オークションのお人形!
ラダック村特産品店のお手伝いをしたり、ローラさんと衣装の打合せをしたりしてたら、あっと言う間にオークションの日がやって来た。
商人ギルドでオークションの説明を聞くアリーチェ。
オークションでする事は特に無く、終わってから結果を聞きに来て入金を確認するだけでいいそうだ。
また夕方に来る事を告げて、商人ギルドを出た。
数日前だが、ラダック村特産品店をアリーチェが手伝っていると、買い物に来た冒険者ギルドの人気受付嬢のネムに会った。
冒険者ギルドの制服姿ではなく、サイドスリットの入ったカーキ色のワンピースを着て、ラダック村製の栗色の上着を羽織っていた。
とてもおしゃれだった。
後でニッチェさんに聞いたら、ネムさんは編み物をとても気に入って褒めてくれる常連さんだった。
アリーチェが考え出した事を伝えると、すごく感心していたそうだ。
アリーチェに優しい理由が分かった瞬間だった。
後日、編み物を買ってくれているお礼と、ギルドで助けてもらっているお礼を兼ねて、アリーチェはプレゼントを持って冒険者ギルドのネムに会いに行った。
冒険者ギルドに入ると、アリーチェに気が付いたネムが、いつも通り受付に並んでいる行列を待たしたまま、直ぐに来てくれた。
「今日はどうしたの?」
「ネムお姉ちゃんにプレゼントを渡しにきたの、気に入ってもらえるといいんだけど………」
「まあなにかしら」
しゃがんでアリーチェと顔の高さを合わせて微笑む優しいネム。
「これなの」
と言って渡したのが、冒険者ギルドの制服を着たネムそっくりの可愛らしいくて格好いい編み物のお人形だった。
「まあっ!貴族ですら手に入らないと言う今大人気のお人形さんじゃない!これはもしかして私?………素敵!」
満面の笑顔で喜ぶネム。
「でも流石にこんなに良い物をもらう訳にはいかないかな」
「いいの。ネムお姉ちゃんの為にアリーチェが編んだからもらって欲しいの」
ネムはアリーチェをジッと見つめる。
あの編み物とこの編み物の人形の発案者だ。
普通なら誰でも傲慢になってしまうのだが、アリーチェは違った。
ネムは優しさ溢れるアリーチェを抱きしめた。
「ありがとうアリーチェちゃん!大切にするわね」
受付に並んでいる冒険者たちはみんな、ネムの笑顔を見られてほんわかしていた。
(ネムお姉ちゃんのファンっていっぱいいるのね)
* * * * *
夕方に商人ギルドにやって来たアリーチェは、ダニエラと個室で話しをしていた。
「えっ?あのお人形がそんなに高く?」
アリーチェは目を見開いて驚いた。
「はい、オークションで30万ターナで落札されました。それと私がお伝えするのを忘れてまして、申し訳ございませんがオークションの手数料として10%を商人ギルドで頂戴する事となってまして………申し訳ありません」
「ううん、いいのよ。10%でいいの?安いのね。手数料はアリーチェも必要だと思ってたから気にしなくて大丈夫よ」
「そう言って頂けると助かります。ありがとう御座います」
ダニエラは、色々な商売の仕組みを分かっていそうなアリーチェに益々興味を持っていった。
「でも流石にあの人形に30万は高すぎよね。落札した人に申し訳ないわ」
(ぬいぐるみに30万円とは貴族恐るべし!)
「それは大丈夫ですよアリーチェ様。あのお人形はとても希少価値がありますから。競る相手次第ではもっと高値の付く商品ですから。今回も商人のシモーネが直々に落札してました。領主様へのご機嫌取りの為に今までアリーチェ様が出品されたお人形は全てシモーネが落札しているのですから、お気になさる必要はございません」
「うげっ!今までの全部シモーネが?………なんかだんだんイライラしてきたわ。シモーネだって分かってたら絶対売らないのに」
アリーチェはかなり怒っていた。
「そうだ!知り合いをオークションに参加させる為にはどうしたらいいの?」
「オークションに参加ですか?そうですね、1万ターナの参加費用をお支払い頂き登録すれば番号札が渡され、どなたでも参加出来ます」
「よし、じゃあ一人分お願い出来るかしら」
「………分かりました、登録番号札は後でお渡ししますね」
「ダニエラさんありがとう。それにしても領主様ってそんなにあの人形を気に入っているの?」
「はい、領主様もそうですが、一番気に入っておいでなのは領主の娘のマルティーナ様だそうです。咲良様と同い年だったと思いますよ」
「なる程、娘の為ね!納得かも」
ダニエラさんがB5くらいの、黒い石で出来たような板を机に出した。
「ではギルドカードに情報を書き込みますので、こちらの上に置いて頂けますか?」
「あっはい」
(ICカードのようなシステムかな)
アリーチェは黒い板の上にギルドカードを置いた。
すると、板の下側に現れた0の数字ががどんどん増えていって、270,000で止まった。
「はい、終了しました。手数料10%をお引きした残りの、27万ターナになります。ちなみにこの黒い板は魔道具を使ったシステムになります。お金を引き出す時はギルドカードとアリーチェ様の手をこの板の上に置いて頂く必要があります。アリーチェ様と確認出来ますとお金を下ろす事が出来ますので、カードを紛失したり盗まれたとしても、アリーチェ様以外がお金を引き出す事は出来ませんのでご安心下さい」
「へぇ~すごいシステムね!」
(魔道具ってけっこう便利なのね)
「ありがとう、これでなんとか買い物を出来そうだわ」
「何か欲しい物がおありなのですか?」
「うん、友達の為に冒険者の装備をちょっとね」
「お店の方に口利きを致しましょうか?」
「あっ大丈夫だと思うわ。冒険者の知り合いに聞いてみるし、いい装備じゃなくてLv1用の装備を揃えたいだけだから」
「そうですか、冒険者の方なら詳しいですね。良い装備はとても高価ですから、何か心配な事がありましたらいつでもご相談に乗りますので仰って下さいね。悪質なお店もございますのでお気つけ下さい」
「ダニエラさんありがとう。あとこれをお願い」
アリーチェはリュックから、編み上がった人形をテーブルの上に出した。
一瞬戸惑いつつもダニエラは落ち着いた声で話す。
「アリーチェ様これは………またオークションへの出品希望ですか?」
「うん、これからは毎週ひとつ編んでくるからお願いね」
「………畏まりました、大切にお預かり致します」
今後の売り上げを考えているのだろう、ダニエラの目がギラギラしていた。
* * * * *
夕方アパートに戻ると、マウロがPTメンバーを連れて、中庭で待っていた。
「ようアリーチェ、冒険者をやってもいいメンバーを集めたぜ、紹介する、サンドロだ」
少しぽっちゃりした男の子が挨拶を始めた。
「えっと、僕、サンドロです」
「こっちがアメディオだ」
背が小さくすばしっこそうな男の子だ。
「俺アメディオ、よろしくな」
「後はレベッカと俺で4人だな」
アリーチェはサーチ魔法で、PTメンバーのレベルを確認した。
マウロ (19)
Lv1 HP37
レベッカ・ベリザリオ(14)
Lv1 HP 21
サンドロ(14)
Lv1 HP26
アメディオ(14)
Lv1 HP26
(やっぱりみんなLv1なのね。レベルが一緒でも年齢や男女でHPが少し違うのか………まずは体力づくりをやって、それから剣術の練習ね)
「えっと、私がアリーチェです。よろしくお願いします。剣の練習をやった事がある人はいますか?」
マウロが代表して答えた。
「木の棒を使って遊んだ事はあるが、練習した事はないよな」
「「「………」」」
「じゃあ毎朝ここで練習をしましょう」
「「え~っ!練習~?」」
サンドロとアメディオから嫌そうな声が上がった。
「先生も呼ぶからね」
マウロが先生に反応する。
「へぇ~、その先生って強いのか?」
「みんなの後ろにいるわよ」
こっそり呼んでおいたシドがみんなの後ろに立っていた。
「「「「うわぁっ!!」」」」
みんなが驚いているが、気にせずに挨拶をするシド。
「初めまして、シドと申します、よろしくお願いします」
「いっいつの間に後ろに………さすが先生!よろしくお願いします!」
マウロはビシッとお辞儀をした。
それを見た他の3人もマウロに習った。
「「「よろしく………」」」
「うん、じゃあ明日の早朝にここ集合で。よろしくお願いね」
マウロは先生への興味でやる気を見せているが、他の3人はげんなりしていた。
全体話数の48話から67話辺り、第2章森に囲まれた街ボスコ編内のシモーネに関する話しを修正・変更致しました。
読み進んでいた方々には申し訳ありませんです。
2021,11/5(金) m(_ _)m




