ローラさんを訪ねて!
ルカとの朝食を済ませてから家を出たアリーチェは、シドと一緒に中央広場に向かった。
元々ローラさんがやってたお店を、その後ニッチェさんが借りると言ってので見に行ってみた。
もうラダック村特産品店の看板が出ていて、店内でニッチェとツェドゥンおばさんが準備をしていた。
アリーチェとシドに気づきニッチェが店のドアを開けてくれた。
「おはようアリーチェちゃんシドさん。まだ店内は改装中で営業はまだだけど、良い場所が見つかって良かったわ。ピエロさんとローラさんに感謝しなきゃね」
店内は模様替えの途中で、ハンガーラックや店内の備品はそのまま譲ってくれたそうだ。
「ローラさんが色々と譲ってくれたお陰で明日には開店出来ると思うわ」
「開店が楽しみね、手伝えそうな事があったら、アリーチェも手伝うからね」
「ありがとうアリーチェちゃん、なにかあったらお願いするわ」
アリーチェは店を出て商人ギルドのわき道に入りシルフを呼んだ。
「はい、お呼びでしょうか」
ライトグリーンの髪に白いシャツと白と緑のストライプの膝丈スカートを着たお洒落なシルフが現れた。
「この前調べてもらった、ローラさんの所へ案内して欲しいの」
「分かりました」
アリーチェとシドはシルフについていった。
街を南北に分けている大通りを渡り、南側の平民街に来た。
北側の街は、石やレンガ造りの建物が多いが、南側は木造の平屋が多かった。
たまに二階建てがあり。シルフはその二階建ての建物の前で止まった。
「こちらの2階のあの部屋です」
シルフはそっと2階の窓を指差した。
アリーチェはピエロの魔力を探ってみた。
「ピエロがいるわね。この白い感じのがきっとローラさんね………なんか弱々しいわ。ありがとうシルフ」
「いえ、ではまた」
シルフは光りの粒子となって消えていった。
2階の窓を見上げるアリーチェ、窓に花が飾られていた。
どうやってローラさんを治すかは、話しをしてから決めるつもりだった。
シドには1階で待っててもらい、2階の玄関への階段を登っていった。
ドアをノックするアリーチェ。
「はい、どちら様です?」
中からピエロの声がした。
「アリーチェです」
少しドアが開いてピエロが覗いた。
「………誰から聞いたのかよくここが分かったね。どうしてもローラに会いたいのかい?」
「はい、アリーチェの今の最優先事項ですから」
「ローラの状態もその誰かから聞いて知っているんだね?」
「…………はい」
「そっか………ローラはベッドで休んでてね、布団から出ないと思うしあまり話しをしないかもしれないけどいいかな?」
「はい構いません、アリーチェと会う事で辛い思いをさせてしまうかもしれませんがそれでもローラさんの為に会う必要があります。お願いします会わせて下さい、話しをさせて下さい」
頭を下げるアリーチェ。
「ローラの為にか………分かった。アリーチェちゃんを信じるよ。ローラに聞くと断ると思うから、ちょっとローラの布団を整えてくるね。そしたら声を掛けるから入って来ていいよ」
ピエロはドアを少し開けたまま、部屋の中に消えていった。
少ししてピエロの声がする。
「入って来ていいよ」
アリーチェはゆっくりドアを開けて部屋の中に入っていくと、窓際のベッドに横になっているローラが居た。
かなりの期間ベッドで過ごしていたのだろう、かなり痩せていた。
ピエロはローラさんの左手を握っていた。
ローラの表情は堅く、直ぐにピエロの手を放して布団で顔を隠してしまった。
「彼女がアリーチェちゃんだよ」
ピエロが静かな声で紹介してくれるが、返事はない。
「アリーチェです。ローラさん、私のお人形のせいでごめんなさい。お人形さえ作らなければこうはならなかったと何度も考えました」
ピエロは布団の上からローラをそっと抱きしめた。
「何をすれば償えるのか、私になにが出来るのかをずっと、ずっと考え悩んでました」
布団は小刻みに震えていた。
「違う………違うのよアリーチェちゃん………アリーチェのせいじゃ無い……」
静かだった部屋に震えたローラの声がした。
静かな部屋に布団の擦れる音だけがして、ゆっくりと布団からローラが顔を覗かせた。
「アリーチェちゃんはなんにも悪くないのよ」
だいぶやつれていて、表情にも疲れが見えた。
「でも……人形のせいで」
「ううん、貴族絡みだとたまにある事なのよ?私は命があっただけでもいい方だわ。後は私の問題ね。ただアリーチェちゃんがこの私の姿を見て悲しむ事が心配なの」
「ローラさんは悪くない!」
「ありがとう。私もまだピエロに頼ってるばかりで申し訳ないわ………でもピエロがいないと今の私は…………」
「ローラがいてくれるから、僕は頑張れるんだよ」
ピエロがローラを抱きしめた。
少しして2人が落ち着いてきたのでアリーチェが話し始める。
「少し質問してもいいですか?」
手を握り合ったままの2人が顔を見合わせる。
「ええ、答えられそうな事ならいいわよ」
「ありがとうございます。まずローラさんがケガをしているのを知っている人はどれくらいいますか?正確にお願いします」
「えっ?そっそうだね………あの商人とその時の護衛2人と、後はお医者様と………商人ギルドのダニエラさんくらいかな、ケガをしてからは外に出なかったからそれで全員だと思う」
顎に手を当てて考え込むアリーチェ。
「ふむふむ分かりました。商人ギルドのダニエラさんは、どんな方でしょう。口は堅いですか?」
あまり関係なさそうな事バカリズム聞かれて戸惑うピエロとローラ。
「まあそりゃあ商人ギルドの人だから、商売に関する情報は絶対漏らさないと思うよ?ギルドでもかなり優秀な人だと聞くしね」
「なるほど。では次にお医者様は口が堅いですか?」
「お医者様かぁ、口が堅いかって言うと普通かな、半年前に医者を辞めて故郷の街に帰ったから、この街にはいないから確認出来ないけどね」
「うむっそれなら結構。ローラさんに会わないなら大丈夫です」
(お医者様は大丈夫で、ダニエラさんは交渉次第か………まあ大丈夫でしょ。あの商人たちには天罰を当てちゃってもまだ許せないわまあそれは後にしてと)
そして決断したアリーチェ。
「これから私の秘密を少し話しますが、ずっと秘密にして欲しいのです。誰かに知られちゃうとアリーチェがちょっと困った事になっちゃうので……」
ピエロとローラは、アリーチェがとても真剣な表情ではあるが子供の秘密だからと思い、微笑ましい気持ちで返事をした。
「もちろん秘密は守るわ」
「もちろん秘密は守るよ」
アリーチェは頷いて二人を見てから、自分が魔法の才能がありローラさんの手と足を元に戻す魔法が使える事だけを伝えた。
ピエロもローラも流石に信じる事は出来なかった。
「アリーチェちゃん、ローラを治したい気持ちはありがたいけど、そんな魔法は聞いた事がないし教皇様にも出来ない事だから冗談としては流石に言い過ぎかな」
「冗談ではなく本当の事です。信じて下さい」
ピエロもローラも苦笑いする。
「いや、アリーチェちゃん……」
「それじゃあ本当だったら秘密を守ってもらえますか?」
困った様子のピエロとローラ。
「そりゃあ本当だったら秘密にするよ。大騒ぎどころじゃないからね」
「そうね、アリーチェちゃんが手の届かない人になって会えなくなっちゃうものね」
「ありがとうございます。ではここでローラさんを治しますので、カーテンを閉めてローラさんの布団をはずしてもらえますか?」
布団をとるのには抵抗があったが、ピエロとローラはアリーチェの為に子供の遊びにつき合うつもりでカーテンを閉めて言われたとおりにした。
アリーチェはベッドに近づいて、肘から先を失っているローラさんの腕に触れて集中し始める。
ルナに教わった事を思いだしながら魔力で腕を包み込み、DNAと再生のイメージをして魔力を注ぎ込む。
ローラはアリーチェが触れている所がほんのりと暖かくなってきて戸惑った。
目を閉じて真剣な表情で集中しているアリーチェ。
そして閉じていた目を開いてアリーチェが唱える。
「『リジェネレイティブ』!」
腕が輝きだしたのを見て、ローラとピエロは、目を見開いて驚いた。
「「ええっ?」」
その光りはゆっくりと肘から先にのびていき、手のひら、そして指先まで伸びて、綺麗な右腕の形になった。
そして更に輝きを増したかと思うと、ゆっくりと消えていった。
光りが消えた後には、ローラの右腕が綺麗に指先まであった。
「ふぅ~成功かしら……じゃあ続けて左足もいくね」
驚愕するピエロとローラを余所に、アリーチェはローラの失っている左膝から先を治す為に、左太ももに触れて集中し始めた。
そして唱える。
「『リジェネレイティブ』!」
左の膝から先に光りが伸びていき、光りが元あった左足の形になると、右手の時と同じように更に輝きが増して、そして光りが消えた後には綺麗な左足があった。
ローラもピエロも信じられないと言う表情をして固まっていた。
ローラは指先に力を込めてみた。
ゆっくりと動く指先を見て、ローラの目から涙がこぼれ落ちた。
ローラは治ったばかりの右手も使って、両手で顔を覆って泣いた。
ピエロも泣きながらローラを抱きしめた。
ローラは右手でベッドサイドに居たアリーチェを抱き寄せた。
「信じられない………ありがとう………ありがとう………アリーチェちゃん」
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