさいなぁ~」
「何ですって!」
「なにさっ!」
「「フンッ!」」
嫌悪な二人は、それぞれ背を向けて椅子に座っていた。
別れ際にルナが魔法を教えてくれた。
「アリーチェ様、相手にお会いするのでしたら、『メディカルチェック』と言う魔法を是非ともお試し下さい。サーチの上級版で多くの情報がお分かりになるはずです」
「フンッ、それくらい聖属性にだって………」
「残念でしたぁ~~聖属性に出来ないのは知ってますぅ~~」
「なによぼっちのくせにっ!」
「なにさ年増っ!」
仲が悪そうに見えるが、喧嘩が楽しそうに見えた。
* * * * *
次の日。
アリーチェはローラと一緒にエルノの家を訪ねた。護衛の付き添いはイフリートだけにしてもらった。ウィスプとルナが来ようとしたが、丁重にお断りした。行った先で絶対揉めるから。
エルノの店は屋台広場に面していた。
店内には家具や日用品など、いろいろな木材製品が並んでいる。
アリーチェとローラが、店の奥に向かって声をかける。
「「こんにちは~」」
ドタドタとエルノが出て来た。
「やあ、よくいらっしゃいました。散らかってますが、中へどうぞ」
「「お邪魔しま~す」」
2人が中に入って行くと部屋のベッドには、アリーチェよりも2、3才若い痩せて弱々しい女の子が横になっていた。
「初めまして、わたしアリーチェです」
「ローラです」
「ゴホッゴホッ…わたしモリナ…ベッドの上でゴメンね」
「こっちこそ、初めてなのに押しかけてゴメンね………初めての挨拶でお互い謝ってて、可笑しいね」
「ゴホッ、フフッ、そうかも」
「アリーチェこの街に来たばっかりで、まだ知らない事が多いから色々と教えてねモリナちゃん」
「うんいいよ、アリーチェお姉ちゃん」
アリーチェは色々と話しながらも、ルナに教えてもらったメディカルチェックの魔法をかけていた。
名前 ーモリナ
年 ー6才
LV ー1
HP ー6/12
MP ーーー
魔法属性ーーー
魔法耐性ーーー
筋力 ー6/12
敏捷力 ー6/12
知力 ー80
精神力 ー20/100
器用さ ー6/12
耐性 ーーー
状態異常ーインフルエンザウイルス
スキル ー木工細工見習い
精霊契約ーーー
神の加護ーーー
(ほぉ~かなり細かく分かるのね………病気で体力とか色々と減ってるのかぁ…………ってか原因分かっちゃった。インフルエンザねぇ、この世界にもあるんだ。木工細工のスキル?魔法以外の才能も分かるのか。お父さんからの遺伝かな?)
アリーチェは感染確認の為に、エルノもメディカルチェックの魔法で確認した。
(エルノさんにもインフル移ってるわ。でもまだ発症してないから、モリナちゃんだけちょこっと『ヒール』!っと、それとちょこっと『キュア』!これで様子をみよう)
モリナの顔色が少しだけよくなった。
「あっ…なんかアリーチェちゃんとお話ししてたら、身体が楽になった気がするわ」
「きっと気が紛れたのよ、病は気からって言うしね。今日はこれで帰るけどまた明日遊びに来るわね。またねモリナちゃん」
「うんありがとう、アリーチェお姉ちゃん」
少し顔色がよくなった笑顔で見送るモリナだった。
* * * * *
アリーチェは帰り途中に、森の泉孤児院によって、カップスープを3人分買って帰った。明日モリナちゃんとエルノさんに栄養のある物を食べてもらう為だ。
夜、アパートのリビングでお人形を編みながら、ウィスプとルナに話しを聞いていた。
アリーチェは一人ずつ話そうとしたのだが、なぜか二人揃ってるのだ。
ウィスプが色々と教えてくれた。
「風邪で弱った身体を少しだけ回復してあげて、病気が治るのを待つ事になります。通常は定期的に教会に来て少しの回復魔法を受けて、徐々に症状が軽くなり治ってきます。そうする事によって病気への抗体が出来て強い身体になっていくのです」
「は~っはっはっ!聖属性はその程度ですか!今こそ月属性の出番ですアリーチェ様!医術に特化している月属性なら、根本から治せます!悪さをしてるウィルスや細菌だけを魔法で排除するのです!すぐに治せますよアリーチェ様!月属性最高!どぉ~ですかぁ~!」
「………じゃあとりあえず教えてもらってもいいかな?」
「もちのろんでございますアリーチェ様!悪さをするウィルスや細菌の除去は、『メディカルクリーン』です。しかしその後の回復は食事です」
「『ヒール』とかはしないの?」
「はい、『ヒール』などで回復しますと、身体がウィルスと闘っていた事が無かった事になってしまい、次回この病気にかかった時にあっさり負けてしまいますので」
「あらっ?聖属性と一緒ですね………真似っこですか」
「はあ~っ!月属性が先で、真似っこはそっちじゃあ~~!!」
(仲良しは放っておいてと、『ヒール』をかけると、ウィルスに対する抗体が出来ないって事なのか………なんとなく理解は出来るわね)
「ありがとう、分かったわ。その魔法で部屋のウィルスも除去出来るかしら?」
「はい少し魔力が必要になりますが、部屋全体をイメージして頂ければ出来ます」
アリーチェは、インフルエンザが流行り出してる可能性も心配していた。
「………じゃあこの街の半分とかはどうかしら?」
「うむぅ~~街半分ですか………かなりの魔力が必要になり、さすがのアリーチェ様でも難しいかと………!!!」
いきなり1歩離れて土下座するルナ。
「大変申し訳ありませんでしたっ!アリーチェ様の力を疑う様な発言!平に平にご容赦を!私はどうなっても構いませんので神様へのお怒りはどうかお納め下さい!」
「………えっと怒ってないわよ?色々と教えてもらってるんだし感謝してるわ。気にしないでね」
「あっ有難き幸せ!これからは心を入れ替えてアリーチェ様の為に!誠心誠意!尽力致す所存に御座います!」
(かっ、堅い………)
「うん、もっと気楽でいいからよろしくね」
「御意!」
アリーチェは何を言っても無駄だと諦めた。
* * * * *
次の日、アリーチェはモリナの所に行った。
モリナの様子を見ると、やはり昨日来た時と同じように具合がわるそうだった。
『ヒール』と『キュア』ではやはり元に戻ってしまうようだ。
「モリナちゃんは何か好きな事はあるの?」
「ゴホッ!、ん~お仕事してるお父さんを見てるのは好きかな」
「そうなんだ、お父さんのお仕事が好きなんだ」
「うん!お父さんも好きだし、木が色々な物に変わって行くのも見てて楽しいの…ゴホッ!ゴホッ!」
「木工細工が好きなんだね」
「ゴホッ!うん、木の香りも好きかも。あと今はお人形も好きかな………ゴホッ」
「あっそうだ!実はモリナちゃんにプレゼントがあるの」
アリーチェはそう言ってが持ってきていたリュックの中を探る。
「えっプレゼント?」
そしてアリーチェは、リュックから昨日編み上がったお人形を出した。
「これなんだけど、受け取ってくれるかな?」
「うわぁ~!お人形さんだ~!とっても欲しかったの~。もらってもいいの?貴族の子が持ってるのしか見た事無いから………」
「アリーチェが作ったお人形さんだから大丈夫だよ、モリナちゃんがもらってくれたら嬉しいな。あと名前を付けてくれるとお人形さんも喜ぶと思うよ」
「わぁ~ありがと~アリーチェお姉ちゃん。じゃあ名前は…………ココちゃんにするわ」
「可愛い名前ね、お人形さんも喜ぶと思うわ。あとこのお人形さんはね、ラダック村にある神様の泉で清めてあるからお願い事したら叶えてくれるかもよ。モリナちゃんは何かお願いしたい事はある?」
「ん~っと、やっぱり元気になりたいな。元気な身体になって外で遊びたい」
「じゃあお人形にお願いしてみて」
「うん、分かった」
「ココちゃんココちゃん、どうかあたしの身体が元気になって、いっぱい遊べますように」
お願いしてからモリナはココちゃんを抱きしめた。
アリーチェはこの家全体をイメージしてルナに教わった『メディカルクリーン』の魔法を使った。
インフルエンザウイルスなど、悪いウイルスやばい菌を駆逐する魔法だ。
アリーチェはモリナを含めて家の中全体からウイルスを除去するつもりだったのだ。
家全体が微かな白い靄に包まれたかと思うとすぐに消えた。
「あれっ?」
モリナは一瞬白い靄が見えた気がして目をこする。
「別に変わってないか。んっ?なんだか身体が軽くなって気持ちがスッキリしてきた。まさかココちゃんのお陰?」
「ふふっ、そうかもよ」
グゥ~~!
モリナのお腹が鳴った。
「あらっ、モリナちゃんお腹が減った?」
「えっ、えっと………うん」
「いい食べ物を持ってきたの。一緒に食べましょうね」
すぐにアリーチェは、カップスープをモリナに渡した。
「うわぁ!あったか~い、おいしそうな匂い~」
アリーチェは、自分の分のスプーンも出して一緒に食べた。
「んん~~っ!おいし~~!」
モリナのほっぺはほんのり赤くなった。
「ゆっくり食べてね」
お店の方から父エルノがやって来た。
「なんかモリナの元気な声がすると思ったら……」
ベッドの上でカップスープを美味しそうに食べているモリナを見つけ、その横に置いてあるお人形に驚くエルノ。
「えっその人形はどうしたんだい?」
「んっ?アリーチェお姉ちゃんがくれたの、プレゼントだって」
アリーチェはカップスープを出してエルノに渡しながら言う。
「アリーチェが編んだ人形だから大丈夫よ。それよりエルノさん、森の泉孤児院で売ってるスープなんだけど、栄養もあって美味しいから食べてみて」
訳も分からずカップスープを受け取るエルノ。
家全体のついでにエルノのウイルスも除去したが、感染していた時に体力を奪われていたっぽいので、アリーチェは栄養補給の為にエルノにカップスープを渡した。
「あっ、えっと、どうも…………」
「お父さん、お人形さんの名前も決めたんだよ、ココちゃんって言うの!」
「そっそうか良かったな。アリーチェさん、こんな高価な物、本当にいいんですか?」
「うん、お人形は喜んでくれる子の所に居るのが1番だもの。そっか、絡んでくる人は減ったけど変な人は多いから家の中だけにした方がいいのかしらね」
アリーチェの言葉に、エルノはゆっくりと頷いた。
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