初めての貴族街とオークション!
アリーチェとダニエラとローラの3人は、貴族街に入る為の入口、貴族門の前に居た。
貴族門を守る兵士は、今までの街にいた兵士よりもいい装備を着ていた。
門番が3人に話しかける。
「こんにちは。ダニエラさんは通って大丈夫ですが、後ろの2人はどういった御用ですか?」
ダニエラさんが答えてくれた。
「こんにちはペリトさん、こちらはラダック村特産品店の商人と見習いよ、ラダック村の商品が出品されるからオークションがどういった物なのか見てみたいそうなの」
「へえ~、オークションの見学ですか」
2人のパスカードをチェックしながら、子供のアリーチェを訝しげに見る。
「問題は無いですね。見習いのお嬢ちゃん、くれぐれも貴族様に失礼の無いようにね」
門番のペリトは商人と見習いと聞いて、アリーチェを見習いと判断したようだ。
誰だってそう思うだろう、アリーチェはそんな勘違いをスルーした。
「はい分かりました。ありがとうございますペリトさん」
キチンとお辞儀をするアリーチェ。
「へぇ~、まだ小さいのにしっかりしてるんですね。これは失礼しました。通って大丈夫です。貴族様は気難しい人が多いから気をつけてね」
門番のペリトは気持ちよく通してくれた。
門を通り抜けると、そこは別世界だった。
白い石畳が敷き詰められた道路に、建物は全て二階建て以上。真っ白な建物の壁には様々な装飾が施されていて、統一感のあるとても素敵な街並みだった。
歩いてる人たちは高価な服の人しか居なかった。
「うわ~、とても綺麗な街並みね」
「貴族街から先は全て、建物も道も白い石造りです。普通の街はレンガ造りもあるのですが、領主のこだわりで、白い石以外を禁止してるんです」
「それで真っ白な街並みなんだね。掃除もきちんとされているし中々いいんじゃないかしら」
「街の掃除員もいますし、ゴミを散らかした者には厳しい罰則もあるのでお気をつけ下さい」
「徹底してるのね。きっと領主様はきれい好きでいらっしゃるのね」
歩きながら色々と話しをしていると、こじんまりとした円形の広場に出た。
真ん中に泉と噴水があり、周りの建物はみんな今まで以上に豪華だった。
「ここが噴水広場よ。周りにある建物は、ギルドの本部や色々なお店の本店があります。広場の先に見えるお城が領主の館です」
「へぇ~立派で綺麗なお城ですね」
「ええ、領主の見栄ですよ。王都から遠くて田舎街だと見下されたくないから綺麗にしているそうです。もっとお金をかけた方がいい所はいっぱいあるのに」
確かに必要かと問われれば、疑問に思う豪華さだった。
「では先ず、商人ギルドのギルド長に挨拶をお願いしても宜しいでしょうか?」
「会った方がいいの?」
「ええ、ラダック村の編み物や人形など今1番話題の商品を生み出したアリーチェ様には、ギルド長も大変そう興味を示されてましたし、アリーチェ様にとって味方はいくら居ても困らないですから」
「なる程そうね、ご挨拶は大事よね」
納得したアリーチェたちは、噴水広場に面した商人ギルドにやって来た。
中央広場のギルドよりも規模は小さめだが、外装や内装、随所にされた細かな彫刻など、今までよりとても豪華だった。
早速個室に案内されて、ソファーにおじさんと向かい合って座っていた。
「ギルド長のステファノ・グスターヴァだ」
高そうな服を着て、紫色のおしゃれなショートヘアー、少しだけヒゲをはやしたおじ様って漢字だ。
「アリーチェです」
「ローラです」
「ほう、このちっちゃい子供がそうなのか?」
ダニエラに聞いていたステファノだったが、小さな子供が今話題の中心人物だとはしんじられなかった。
「はい、まだ7才のアリーチェ様が全ての発案者です。それとステファノギルド長、ちっちゃい子供とは聞き捨てなりません。場合によっては名誉棄損で訴えますよ?」
ステファノは慌てた。
「お~すまんすまん、悪気は無かったんだよ、かなり驚いてしまってついな」
「謝罪するべきは私では無くアリーチェ様です。それに謝罪に誠意がこもってないですね。このような者と話す必要はございません。アリーチェ様、オークション会場に参りましょう」
「あっごめんっ!あっすまなかった、ごめんなさい、わたしが悪かったです、すいません、謝ります、ほんとごめんなさい」
土下座までしそうな様子にアリーチェがたまらず助け船をだした。
「いいのよ気にしてないわ、誰だって初めは信じられないもの」
「おおっありがとう。うん、そうだよね。流石凄い子は違うなぁ、気遣いも出来ちゃうんだから、ねえ、ダニエラ?」
かなり呆れているダニエラ。
「………まったく、アリーチェ様に免じて今回は許します。次からは気をつけて下さいね」
ステファノギルド長はホッとしていた。
「うん、今度から気をつけるよ。しかしアリーチェちゃん、7才で商人とは凄いなぁ。そして全てが大人気ときた。商人ギルドとしても全面的にバックアップさせてもらうから、何か困った事があったら何でもダニエラに言ってくれ。それがひいてはギルドの儲けになるからウインウインの関係だね」
「ありがとうございます。アリーチェはなにも知らないのでダニエラさんにはとても助けて頂いてお居ります。全てはダニエラさんのお陰と言っても過言ではないです。これからもよろしくお願いいたします」
軽く頭を下げるアリーチェ。
「こりゃまた7才とは思えない素晴らしさ。アリーチェちゃんは凄いな。そんなアリーチェちゃんに協力しない商人などいないよ。こちらこそお願い致します。厄介な貴族や商人も居るから、副ギルド長のダニエラによく聞いて気をつけてね。それじゃあ私はオークションの準備があるからこの辺で失礼するよ、またねアリーチェちゃん」
ギルド長は自分の言いたいことを言い終わると直ぐに部屋を出ていってしまった。
忙しそうでお金儲け最優先みたいだけど、悪い人には見えなかった。
アリーチェにはそれよりも気になる事があった。
「ダニエラさんって副ギルド長だったんですね。忙しい立場なのに本当すいません」
「気になさらなくて大丈夫ですよ、意外と暇ですから」
気づかって言ってくれているのだろうと思い、アリーチェは更に恐縮するのだった。
* * * * *
アリーチェの人形がオークションにかけられるのは後半なので、商人ギルドのカフェで軽食を食べてからオークション会場に向かった。
オークション会場の建物はギルドの裏手にあった。入口はこじんまりしているが、内装にはどこもかしこも手の混んだ装飾が施されていて、高級感が溢れていた。
エントランスを抜けて、更に奥の重厚な扉を開けると、階段状に椅子が並ぶ半円形のホールだった。オークション品を出す台が1番下のステージ上にあり、全ての席からよく見えた。
席は7割方埋まっていたが、後ろの方の席は空いていたので、ダニエラさんの案内で後ろの隅っこの席に座った。
ステージ上でオークションをとりまとめるオークショニアは、さっきダニエラさんに怒られていたステファノギルド長だった。
真面目な顔をしていると、渋い二枚目の頼れるおじ様に見えた。
「1万ターナ……1万5百ターナ………1万1千ターナ…………1万1千ターナ……落札です」
オークション中はみんな静かになり、終われば少しざわつく程度の落ち着いた雰囲気で過ごしやすかった。
「ちょっとオークションに参加する知り合いを呼んでくるわね」
そう言うとアリーチェは、エントランスの方に歩いて行って直ぐに戻ってきた。
アリーチェと一緒に会場に入ってきたのは、黒のロングドレスを着た黒髪の女性で、組んだ腕に乗っかっている大きな胸とスリットから見え隠れする色っぽい素足から妖艶な雰囲気が漂っていた。
「えっと、ダニエラさんとローラさん紹介するわ、こちら知り合いのラン姉です」
「初めましてダニエラです」
「ローラです」
「ランです、オークションのやり方をあまり存じ上げませんの、教えて頂くと助かりますわ、どうぞよろしくお願いしますね」
「えっと、ラン姉には色々と教わったりしてたまにお世話になるの」
「そうですか、アリーチェ様がお世話になっている方でしたら歓迎致します。オークションの事は、私がお教え致します」
席にはローラ、アリーチェ、ラン、ダニエラの順で座り、ランはダニエラからオークションのレクチャーを受けていた。
オークションが進むにつれ人が増えていき、アリーチェの人形の頃には、会場は立ち見の客まで居て超満員だった。
舞台上のオークショニアが話し始める。
「え~、それでは毎週恒例となりました、小花咲良様出品の人形のオークションを始めさせて頂きます。新しいデザインの可愛らしい人形となっております。1万ターナから始めさせて頂きます………ではどうぞ」
客席から金額の合図をする手が挙がる。
「5万ターナ………はい、10万ターナ……15万…20万…20万ターナ…………他ありませんか?」
1番前の席でシモーネの手が挙がる。
「はい、21万ターナ」
会場中央の席から手が挙がる。
「はい22万ターナ」
直ぐに1番前でシモーネの手が挙がる。
「はい23万ターナ」
アリーチェはこんにゃろ~と言う目でシモーネを睨んでいた。
「他にありませんか?中央の方宜しいですか?」
中央の席の人が悩んだ末に合図を送る。
「はい、24万ターナ」
「ダニエラさん、真ん中の席の人頑張ってるみたいだけど、誰だか分かる?」
「あれは確か、屋台広場で木材製品の修理店をしているエルノさんと言う方でしょうか………貴族でもありませんしオークションに参加する様な方ではなかったと思うのですが……」
「そうなんだ……どうしてもお人形が欲しいみたいね」
直ぐにシモーネの手が挙がる。
「はい25万ターナ」
中央の席の人はうなだれていた。
「………よろしいですか?他の方もよろしいですか?」
エルノが諦めたのを見て、アリーチェはランパスに目配せをする。
そしてランパスが手を挙げ、ダニエラに教わった上乗せする金額の合図を送る。
「おや、一番後ろの素敵な女性の方、26万ターナ」
一番前に座るシモーネの肩が動いて手が挙がる。
「はい、27万ターナ」
ランパスも直ぐに手を挙げる。
「おや、30万ターナ?」
ランパスは頷く。
「失礼しました。30万ターナです」
シモーネが後ろを振り返ろうとして辞めて、手を挙げる。
「はい、31万ターナ」
「はい、35万ターナ」
「はい、36万ターナ」
「はい、40万ターナ」
「はい、41万ターナ」
「はい、45万ターナ」
「はい、50万ターナ」
………………
二人のオークションは続き、金額はかなり上がっていった。
「はい………150万ターナ……」
一番前に座るシモーネは肩を震わせながらそれでも手を挙げた。相当怒っているのが分かった。
「はい………151万ターナ……」
ランパスは直ぐに手を挙げた。
「はい?………2………200万ターナ?出ました!200万ターナです!!」
シモーネが溜まらず立ち上がって後ろを振り向いた。
ランパスは気軽に手を振った。
顔を真っ赤にしたシモーネが拳を握り震えながら前を向いて座る。
「現在200万ターナです………このままですと後ろの女性に決まります………」
シモーネが歯を食いしばって手を挙げた。
「おおっ!201万ターナです」
アリーチェは満足したのかランパスを見て頷いた。
ランパスはオークショニアの方を見て両手を広げて降参のポーズをとった。
するとオークショニアのステファノギルド長は叫んだ。
「なんとなんと!300万ターナ!300万ターナ出ました!」
アリーチェもランパスも焦って立ち上がった。
取り消すつもりで二人がぶんぶん両手を振るが、オークショニアのステファノギルド長は、二人が応援しているのかと思いニヒルな笑顔を返すだけだった。
「さあどうですか、300万ターナ!流石に後ろの素敵な女性で決まりそうです」
赤かったシモーネの顔は目は虚ろで青くなり、汗もかいていた。
後ろの素敵な女性で極まっては困るアリーチェは、不本意ながら心の中でシモーネを応援した。
その甲斐あってか、シモーネが震える手をゆっくりと挙げた。
「おおおっ!301万ターナ!」
ホッとしたアリーチェとランパスはため息と共に椅子に座り込んだ。
「しかし1万ターナ上げただけの301万ターナです。さあ後ろの素敵なお嬢さんどうぞっ!」
ランパスは誤解されない為に座ったまま動かない事に決めたのだ。
ステファノギルド長は笑顔でランパスを見ていた。
「さあ後ろの素敵な女性の方、あなたの番です!後一押しであなたの勝ちでしょう、勝ち名乗りを上げさせて下さい!」
ステファノギルド長はテンションが上がりすぎてオークショニア失格だろう。ランパスは目を合わずに俯いていた。
「はいっどうぞ!素敵な女性の方!………はいっ!………はぃ…………はい?」
ランパスが動かない事でステファノギルド長は冷静になり、自分が調子に乗り過ぎていた事に思い至った。
「あ~ごほっごほん………え~、失礼しました。それでは301万ターナです…………はいでは前の席の番号札1番の方、301万ターナで落札です」
シモーネは放心状態で椅子に沈んでいた。
無事に役目を終えホッとしたランパスは、アリーチェたち3人に手を振りながら会場を出て行った。
横で見ていたダニエラとローラも、想定外の出来事にまだ立ち上がれずにいた………勿論アリーチェもである。
* * * * *
オークションが全て終わり外に出ると、会場の前には人だかりが出来ていた。
人垣の隙間から覗いて見ると、青い顔をしながらも偉そうにふんぞり返っているシモーネに、エルノがすがりついてお願いしていた。
全体話数の48話から67話辺り、第2章森に囲まれた街ボスコ編内のシモーネに関する話しを修正・変更致しました。
読み進んでいた方々には申し訳ありませんです。
2021,11/5(金) m(_ _)m




